続・サンタロガ・バリア (第83回) |
なんかせわしくて、2月も末だというのにまだSFMも目にしていない。
これといったCDもコンサートも聴いてないので、なんかあったかなあと首をひねっていたら、ボブ・ディランのDVD『ノー・ディレクション・ホーム』を安売りで買っていたのを思い出した。以前にも書いたことがあるけれど、ボブ・ディランにはほとんど思い入れがなくて、レコード時代に1枚、CD時代になってからも2枚ぐらいしか買ってない。
レコードは『欲望』でCDは『ナッシュビル・スカイライン』と『ローリング・サンダー・レビュー』だ。『ローリング・・・』は『欲望』の頃のライヴだから買ったのだが、『ナッシュビル・・・』はなぜそんなものを買ったのか思い出せない。それなのに広島公演は2回見に行っている。ネットで調べると94年と01年のコンサートだったらしい。94年は黒ずくめのスーツみたいなのを着て中折れ帽みたいなハットを被って黙々と演奏するバック・ミュージシャン(ただし、ドラムだけは派手なセット)と何もアナウンスせず坦々と無愛想に歌い続けるディランが印象的だった。01年は打って変わって、よくしゃべり、精力的に歌いシャウトするディランで、曲のアレンジが以前とまったく違っていて何の曲を演奏しているのかサッパリわからないという状態。超有名曲もサビにきてはじめてそれとわかるくらいだった。当時このライブを聴いたディラン・ファンのブログを読んだら、追っかけ初日はその人でも何をやったのかセットリストを見るまでわからなかったらしい。で、ディランのDVDは、ディランはどうやってディランになったかという内容。ミュージック・ドキュメンタリー映画としてはとても良くできている。さすが、スコセッシ。
いわれりゃ確かに無かった再録アンソロジーの第1弾、大森望・日下三蔵編『年刊日本SF傑作選 虚構機関』は、雑誌掲載短編をリアルタイムで読むことが滅多にない御仁(自分のことだ)には便利で新鮮なシロモノ。編者の序文・あとがきに「2007年の日本SF界概況」だけでも一読に値すると思うが、それでは編者も面白くなかろう。で、肝心の中身だが、短編としてオーソドックスな長さの作品がどれも読みやすくそれなりに面白い(平谷美樹の幽霊屋敷ものは好き)がビックリするようなものはなく、ショートショート的な長さの作品は面白さがピンと来ないものが多い。中では円城塔の未発表作という「パリンプセスト あるいは重ね書きされた八つの物語」がやはり強烈な印象を残すが、一読分かりやすそうで、さっぱりわからないのは今までと同じだ。北國浩二の小説技法上の狂った論理と伊藤計劃のリアルな狂気はどこでつながっているのだろう。
ブルーが印象的なジャケットを見て、トラフィックの昔のアルバムを思い浮かべたのはいいが、タイトルが思い出せなかったウィリアム・ギブスン『スプーク・カントリー』。浅倉さんの訳だというのに、バラバラに始まるイントロ群になかなかなじめず、読むのに時間がかかった。半分くらいまでくれば後は早いのだけれど、キャラにに馴染んでしまうと、今度はちょっとスケールが小さいような、などと贅沢な不満が頭をもたげる。読み終わってしまえば、これまでのギブソンの感触がよみがえってきてそれなりに満足してしまうんだが。ちなみにトラフィックのアルバムはググってみたら『オン・ザ・ロード』でした。最初に頭に浮かんだのは『ロウ・スパーク・オブ・ハイヒールド・ボーイズ』だったんだけれどね、年々記憶が怪しくなるばかりだ。
積ん読状態の内に、『SFが読みたい! 2009年度版』の第1位になってしまったロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』上・下は、確かに2000年代の真っ当なハードSFだった。誰だってイーガンの『宇宙消失』を思い出す設定だけれど、作者の力は語り手を通じて登場人物たちのそれなりにリアルな生涯に注がれている。小説家としての力量なのかそういう風にしか書けないのかはわからないが、キム・スタンリー・ロビンスンよりもずっと普通の小説に近いオーソドックスな人間ドラマ(語り手を含め、元々あり得ないキャラたちだけれど)を展開させている。SF的な大仕掛けの方はこの後の第2部第3部でどうなっていくのか期待出来るかも(まさか、ナンシー・クレスみたいなことにはならんだろう)。まあ、昨年のベストは『夏の涯ての島』なので、それがひっくり返ることはなかったけれど。それにしても「SFが読みたい!の早川さん」が色っぽくなっていたのには驚いた。