みだれめも 第176回

水鏡子


映画「ローレライ」
 『終戦のローレライ』の映画版。
 もう少し期待していたのだけどね。こんなチャチになるとは思わなかった。
 もともと無理の多い展開を、想いの熱さと文章の厚みで塗りこめて、どう考えても成功おぼつかない話が完遂されるところに逆に感動を生み出していた作品だけど、ドラマ部分がパーツも裏打ち描写も思いっ切り端折られて、シンプルになったぶん無理筋がモロになり、ドラマのうそ臭さが特撮シーンもチャチに見せた。
 細かい部分の配慮に欠ける部分が目についた。広島の原爆投下の次の日に、艦長が寄せ集めの乗組員に原子爆弾の説明をする冒頭シーンは、情報隠蔽に必死な戦争末期の軍の体制としてはどうかと思うし、『罪と罰』にしつこく言及し、「神殺し」とまで口にしながら、東京原爆投下の背景に天皇のテの字も触れられない。曹長の心変わりにしても唐突に見える。
 原作を読んだときには、映画の主題歌は「椰子の実」しかないと思ったけれど、この展開では「椰子の実」の出番はない。物語の収束点がボケた印象がある。死地に向かう一同の歌声がパウラに伝わる原作は理屈が合うけど、パウラの歌声がかれらに届くのも変だ。
 時間内で片づけるにはしかたがない結果だったのかもしれないが、原作の感動と比較して、潜水艦1艘がちょこまかしてひとつの使命を達成する太平洋戦争小秘史の域を出ない作品になった。タイタニックまがいのラストはなんなんだろう。

谷甲州『パンドラ』(上) (下)★★★
 ここでの無理筋は冒頭の宇宙ステーション事件からはじまるアルジャーノン・パーツ。流星雨となって降り注ぐ戦略があるなかで、なぜこういう華々しい動きが必要かとか、書き込まれているにも関わらず、人間ドラマ部分がドラマとして完結していないとか、異質な存在である異星人が地球人の民族的文化的軋轢を知悉した戦略を立てていくのはヘンでないかとか、とくに後半、各国の政治的対立や宇宙計画のプロセスのなかでの事故や摩擦の話が肥大しすぎとか、とんでもなく大量の情報を盛り込んだ意欲の裏目部分が目についた。読んでいる間はそう気にならな いくらい書き込まれた内容は刺激的だし臨場感にあふれていたりするけれど、読み終えて感じるところは、クライマックスのカタルシスの欠如、重要そうにでてきたテーマや伏線やキャラが姿を見せなくなるといった連載小説にありがちなバランスの狂い、といったマイナス面だった。

ロバート・アスプリン他『銀河おさわがせドギー』
 フールのお父上のカジノ来訪、ローラ&アーニーのフール誘拐計画、環境団体のオメガ中隊視察、オメガ中隊に配属されるウサギ型異星人新兵の話、ハンターに偽装した産業スパイ、ゼノビア人たちの言語と機械に関する謎の解明など、けっして出来のよくないエピソードが、その大部分がほとんど連動することもなく、並列的に進められる。おなじみの顔ぶれとの再会を祝すという以外なんのとりえもない話。

吾妻ひでお『失踪日記』「コミック新現実(3)」★★★
 描線とかについての知識はないのだけど、健全になったという印象がある。正直こわいものみたさみたいな下衆な興味もあったわけでそちらの期待を果たされなかったことが、ある意味物足りなくある意味うれしい。『失踪日記』もこうやって読むと、たとえばそれが吾妻ひでおの他の作品理解につながるものではないわけで、読めて満足というだけのものでしかなかった。ほとんど読書日記と化していた産直ファンジンの連載ほどには気持ちがのらなかった。

高橋源一郎『読むそばから忘れていっても』★☆
 高橋源一郎のコミック関係の文章を集めた本。著者も言っているようにこんなに分量が少なくて、しかも薄味だとは思わなかった。文芸評論とは明らかに立ち位置がちがって、「わたしファンです」文章がほとんど。あとこのひとの漫画趣味がこんなにぼくと重ならないとは思わなかった。

木村航『ぺとぺとさん』 『さよならぺとぺとさん』★★★☆
 といったところで今月いちばん楽しんだのはこの本。あとがき読むとこれも女かい。キャラ萌えタイプのライトノベルの作家について男か女かていう区分はほんとなくなってきているみたい。エロゲーのシナリオも書いてるみたいだし、探してみよう。
 妖怪と人間が共存している世界を舞台にした、ちょっとせつなくノスタルジックな学園ドラマ。
 基本は「うる星」だけど、村おこしの「妹萌えコンテスト」を中心に、そこに妖怪排斥派と許容派の軋轢や、差別や、家族愛やらなんやらかんやら。詰め込んだ内容と重さと派手さに見合う分量とはいえず、とっちらかされた印象が残るが、総体として好印象。

須賀しのぶ『ブラック・ベルベット 2』★★★

茅田砂胡『スペシャリストの誇り』★★★☆


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