みだれめも 第187回

水鏡子


作品 著者 出版社 総合 作品性 興味度 義務感
『Op.ローズダスト 上下』 福井晴敏 文藝春秋 ★★★
『ゴーストなんかこわくない』 ロン・グーラート 扶桑文庫 ★★★
『特盛!SF翻訳講座』 大森望 研究社 ★★★☆
『<美少女>の現代史』 ササキバラ・ゴウ 講談社現代新書 ★★★★
『ライトノベル「超」入門』 新城カズマ ソフトバンク新書 ★★★
『ゼロの使い魔 7』 ヤマグチノボル MF文庫 ★★
『空ノ鐘の響く惑星で H〜I』 渡瀬草一郎 電撃文庫 ★★★
『デルフィニア外伝 大鷲の誓い』 茅田砂胡 中公Cノベルズ ★★
『レディ・ガンナーと二人の皇子 下』 茅田砂胡 角川文庫 ★★
『マリア様がみてる くもりガラスの向こう側』 今野緒雪 コバルト文庫 ★★
『獅子の門 雲竜篇』 夢枕獏 光文社ノベルズ ★★
『パチンコ熱血攻略 CR新世紀エヴァンゲリオン』   スコラマガジン ★★★☆      
『パチンコ最速攻略 CR新世紀エヴァンゲリオン セカンドインパクト』   辰巳出版 ★★★★      
『パチンコ熱血攻略 CR新世紀エヴァンゲリオン セカンドインパクト』   スコラマガジン ★★★★      

 4月の頭に「魂のルフラン」を5日連続鳴らす壮挙を成し遂げた。それもちがう店のちがう台で。一日あたり3〜4万円をゲットしたのはいいけれど、やっぱりあぶく銭の意識が強くてその後の2週間でほぼ全額を吐き出した。金の使い方がとんでもなく荒くなって、これはいかんわ、とさすがに意識に急ブレーキがかかって、やっとパチンコ三昧がとまったところである。前回飛ばしたいちばんの理由はそのあたりにあります。ごめんなさい。

 2月の終わりくらいだっけ。コンビニの棚に『パチンコ最速攻略 CR新世紀エヴァンゲリオン セカンドインパクト』を見つけて、あ、新機種が出るんだと買って帰って読んでみたら、もう出ている。あわてて、導入店を調べて日夜行脚して回った。このパチンコ攻略本、コンビニでちょっとほかのも覗いてみたらわかるけれど、上質紙全面カラー印刷100ページで大体500円前後。広報雑誌という一面はあるにしろ、この値段設定を可能にする発行部数を想像し、かなり驚く。おまけに内容が濃い。エヴァ機製作にいたる経緯をめぐるメーカー、ガイナックスとの座談会とかはまあ、趣旨として妥当だろうけど、全26話+映画版あらすじ紹介とか長沢美樹(伊吹マヤ役)声優インタビューなんてとこにいくとパチンコ雑誌の枠を越えているだろう。綾波、アスカ、ミサトならまだしも、伊吹マヤですからねえ。編集者の入れ込みが感じられる。ちなみに『熱血攻略』と『最速攻略』は出版社名はちがっているけど、編集人も出版社住所も同じである。(初号機『パチンコ熱血攻略 CR新世紀エヴァンゲリオン』は古本屋で買った。)

 エヴァンゲリオン関係では、あとひとつ。同じ4月頭に古本屋にエヴァ、ガンダム関係のビジュアル本を中心にした大量の出物があった。あきらかにひとりの人間による放出品で、レベルが非常に高い。現実に目覚めたマニアの夢の果てといった趣がある。美少女フィギア系の雑誌が大量に100円で並んでいるのに、心を動かされたのだけれど、20歳前後の若い衆ならともかく50男がこういうものを買ってしまったら人間おしまいだろうと押しとどめる心中の強い声に促され、買うのを断念した。ぼくの基準のなかでは、エロゲーよりも美少女フィギアの方が、より買ってはいけないものになる。数日後、覗いてみたら、きれいさっぱり浚われていた。

 この日買った主な本。:『貞元義行画集:Der Mond』、『大悪司 オフィシャルガイド』、『大番長攻略ガイドブック』、『ガンパレードマーチ攻略情報&設定資料』、『山田章博:夢の博物誌』ほかエヴァ本数冊。
 古本屋でぽつりぽつりと拾っているエヴァ本、コミック本以外ほとんど読んでいないのだけど、トータルでたぶん50冊以上100冊以内といったところか。何を持っていて、何を持っていないか整理が悪くてよくわからない。

