続・サンタロガ・バリア (第32回) |
BUMP OF CHICKENのライヴに行く。クラブ・クアトロ。オールスタンディングで800人くらい。多分ソールドアウトだろう。バイトの女の子がチケットを取ってくれたのだ。会場にはいるまで30分以上階段で待ち続け。もぎりでドリンク代(強制)を払ってロビーでプラコップのウーロン茶をもらう。中はすでにかなり詰まっている。親子ほども違う娘っこはその中へ突っ込んでいったが、オヤジはまだ隙間の残る一番後ろのクッション壁へヘバりつく。背もたれはラクチンだもんな。本番前に流れていたのは「ヘイ・トゥナイト」をはじめとするCCRのちょっと地味目な曲ばかり。音が小さい。「トラベリン・バンド」なんかはかからなかったなあ。テックの連中がチューニングをはじめてちょっと盛り上がる。男4女6というところか。見た限りでは高校生から30代がほとんど。
メンバーがでてきてワーッときたら「オンリー・ロンリー・グローリー」でオープニング。さすがにCDのようなクリアなコーラスはなかった。音量バランスを最良に保つのは調整卓スタッフの腕だが、今回はまあまあのレベル。以下延々と演奏が続く。ベースがたまに客席に声をかけるだけで、MCはない。ギター交換やチューニングなどでもライトを落とすだけ。唯一グッズ販促のためにベースがやや長めにしゃべったくらい。ファースト・アルバムからは「天体観測」と「ダイアモンド」ぐらいで、セカンドからは「セイリング・デイ」、「乗車権」など4,5曲、あとはインディーズ時代の「flame vein」と「Living Dead」からの選曲だった。「スノウ・スマイル」も「ロストマン」も「ハルジオン」もなし。かなりの数をこなしたところでボーカルがようやく「名前いうのを忘れた。バンプ・オブ・チキンです。あと2曲で終わりです」とはじめてMC。ラストは「アルエ」。アンコール3曲。ぜんぶで2時間。
狭い会場で今の若手バンドを聞いたのは初めてだが、印象に残ったことがいくつか。まずオーディエンスが行儀いい。列をつくるのも声を出すのも腕を上げるのも飛び上がって床をならすのもアンコールをかけるのも終了を告げるアナウンスへの反応もそして会場から出ていくのも行儀がいい。これは真面目バンドのファンだからなのか。驚いたのが、昔なら盛り上がるヘヴィなリズムのインストに対し、オーディエンスが直立不動で黙ってることだった。延々と続くギター・リフにズンズンッチャッという強いショットがはいる「エヴァーラスティング・ライ」の間奏にオヤジの腰が首が揺れるのだが、周りの若者は突っ立ったママ。なんで?と思ったのだが、考えてみればギュウギュウに押し込まれたかれらにとって腰揺れ首振りは人迷惑な行為なのだ。と見当して帰りに女の子に聞いたら「あれってなんだかよくわかんないんですよ。あれ以上続いたらどうしようかと思っちゃう」とのお言葉。ウーム、ロックのノリはすでに滅んでいたのか。
『最後にして最初の人間』に手を出したらいつまでたっても読み終わらないので、それは脇に置いといて飛浩隆『象られた力』を読む。SFプロパーという言葉が浮かぶ手触り。音楽的という意味では佐藤亜紀の作品に近いものを思わせるが、佐藤亜紀と飛浩隆ではSFに対する態度が全く違う。飛の作品はSFを書くことに力が注がれるが、佐藤はエンターテインメントの基本アイデアとしてSFを作品に使っている。作家の基本的な志向は異なっているが嗜好においてはちょっと似ているというところか。「デュオ」はホラーとミステリイのアマルガムで集中一番の出来だが最後のどんでん返しがやや弱い。「呪海のほとり」「夜と泥の」はあまりにSFらしくてちょっと恥ずかしい。表題作がイメージの迫力で圧倒する。短編集全体では今年読んだ日本SFのベストの一つ。
小川一水『復活の地』 I II。感想はIIIを読んでからだけど、最初は関東大震災をやっているのかと思っていた。スーパーテクノクラートというのがまったく留保なしにヒーローとして描かれるのにはビックリ。今後のどんでん返しに期待(ってそんなものあるのか)。
ようやく『ファウスト』第3号を読む。西尾維新「新本格魔法少女りすか 敵の敵は天敵!」と「零崎軋識の人間ノック」はおもしろく読める。「りすか」の新書版を読もうとはしないけど。「零崎」は字で書いたマンガ。舞城王太郎「駒月万紀子」はあいかわらずよく分からない。この抹香臭さはなんだ。滝本竜彦「ECCO」もあいかわらず辛い話をしている。何で世界がこんなにサムい。佐藤友哉「虹色のダイエットコカコーラレモン(短縮版)」も世界がサムいが、滝本よりは外界へ巻き込まれたいようだ。しかし「妊娠」なんて出してくるかな。関係の強制かな。奈須きのこ「DDD JtheE」(なんじゃいこのタイトルは)。初めて読む作家だが生真面目な作風のようだ。ギャグ入れがそれほどの効果がないのだな。ヒーローと相棒役がハンディキャップトなのだが、エキセントリックな性格とのつながりが弱い。女警部補もまだキャラが弱いと思う。原田宇陀児「サウスベリィの下で」。この人も初めて。なにを読んだか覚えていない。自己言及的な話だったかなぁ。元長柾木「ワ−ルドミーツワールド」はヴァーチャルな召還魔を使いこなす少年と、それが見えてしまった少女の出会いが表題になっている分かりやすいエンターテインメント。切ないといえば切ないか。
エロゲーノベライズの女神様、清水マリコのMF文庫J第4作『ネペンテス』(『朱』も読んでることは秘密だ)。どうやらひとつの町を舞台に少年少女たちのサーガを作ろうとしているようだ。今回は西村祐胡(ゆうこ/高校2年男子)を主人公に前作の主要脇役も含めさまざまなゲストを持ってきた連作短編集。相変わらず日常から唐突に非現実な展開をする物語ばかりだが、ここにきて幻想の質がやや硬くなって来た感じがする。ファンタジーが一部結晶化し始めているのか。錯覚のような気もするけれど。
アルフレッド・ベスター『願い星、叶い星』。タイトル作は「イヴのいないアダム」じゃあなかったのか。中村融がいうだけあって「地獄は永遠に」がいい。ディックの『宇宙の眼』の前身のようなファンタジー。各人の地獄巡りは後半の方がおもしろくなる。今なら映像化も十分可能だろうが、このまんまじゃ2時間に収まらないか。名作揃いだからあとはなにもいうことがない。「昔を今になすよしもがな」が昔読んだときよりもずっとクリアなイメージで読めたけれど、最後の衝撃が昔ほどない。何回も読んだ話なんだからしょうがないけど。これを含めてベスターのクリームを初めて読む若い人にはショックはあるんだろうか。