ウィアード・インヴェンション〜戦前期海外SF流入小史〜014

フヂモト・ナオキ


ドイツ編(その二) <科学画報>のハンス・ドミニク

 戦前のドイツ作家といえばこの人。ハンス・ドミニク(1872〜1945)。いや、大親分のラスビッツについては、戦前にも読んで粗筋紹介してる人はいるんだが、そのものずばりの翻訳とか翻案には未だ遭遇せず、作品が訳されてるのは弟子格のこちらになるのよな。
 って、通ってた学校にラスビッツが先生でいてたとゆーうだけで直接、厳しいSF指導を受けたとかゆーことはないはずやが。

 <科学画報>に小説が三本載ってるということは昔から知られているものの、原作、これじゃね?
 と、特定されていたのは、長編『原子破壊戦』だけだろう。それが今やネット上の情報が増えて、「紀元二千年の汽車旅行」に至っては翻刻テキストがウェブ上にありますよ。

 もう一本の「金星探検記」は恐らくKolonien auf der Venus?だろっ、と目をつけて<Die Woche>をめくっていたら、大当たり。

 ドイツのドミニク・ファンの人が、ウェブ翻訳でここを読む前提で、書かなきゃいけないんで、ちょっと口ごもっちゃうわけだが、いや、ドミニク信奉者でも、認めるやろ。よりによって、なんでまたこんなつまらんものを。
 もっとも本家の『原子破壊戦』は結構好評を博しているような気がしないでもないが、邦訳は途中で無理やり終わらせている節があって、なんじゃそりゃな作品になっている。

 SF以外の訳としては戦後に『わたしたちの物理学』1965・白水社という物理の本が、普通に訳しても超訳になってしまう、小川超先生の訳で出ています。バリバリの文系で東大でドイツ語を教えてた人なので、理系のお友達にお知恵拝借ってことで、Das Buch der Physik fur die Jugend(1958)を訳したらしい。
 それから映画『メトロポリス』の日本での公開の模様を丹念に追った、松中正子/会津信吾「メトロポリス伝説」『妊娠するロボット』2002・春風社所載で指摘されているのが、小池新二訳「メトロポリス」<映画批評>昭和3年1月で、ドミニクによる映画紹介の一文。

 <Die Woche>を引っくり返していて気づいたのだが、ドミニクがテクストをつけている未来都市の図版が<科学画報>で使われているのを見た記憶があるので、日本でつけられている解説文にも、ドミニクの文章が流用されている可能性はありそうやね。
 ということで、日本のドミニク研究者は、がんばって調べていただきたい。って、誰。

<科学画報>掲載作は以下。

 「紀元二千年の汽車旅行」は、とっても早い汽車で休暇旅行に行きました、という話。「金星探検記」は太陽系探検、開発の未来史を短くまとめました、ってなもの。『原子破壊戦』はアメリカ企業の核分裂による新元素と新エネルギーの開発競争に参加したドイツ科学者が産業スパイの暗躍等で人間不信に陥り、心折れて、柴漬け食べたいっ、とばかりに懐かしの故郷ドイツに帰っちゃう話。もっとも、どう考えても邦訳は短すぎるので、原作にはその先の展開があるはず、と見た。編集部からのコメントはないのだが、連載が終了してすぐに、原田光夫が編集長に返り咲いて誌面改革を始めるので、原田に嫌われたのか。

 前にも書いた通り、大きな声ではいえないが、なんじゃそりゃ、な読後感の残るものばかり。ドイツ本国での評価(受容ぶり)からすると、ハズれなとこを狙って訳してるのではと疑いたくなるところ。
 ドイツSFの研究となると識名章喜先生ということになるかと思うんですが、ハンス・ドミニクの長編をまとめて読んで、正直なところを発表していただきたいと切に願う次第。

 ところで、Synergenという小出版社がハンス・ドミニクを中心としたドイツの初期SFの発掘、リプリント活動を行っているんですが、ここの出版物についても、まとめて読んで評価をお願いできんものか。ド素人が、見ずてんでまとめて発注するには、少々お高いので、専門家に是非ともエバリュエーションしていただきたい。
 実のところ、乱暴にホッチキス止めされたコピーの束かなんかが送られてくるのではとびびりつつ2、3冊注文。届いたのは、丁寧に製本テープで製本されたプリントアウトで、さすがドイツ、マイスターの伝統は伊達やないねと感服。って、ほめてることになるのかっ。


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