みだれめも 第190回

水鏡子


えー、よしながふみとうぶかたとうの2本立て、それに最近読んだコミック関係いろいろとかをまとめてみる予定で、今回は時間も十分あるはずでしたが、アリスソフトの『戦国ランス』から抜けられなくて、またまた沈没。よしながふみの単発です。

  ★★★★
  ★★★☆
 ★★★★☆
    ★★
    ★★
    ★☆
   ★★☆
   ★★★
    ★☆
     ★
よしながふみ『大奥@A』(未完)白泉社
よしながふみ『西洋骨董洋菓子店@〜C』(完)新書館
よしながふみ『フラワー・オブ・ライフ@〜B』(未完)新書館 
よしながふみ『こどもの体温』(連作集)新書館
よしながふみ『愛すべき娘たち』(連作集)白泉社
よしながふみ『彼は花園で夢を見る』(連作集)新書館    
よしながふみ『それを言ったらおしまいよ』(短篇集)
よしながふみ『ソルフェージュ』(短篇集)白泉社文庫
よしながふみ『ジェラールとジャック』(連作集)白泉社文庫
よしながふみ『執事の分際』(連作集)白泉社文庫 

 病弱の七代将軍逝去を受けて、新たに将軍になった徳川吉宗(女)は、質素倹約の方針のもと800人もの男を抱える「大奥」の改革に乗り出す。わりのいい奉公先と割り切ってその末席に連なっていた主人公(男)はひょんなことから吉宗(女)の最初の男として見初められ、変革の嵐に翻弄されることになる。

 『大奥』の第1巻である。
 京フェスで三村美衣が絶賛していた。作品も、作者も褒めまくっていた。聞いたこともないのも道理、ボーイズラブ系の漫画家である。例会でおばさまがたに聞くとそちらの方では一方の雄(?)だそうだ。『西洋骨董洋菓子店』の作者と言われると、たしかにそんなタイトルの本が常時平積みにされていたのを見た記憶が浮かんでくる。作者の本を店屋でチェックしてみると、かなり寡作で、しかも大半が入手可能な状況にある。この膨大な出版洪水の中で、寡作でありながら常駐されているということだけでも人気のほどはよくわかる。この量なら、とりあえず拾えるものは全部拾ってみようかと思ってしまうところが、ぼくの困ったところで、『執事の分際』とかを半分目をそむけながら読み進んだ。なにが悲しゅうて男と男のセックス・シーンを読まなきゃならんのか(だれも読めとは言ってない)とぼやきつつ、ホモでなくレズ・シーンなら平気なのになとか思ったりして、ああ女がホモ漫画を読むというのはそういうことなのかとか勝手に納得したりした。長い少女マンガの読書歴の中では、吉田秋生や竹下恵子、山岸涼子や青池保子などなどと、それこそ枚挙にいとまのないくらいホモ気を加味した代表作を抱えたメジャーがいるわけで、とりあえずホモ的展開にもある程度免疫はできているつもりでいたけど、ああ、あのあたりの作風はコンシューマー仕様であったのだなと再認識した。BLジャンル仕様はやっぱりしんどい、読みたくない。
とりあえず、上の6つはコンシューマー仕様。なかにはホモっ気皆無の話もある。うしろの方のは、たとえば『ソルフェージュ』に入っている「本当に、やさしい」(別本では短編集の表題作)なんか、一読すげえ、とか思ったりするものもあるけれど、できることなら無理をしてまで読みたくない。まだ未読(未入手)の本が何冊か残っているけれど、そっち方面の本のようだし、今回一応まとめ読みしたので残りはパスするつもりである。

