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第1位
相変わらず大変な水準の高さを示す作品集ではある(津田)
本当にどれも傑作だ。物語と現実の相互乗り入れをSFやファンタジーとして描いた作品だが、その描き方がにくい(大野)
今読むと、これら作品が言うほど難解なわけではない。先入観なく、ウルフの真髄を楽しめる時代になったのだから喜ばしい(岡本) |
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第2位
ロシアの秘伝の味付けの話もあれば、ブラジルの格闘技による復讐譚もある。ちょっと乱暴ではあるけど(でも池上永一ほど乱暴じゃない)とにかく面白かった(大野)
人の生き様を支配する音楽は、ロックンロールをもってはじめて国籍/人種を超えた。だからこそ、20世紀(特に20世紀後編)はロックンロールの世紀なのだと、作者は主張するのである(岡本) |
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第3位
良い短編集だねえ。見事なバリエーションと作品の質の高さは編者の手柄でしょう。どの作品にもプロパーSFの甘みが漂っていて、文学的な野心など薬にもしたくないようなファニッシュなつくりで楽しく安心して読めた(津田)
軽妙なゼラズニイといった雰囲気のある奇想SF「クロウ」や「犬はワンワンと言った」、そしてその独特のレトロ感覚にちょっと驚かされる「時の軍勢」、ニューウェーブっぽい「世界の縁にて」といった作品にも忘れがたい味がある。長編もぜひ読んでみたいという気にさせられる(大野)
『大潮の道』は、(舞台設定が)『ゴーメンガスト』のようだと思ったのだが、短編でもまず設定の面白さに魅かれる。ちょっと文学的な匂い(作者はニューウェーヴ世代)があって、ハードSF的でもある(岡本) |
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第4位(同率)
いやあ、凄いよ。ここには『ヴァーミリオン・サンズ』から『太陽の帝国』(『女たちのやさしさ』は未読)までに培われたイメージのほぼ全てが流れ込んでいる(津田)
バラードは懐旧のみの作家ではない。本書に描き出された“核”や“環境”へのシニカルな視点は、今日/今現在でも有効である。それこそが預言者と呼ばれ、今なお一般読者から支持が得られる理由なのである(岡本) |
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第4位(同率)
本書での安徳帝はほとんど夢の中に現れる存在として描かれるが、その夢の幻想的で儚く美しいこと。夢の中のジパングなど、まさにマルコ・ポーロの見えない都市といった風情である(大野)
相変わらずのエスカレーションが楽しい。特に南宋の壮絶な末路は、あまり日本では知られていないだろうし、結末の奇怪さにも驚かされる(岡本) |
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第4位(同率)
特に人工降着円盤での異常とその調査・対応の物語には、主観と客観の区別のない非実存的知性という存在がネットワーク内に現れるという興味深いアイデアが展開されていて、とても面白く読めた(大野)
本文中の伏線は、結末に明かされる異種の知性体ストリンガーの正体とも絡み合い、お互いが関連することで相乗効果を上げているようだ(岡本) |
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第7位(同率)
確かにイーガンぽく始まるが、後半は小林泰三的に延びていく。あの副脳みたいなのは不気味だなあ。2000年前後に発表されたアンソロジー掲載作はどれも水準をクリア(津田)
SF的で日常性の強い前半部と、この後半部には少なからずギャップがあるのだが、どこかでギヤが切り替わっている。北野勇作とも通じる、このどこか懐かしさのある見せ物小屋的な恐怖の風景にはインパクトがある(大野)
書き下ろされた表題作「脳髄工場」の他、少しずつ自分と異なっていくドッペルゲンガー「友達」や、重なった別世界を暗示する「影の国」(「世にも奇妙な物語」でドラマ化)など、現実のほころびを追求した作品がベストだろう(岡本) |
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第7位(同率)
後の作品は表題作よりも読みやすく、より具体的なSF感覚がうかがえる作品群になっている。「猫の天使」や「星窪」あたりはいい感じだ(津田)
作者は光瀬龍や平井和正が得意とした日本風なサイボーグものに、現代のネットワークやヴァーチャルリアリティの広がりを取り入れたともいえる(大野)
小さなアイデア(猫の視ているものが人にも見えたら、隕石の記憶が感じ取れたらなどなど)がリニアに展開され、読みやすく分かりやすいものとなっている(岡本) |
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第9位(同率)
どれも結構読ませる。スタージョンの「殺人ブルドーザー」なんてSFの説明がなければマジックリアリズム的ホラーになるんじゃないかと思ってしまった(津田)
スタージョンの「殺人ブルドーザー」が目玉だ。確かにこいつは迫力がある(大野)
本書の作品は映像/小説どちらから見ても、大変にマニアックな内容となっている(岡本) |
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第9位(同率)
今回の短編集を読んで強く感じたのはゼナ・ヘンダースンの作品に漂う強烈な不安感だった。ヘンダースンは時代の暗さに敏感に反応していたんだ(津田)
いってみれば人生にはささやかな魔法が存在する。しかしその魔法は結局ささやかなものに過ぎないのだということだ(大野)
残念ながら11編には世評を覆す新発見はないが、中では「おいで、ワゴン!」(デビュー作)、「ページをめくれば」、「鏡にてみるごとく―」が印象に残る。これに未収録の「なんでも箱」(1956)を加えれば、ヘンダースンのベストになる(岡本) |
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第9位(同率)
後半の短編の方が印象に残るものが多い。「シュレディンガーのチョコパフェ」も楽しいが、なんといってもムーア/カットナーを登場させた巻末の「闇からの衝動」に一番惹かれる(津田)
コアなハードSFを書いている著者だが、言語文明の秘密を受け取る主人公が詩人であったり、表題が戯曲から採られているなど、文藝的にも結構スタイルを選んでいる。読み手を最後まで騙す技法も重要だ(岡本) |