続・サンタロガ・バリア  (第23回)
津田文夫


 もはや正月気分もどこへやら、の忙しさだけれど、皆さんはいかがでしょうか。
 中旬に東京出張に行ったとき、東京駅地下街の古本屋に50号代から100号代のSFMとSFシリーズを見つけた。SFM、シリーズとも4〜50冊程度で日焼けなしのなかなかのコンディション。SFMが500円、シリーズが1500円。まあ、実家にはSFMが50号代くらいから、シリーズも200冊以上あるはず、なのでダブっているだろうが念のための58号と絶対に持っていない平井和正『エスパーお蘭』を買っておいた。因みに58号は16歳の梶尾真治が「てれぽーと」欄にお便りしているとか、第3期異色作家短編集『一角獣・多角獣』の刊行予告が載ってたりして興味深い。作品の方はハインラインの「大宇宙」とかラインスターの「最初の接触」とか第3回SFコンテスト佳作入選作「太陽連合」が載っている。まあ500円なら買い得ではないでしょうか。平井和正は「悪徳学園」がいまでも読める。「あとがき」は若い。

 サントリー・ホールでは小林研一郎/日フィルのブルックナー7番、思わずS席を買ってしまった。炎のコバケンとはいいながら、やはり日本のオーケストラは金管を弱くしっかりと吹くのが苦手なためか、やや軽い響き。とはいえ、さすがに目が覚めましたけど。あの天を指す指揮ぶりはそれなりにカッコいいんでしょうね。
 CDではあいかわらずケンペ。BBCライヴのブラームス4番第3楽章で落涙。初めてだ。ザ・ナイスの再結成ライヴCDは退屈だった。

 正月休みに読んだのはハヤカワJコレ牧野修『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』だけ。いい短編集だ。ここにはマキノ節とでもいえそうな特徴的な作品が多い。中盤第2章「症状」第3章「諸例」の短編群が強力でとくに「踊るバビロン」が強烈な印象を残す。読んでいる最中、作品世界が頭の中にこびりついていた。壊れる感じの強い「憑依奇談」や「逃げゆく物語の話」も印象的。強い弱さとでもいえばいいのか。

 正月休みがあっという間に終わり、これはイカンと思い”プラチナ・ファンタジイ”と力の入ったシリーズ初回配本シャロン・シン『魔法使いとリリス』を読む。恋愛ものには興味がないのだが、これは一風変わっていた。変身魔法使いということである程度は見当がつくもののリリスの描き方が面白い。リリスの正体については読んでからのお楽しみというところ。悪くない。

 翻訳物は時間がかかると思いエロゲーノヴェライズの女神様、清水マリコのヤングアダルト第2作『君の嘘、伝説の君』に浮気。あいかわらず変な設定の話を作っている。中学生の初恋/失恋モノと云えないこともない。が、それでは全然作品の性格を言い表せないな。いかにも劇作家清水マリコらしい捩れ方で、リアルな説得力はないけれどワカる人には分かるでしょう。好きなんだよね、このヒト。

 日本語作品は読みやすい。ということで上田早百里『火星ダークバラード』。なんてオーソドックスな日本SFなんでしょう。なにか70年代初頭の日本SFがそのまま現代に生き延びてきたようなデジャヴな感覚に襲われる。あるはずのない典型的SFというものに近いのか。SFファンのSFなんだろう。ハードボイルドとファイアスターター的盛り上がりはもう少し引き延ばしてもよかったかも。結末は甘い(その後があるにしても)。

 森見登美彦『太陽の塔』。笑わせてもらいました。土屋賢二的文体とでもいえばいいのか。茶店で読みながら吹きそうになったのは久しぶり。ま、ローカルな話だが、25年あまり前のわがSF研もこれくらいのエピソードには事欠かなかったとは思う。いい時代だったねえ(一部の会員にはそうではなかったようだが)。

 スタージョン『不思議のひとふれ』は若島版より人なつこい作品集。ひとつひとつが愛すべき小品となっている。「閉所愛好症」なんて、「あなたは地球人じゃありません、私と一緒に宇宙へ行きましょう!」などといわれて喜んでいるのをハッピーエンドだと思っているわけで、ぱんピー(死語か)にはわからんのではなかろうか。だれもが故郷へビームしてほしいと思っているわけじゃないんだから。全体的には心優しい話が多い。

 幾本伸司『メシアの処方箋』は短編のアイデアだと思うが、面白く読ませる。ただし、どうして最初から箱舟とメシアがひっついて登場人物全員がメシアに惹かれてしまうのか、という根本的なところでひっかりりが生じているので、読んだ後でも、何でだろうという疑問が消えない。物語そのものおもしろさに不満はないのだが。なんかロータスに叱られそうだな。


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