『Op.ローズダスト 上下』 福井晴敏の新作。上部組織の裏切りにあった自衛隊の特殊部隊の生き残りがテロリストとして日本に宣戦布告する。自衛隊基地やイージス艦、潜水艦といった限定された空間を主要舞台に、暗躍、秘史のレベルで展開されていたものと同じ話(同じ話!)を表舞台で派手に展開されただけでなんか嘘っぽくなる。ローズダストという言葉と「新しい言葉」という思想が必ずしもうまく重ね合わされなかった。最後のあのシーンに結びつけたい意図も含めて計算ちがいを感じる。基本的にテロ側の計画が妨害不能の周到なものとして練りあげられ、結果的にその頓挫が主人公たちの直感と偶然に委ねられてしまったところなど、この作者、攻めは得意だが受けはあまりうまくないという印象を持った。

『ゴーストなんかこわくない』新しい海外SFの翻訳がとことんされない不作の時代があって、その当時SFマガジンに訳された数少ない作品のひとつがロン・グーラートのこのシリーズで、こんなものよりほかに載せるものがあるだろうと怒った記憶がある。ハリウッドや西海岸の広告業界の内輪話を交えた深刻さのほとんどないゴーストハンターものである。帯で「理屈抜きに楽しい怪談」と書かれているように、理屈を求め、何かを求めようとしなければ、センスといいテンポといい申し分なく快調な心地いい快作。SFMにも掲載されてわたしが怒った第一作「待機願います」がいちばんいい。

『特盛!SF翻訳講座』大森望 研究社
 自伝的要素もあるけれど、基本的に翻訳実践講座である。老舗。研究社から出ているこれが一般書の棚で平積みにされるのだからエラいものである。
 矢野さん柴野さん浅倉さん伊藤さんを始めとしてSF関係の翻訳者が集まって、年に何回か温泉地で「翻訳勉強会」なるものが開かれていてて、ネイティブを呼んで翻訳の疑問点を教示してもらうといのが趣旨の集まりだけど、徹夜で話す業界ネタや翻訳技術論があまりに面白いので、英語も読めないくせに、繰り返し参加していた。その当時の若手組の話なんかの記憶が甦ってくる。
 連続性のある連載だったので、まとまりのある項目は個別に小見出しで区切るより目次的には固めた方が、長短が生まれてよかったのではないか。呼んでいて、ちょっとぶつ切りにされる印象がある。

『<美少女>の現代史』ササキバラ・ゴウ
『戦時下のおたく』で現在のおたく像を「視線化する私」という概念でまとめてみせたササキバラ・ゴウの、思考の基本を成す本といえる。「見ること」「見られること」という概念から男性おたくの「暴力性の回避」と「迂回された暴力性の発動」といった地点に結論される、アニメ、コミック、ライトノベル、ギャルゲー、を包括する美少女キャラ全盛の包括的現象論、文化論として、きわめて示唆に富んでいる。ただ、トリトン、宮崎アニメ、吾妻ひでおからはじまる「美少女論」は基本的に送り出し側の文化論になる。現在文化の分析としては、契機であるか時代としての表出か、議論の分かれるところだけれど、エヴァについての言及が弱い気がする。

『ライトノベル「超」入門』新城カズマ ソフトバンク新書
 この人の書いた『サマー/タイム/トラベラー』以外の小説でも感じたことだけと、ポイントのつかみは非常にきっちりしているのだけど、出版された商品として、非常に粗雑なものがある。ラフ・スケッチをそのまま本にされた不満が残る。じっくり書けば十年読み継がれる名著になりそうなのに、せっかくの内容がもったいない。
 あと一般人向けと断っている本にしては、業界内的言い回しが頻出しすぎ。キャラ類型解説で、名前のまちがいをひとつ発見した。
 しかしこの本で紹介されている本・アニメ・ゲームの9割以上<わかる>というのは、あんまり自慢できることではないような気がする。
 1ページ1年の巻末年表は、その取捨選択を含めて読み応え(見応え?)あり。

『ゼロの使い魔 7』、『空ノ鐘の響く惑星で H〜I』、『デルフィニア外伝 大鷲の誓い』『レディ・ガンナーと二人の皇子 下』、『彩雲国物語 藍より出でて青』、『マリア様がみてる くもりガラスの向こう側』、『獅子の門 雲竜篇』と読みつづけているものは、どれも勢いが感じられない。


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