岡本家記録とは別の話(Thatta SFベスト篇)

 岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。12月は 『ある日爆弾がおちてきて』、『さまよえる天使』、『夜市』、『現代SF1500冊回天編』、『ストリンガーの沈黙』、『記憶の食卓』、『空獏』などを収録。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。

 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

2005年SFベスト10(国内外問わず)

 7月に上半期のSFベストを選びましたが、今回は2005年(SFマガジン式に2004年11月から2005年10月)のSFベストを発表します。例によって、Thatta執筆者4名( 水鏡子、津田文夫、大野万紀、岡本俊弥で、もともと数値化しているのは水鏡子だけ)のレビューを基にした勝手ランクなので、参考程度に見てください。 世の中の数値評価、業績評価なんてこんなもんですし(無責任)。
 

Amazon『宇宙舟歌』(国書刊行会)

第1位 R・A・ラファティ『宇宙舟歌』(国書刊行会)

パワフルでゴージャスな傑作(水鏡子)
もはや何もいうことがない(津田)
いささか扱いに困る大傑作(大野)
お話が明快で受け入れやすい(岡本)

 

Amazon『輝く断片』(河出書房新社)

第2位 シオドア・スタージョン『輝く断片』(河出書房新社)

スタージョンの短編集としても最良最強の作品集(水鏡子)
『不思議のひと触れ』よりクォリティが上かもしれない(津田)
評判通りの傑作短編集(大野)
本書は奇妙な犯罪者たちの物語である(岡本)

 

Amazon『老ヴォールの惑星』(早川書房)

第3位 小川一水『老ヴォールの惑星』(早川書房)

頭の中で理想化された50年代アメリカSFに近い(津田)
若書きっぽさはあるがいずれも力作であり、今年一押しの短編集である(大野)
本書から感じ取れるのは、著者の“あくまでもポジティヴ”な姿勢である(岡本)

 

Amazon『どんがらがん』(河出書房新社)

第4位 アヴラム・デイヴィッドスン『どんがらがん』(河出書房新社)

こんなにうまい作家だったのかとあらためて感心させられた(水鏡子)
アイデア・ストーリイと世界文学がこんなにも簡単につながっているなんて誰が信じるんだ(津田)
奇想作家という枠組みで、ようやく「正当に」読むことができる(岡本)

 

Amazon『沼地のある森を抜けて』(新潮社)

第5位 梨木香歩『沼地のある森を抜けて』(新潮社)

理も立ち、情もあって、スケールもでかい(水鏡子)
本格SFの味わいをもたらす(大野)
幅広く、命の起源にまで遡る生命科学をベースに、生物の意味を問う意欲的な解釈がこめられている(岡本)

 

Amazon 『高い城・文学エッセイ』(国書刊行会)

第6位 スタニスワフ・レム『高い城・文学エッセイ』(国書刊行会)

SF界ナンバー1の知性だと唸らせるに十分だけれど、ロッテンシュタイナーが批判していたようなズルさや偏狭さも目立っている(津田)
SFの分野にこういう科学と文学の両方に詳しい口うるさいおじさんがいるということは、とても安心できることなのだ(大野)
エッセイは何れもレムの思索の深さを証明している(岡本)

 

Amazon 『アジアの岸辺』(国書刊行会)

第7位 トマス・M・ディッシュ『アジアの岸辺』(国書刊行会)

ありふれた物語に主人公の認識論的実践が重なるところがミソ(水鏡子)
表題作が一番印象に残る作品で、確かにマスター・ピースたる雰囲気をたたえている(津田)
諸星大二郎の「生物都市」のように、個が溶け合って集合的な存在に融合してしまう物語(大野)
かつてディッシュは“冷たい作家”とみなされたけれど、今ではそれも“クール”なのである(岡本)

 

Amazon『ランクマーの二剣士』(東京創元社)

第8位 フリッツ・ライバー『ランクマーの二剣士』(東京創元社)

女性陣は生気にあふれ、世界は猥雑で退嬰的で美しく、不満を補って余りある魅力にあふれている(水鏡子)
これが楽しめるのはやはり人生のささやかな希望ではなかろうか(津田)
良くできた、余裕のある大人のためのエンターテイメントだ
(大野)

 

Amazon『ベルカ、吠えないのか?』(文藝春秋)

第9位 古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』(文藝春秋)

ウォルター・ミラー・ジュニアの「大いなる餓え」を連想する(水鏡子)
この戦争の時代に、犬たちにとってのエポックがある(大野)
本書は犬を媒介にした黙示録である(岡本)

 

Amazon『タフの方舟1』(早川書房)

第10位 ジョージ・R・R・マーチン『タフの方舟1』(早川書房)

楽しみ方も含めて安心して予測ができる親近感がある(水鏡子)
極上のエンターテインメントを作り出している(津田)
これぞ正しい娯楽SF(大野)
本書が分かりやすい理由は、韜晦さを排した明快な構造と、知的/倫理的な展開そのものにある(岡本)

 

 似ているようで結構作品に対する見方の違う4人で平均すると、一般的な評価とはやや異なる結果になったように思います。評価に用いた数値はこちら(評価者が3人以上の作品から、ベストが選ばれています)。

 通向けで、恐らくマガジンベストテンには入ってくる、グレッグ・イーガン『ディアスポラ』(むずかしすぎ)とか池上永一『シャングリ・ラ』(むちゃくちゃすぎ)、瀬名秀明『デカルトの密室』(かんがえすぎ)が入っていませんが、この辺は嫌いな人は嫌い(津田文夫の低評価が効いている)ということで、それなりに分かる結論ですね。こうしてみると、翻訳SF小説は高級ブランド路線で成功、国内SFは文学系のSF化が進む状況です。来年もこの傾向は維持されそうです。


 それでは、また来年も宜しくお願いいたします。

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