内 輪   第198回

大野万紀


 『SFが読みたい! 2007年版』が発売されています。THATTAではこのところ原稿を落とすことの多い水鏡子も、「AIテーマの注目作考察」として「『ラギッド・ガール』『アイの物語』『第九の日』「私と私でない私」が語る物語」いうタイトルの力の入った論考を発表されています。ここでニュー・スペース・オペラを仮想敵として挙げたりするところがいつもの水鏡子ですが、アンフィロフ「私と私でない私」を出してくるのは、さすがあっぱれなところです。喫茶店ではアンダースンの「わが名はジョー」のことも話していたのに、カットしたのかな。

 ごめんなさい。今月は何だか余裕がなくて、読み終えたのは3冊のみ。うち2冊はマーティンの『剣嵐の大地』です。でもこれって普通の本の何冊分あるんだろう。おまけに、大河小説の途中の巻だから、あんまり詳しい内容も書くわけにいかず、ずいぶん短い感想になっています。来月はもう少し何とかがんばろう。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『剣嵐の大地(2)』 ジョージ・R・R・マーティン 早川書房
 3分冊の2冊目。表紙が恐いんですけど。ここに来て、前巻で別々に動いていた視点人物たちの物語が、いくつか交差し始める。このあたりのストーリー展開はうまいよなあ。そして(そうなるんじゃないかと心配していたが)立て続けに起こる悲劇、惨劇。暗い運命をたどる登場人物たちがいる一方、大きな物語に巻き込まれていきそうな、特別な光を当てられる人物もいる。まさに群雄割拠の戦国絵巻だ。これらが3巻目でどのようにからまり、進展していくのか。でもこのシリーズはこれで終わりじゃないものね。

『剣嵐の大地(3)』 ジョージ・R・R・マーティン 早川書房
 3分冊の最後。やっぱり表紙が恐いよ。登場人物たちはますます悲惨で過酷な運命に巻き込まれていく。波瀾万丈だねえ。死んでしまう主要人物もいれば、絶体絶命で、それでも生きている人物もいる。中原でお家騒動や権謀術策が渦巻く中で、北方ではシリーズタイトル(氷と炎の歌)の通りの異次元の戦いが繰り広げられる。これがいい。ちょっと「指輪」の戦争シーンを思い浮かべるが、大迫力で、さすがに異星の奇怪な生物を書かせては当代一のSF作家マーティンである。しかし、どのストーリーもこれから一体どうなるのかという強い引きのシーンで終わっており、第4巻が訳されるまで待つのが辛いよなあ。

『アイアン・サンライズ』 チャールズ・ストロス ハヤカワ文庫
 『シンギュラリティ・スカイ』に続くストロスの邦訳第二弾。続編ではあるが、独立した長編として読める。しかし、前作とはずいぶん調子が違っている。確かにシンギュラリティ以後の世界を描いていた前作と比べ、本書はずいぶんと普通のスペース・オペラ、というかサスペンスSFである。シンギュラリティ後のオーバーマインドな連中も出てくるが、あんまり中心的ではない。主人公は黒ずくめの16歳の少女、ウェンズデイだし、前作で出てきたレイチェルやマーティンといった国連側の人物も、スパイスリラーのヒロイン、ヒーローとして活躍する。敵はこれまた狂信的で残虐非道、人間性ゼロの悪いやつらで、とってもわかりやすいエンターテインメントである。あいかわらず長いけど、どんどんと読めるし、ザコ以外はみんな凄い能力をもった連中ばかりなので、はらはらどきどきしながらも、安心して読める。で、まあ面白く読み終えて、ニュースペースオペラといってもこういうのなら読みやすいなあ、と思いつつも、前作の破天荒さが懐かしく思えたりもするのでした。


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