 『大奥』第1巻設定は、江戸時代初期、男だけを死に追いやる伝染性疾病が日本全土を蔓延し、すべての社会体制は女性中心に作り直されたという設定。同時に諸外国の侵寇を警戒し、国の中枢を司る人々はすべて男子としての二つ名を持ち、体制を維持している。
 この徳川吉宗の時代には、今の体制が古来から続いてきたものと信じられ、昔は将軍が男だったということなど誰も知らない世の中になっている。
 そんな設定を大奥勤めにあがった男の目にする日常ドラマをあくまで主体としながら展開する。男女逆転社会について、うまいなあ、よくがんばっているなあといった評価と同時に、実力派の作家が設定を思いつけばそれなりに仕上げられないことはない、それほど大騒ぎする本でもないという中の上程度の評価だった。
 ところが第2巻で作者は更なるちからわざに挑戦する。徳川家光の時代、この男女逆転社会の成立過程を描き出そうとしてみせるのだ。家光の時代というのは、たしかに慧眼で、鎖国や各種諸法度を、この制度変革の素材として縦横に活用できる時代である。問題となるのはこの体制を、江戸幕府だけではなく、庶民一般やさらに各大名家にまで徹底させて、過去の史実を封印するにいたる道筋である。第2巻は、まだとば口であるけれど、垣間見える構想にはそこまできっちりやりそうな、そんな気概が感じられる。
 なにより作者のりっぱなところは、これだけ大きな物語を作りながら、設定を語ることに終始せず、あくまで変化の嵐に翻弄される徳川家光(女)とお万の方(男)の男女の恋物語として話を作りあげているところ。
まだ序章ということで、保留部分も残して評価は若干低めにした。

 TVドラマ化もされた代表作『西洋骨董洋菓子店』。大富豪の子供で文武両道なにをやってもできないことはない才能に恵まれながら、幼いころに誘拐されてそのときのトラウマから開放されずなにをやってもうまくいかない男がケーキ屋を開く。集まってきたのはホモで幼馴染の天才ケーキ職人、ボクサーの元チャンピオン、超美貌の持ち主ながら社会的無能力者の幼馴染といったひとくせある人間たち。これに誘拐事件の担当刑事や誘拐犯やらいろんな過去のしがらみがからみあいながら物語が進む。この設定ってもしかしたら伸たまきの『パーム』と似通っていないかとか(同じ雑誌みたいだし)思うけど、マフィア・FBI・CIA、国家巻き込んでの丁々発止と、住宅街のケーキ屋さんでは似たものになりようもなく、ほのぼのコメディが展開していく。
 他の作家なら優に十数巻にのぼる内容を4巻で収まりきらせた部分にせめてもう1,2冊分エピソードを放り込んでほしかったと正直もったいなさを感じる。
 この作者あんまり長い話をだらだら書くのは好きでないようで、どの作品も、結構をきっちりまとめた短編の連作仕様になっている。さらにたとえば『大奥』の場合、1冊目、2冊目、いずれも1冊の読みきり本としてできあがっている。

 『フラワー・オブ・ライフ』はまるで楽園のように楽しい高校生活を描いた集団学園ドラマの傑作。おたく度の高さも特筆もの。テンションの高い緩急自在の表現でこの人のベストといっていい。これもどうやら4冊目で終了させる予定のようで残念だ。
 一般男子へのお勧めはなんといってもこの『フラワー・オブ・ライフ』。これを読んで抵抗感のある人は、ほかのに手を出すことは控えたほうがいいかと思う。次が『大奥』で、3番目が『西洋骨董洋菓子店』あとはまあ人それぞれというところ。

 で、冒頭の三村美衣の絶賛のもととなったのが『まんたんブロードバンド:新世紀エンタメ白書2007』(毎日新聞社)★☆
 毎日新聞社が書店で無料配布している月刊情報紙をまとめたもので、巻頭に作家対談が載っている。「よしながふみ×桜庭一樹対談(聞き手三村美衣)」。つまらなかった。作品からにじみ出る作者の凄みみたいなものがほとんど出ていない。
 本自体は2006年回顧レビュー本の新顔で、レビュー150本の内容は、コミック、ライトノベル、アニメ、ゲームその他、購読層が共通する4つのジャンルを一望する。企画としては悪くないが、それならこの4つを一望しての考現学的総括が必要ではないか。メディアミックスとかそういった文化戦略的な面の紹介ではなく、あくまで文化需要の総括として。そこから降ろしてきての各メデイア別評価・総括というかたちがあれば本としてもっと値打ちのあるものになったように思える。
 批判的表現がほとんどない、ギャルゲーをコンセプトから排除しているなど、発行元である新聞社的限界は否定しようもないが、試みとしては評価すべきかと思う。

※前回報告した置き引きにあった本を発見した。一駅離れたところにある同系列の古本屋の百円コーナーに取られたものと同じ本が3冊あった。組み合わせから見て、同じ本にまちがいない。そういうものだ。


THATTA 224号へ戻る

トップページへ戻る