続・サンタロガ・バリア  (第29回)
津田文夫


 BUMP OF CHICKENの「オンリー・ロンリー・グローリー」は相変わらずよい出来だった。コーラスの使い方もお手のもの。ニューアルバムにどれだけ新曲が入るか愉しみ。
 7月の半ばに地元の半プロ・オケでフォーレの「レクイエム」を聴く。少年合唱団のコーラスに目が覚める。昔はミッシェル・コルボのレコードでよく聴いたものだ。CDは持っていないけど。

 〈プラチナ・ファンタジー〉のグレアム・ジョイス『鎮魂歌/レクイエム』はフォーレのそれと違って、ちょっと鬱陶しいキリスト教/ユダヤ教起源陰謀話。渋いコメディと取れるところも多いが、基本的には真面目にヒトの心の不思議を描いている。解説でロバート・アーウィンの『アラビアン・ナイトメア』との相似性を説いているが、ファンタジーの有り難さは『アラビアン・ナイトメア』の方が大きい。

 神林長平『膚の下』を読むのに時間がかかってしまったが、かけた時間に見合うだけのおみやげはちゃんと提供してくれた。上下2段組684ページの中に派手なシーンがほとんどなく、主人公の成長物語に延々とつき合わされ、結末もこの長さの長編のクライマックスにしては物足りないが、それでもなお、いまや全く内容を覚えていない『あなたの魂に安らぎあれ』のエコーは読む者を感動させるのである。SF作家神林長平のマイルストーンには違いない。

 7月に読み終えたのは、あと〈プラチナ・ファンタジー〉のジェフ・ヌーン『未来少女アリス』だけ。神林節からのリハビリにはちょうどよかった。ロング・ディスタンス・ディヴィスがマイルス・テイビスのもじりであることが頭に浮かぶまでチョイと時間がかかった。そのまま読み流してしまった風間賢二氏の翻訳のヒネリが多々あるかと思うとちょっと悔しいが、『ヴァート』も『花粉戦争』も好きな人間としてはきれいな羽が舞うだけで十分愉しませてもらいました。

 いまだに読み続けているベンヤミン『パサージュ論』第4巻にはこんなのが出てきた。
「(19世紀)連載小説の原稿料は一行あたり場合によっては二フランにもなった。多くの作家は、行をいっぱいに埋めなくても行数をかせげるように、できるだけ会話ばかりを書いた。」(42ページ)
 というわけでポピュラー小説はその始まりからそんなものだったのだ。


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