続・サンタロガ・バリア  (第31回)
津田文夫


 ようやく懸案のA4箱入りハードカバーが終わった。あと半年でA4箱入りハードカバーをもう1冊、A5箱入りハードカバーを1冊つくることになっている。編集だけとはいえオーバーペースだな。

 月初めは恒例のマーラー「復活」を聴きに行く。秋山和慶の広響は悪くはないが、前回よりよいかというとよく分からない。CDではついにケンペのロイヤル・フィル版「新世界」を入手。40年あまり前、親父が買ったリーダース・ダイジェスト社のレコード・ボックス・セット「ロイヤル・フィルと12人の偉大な指揮者」に入っていたやつで、ちゃんと聴いたのは30年前、高校生の頃だった。尾埜善司『指揮者ケンペ』では、このボックス・セットでケンペが指揮を担当したのは、R・シュトラウスの「ドン・ファン」とレスピーギの「ローマの松」だったと書かれているが、当時日本発売にあわせて「新世界」と差し替えられたのではなかろうか。
 バイトの子がBUMP OF CHICKENがらみでザ・ピロウズ・トリビュート「シンクロナイズド・ロッカーズ」を貸してくれた。なかなかいいカヴァー集だ。

 桐生祐狩『小説探偵GEDO』。おもしろい。なんでSFかという疑問もないではないが、いまさらそんなこと考えてもしょうがない。ジャンル小説好きの夢想を実際の文章にして見せるというのは、かなりの力業になりそうなものだけど、それほど力が入っているようには見えないし、連作短編のひとつひとつがハイレベルというわけでもない。でも読んでいる間は作品世界に没頭できるし、読後感も悪くない。続編が作れそうだから次回作にも期待だ。

 学生時代にマイク・アシュリーのペイパーバックを買っていたので、てっきりそれが訳されたのかと思っていたら大違いの『SF雑誌の歴史−パルプマガジンの饗宴−』。400ページ足らずのソフトカバーで4500円は高いが、学術書なら普通か。知ってる話も知らない話も飽きずに読んでいられるのは、野田さんが書いてきたあれこれのお陰だろうね。おもしろくなりそうなエピソードがいくつもあるけれど、著者の常識人的センスのためあっさりと切り捨てられているのは残念。インデックスはすばらしい。

 山本弘『審判の日』。短編集だったのか。ちょっと期待しすぎて、これはどうもと思い、京極夏彦『文庫版 百鬼夜行−陰』へ移動。これも短編集だった。京極堂もののサイド・ストーリー集かあ、読みたいといえば読みたい代物だが、現実にはあまりピンと来ない。あの長編群の中で数多くの人生の物語が生じてくるのはうれしいが、やはりこの長さでは収まりが悪い。あの物語空間はあの厚さを必要としているようだ。
 で、『審判の日』に戻ると「屋上にいるもの」とか表題作がありがちといえばありがちな設定だけれど結構印象深いのであった。「時分割の地獄」はヒロインの「100年もすれば」に違和感が残る。人工知能のリアルタイムでの100年後はAIも予測できなかろう。

 今月最後は佐藤哲也『熱帯』。伊坂幸太郎の帯はともかく、読んでいる間中「これは日本ファンタジーノベル大賞受賞作品に違いない」という変な考えが頭に浮かんでしようがなかった。なにが凄いというわけではないのだが、この感じはなにか凄いのである。不条理ユーモア小説といえばそれで済むような気もするけれど、やっぱりそれだけでは違うような。ところで同じエピソードが何回も出てくるんだけど、あれは単にコピーしただけの文章なのかなあ。

 本来ならハヤカワSFシリーズJコレクションとりあえず最終巻、『グアルディア』を読み終えるはずだったのが、息子が滋賀に持っていってしまった。早く返せよ、コラ。


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