続・サンタロガ・バリア  (第20回)
津田文夫


 ここんところコンサートにいってないなあ。クラプトンも申し込んだのに抽選漏れで金が戻ってきちゃったし、9月の下旬にヨゼフ・ハーラのピアノが入ったドヴォルザークのクィンテットと地元だからということで見に行った島谷ひとみライブが最後か。島谷ひとみは、CDよりも生の方が気持ちのいいボーカルでなかなか聴かせるヒトだ。これで声にアクの強さが加わればいいんだが。

 ハヤカワSFシリーズJコレ『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』深堀骨は、はじめて読む作家。面白い、と思う。攻撃性のない筒井康隆とでもいう感じのする作風。ヘンといえば相当ヘンな作風だけけれど、筒井が気負って60年代後半から70年代を疾走したことを思うと深堀骨にはそんなものが感じられないし、いまはヘンであることが大きな話題にもならない時代になってしまったので、こういう作品を書くヒトもいるのだなあ、ちょっと嬉しいなというところで収まってしまう虞がある。異色作家といえばその通りでどこらへんの読者にアピールするのかわからないところが問題だろう。次作がでれば読みますよ。

 テッド・チャン『あなたの人生の物語』はすでに大評判(一部で?)なので、バイアスがかかってしまうが、目次を見返してみるとたしかに一作一作が際だっていて、粒ぞろいという点では『しあわせの理由』を上回る短編集かもしれない。アイデア・ストーリィという性格はイーガン以上に強いように見える。しかし個々の作品の組み立ての多様性の中でアイデアが十分に生かされているので、悪い意味でのアイデア・ストーリィにはなっていない。個々の作品では目次の真ん中におかれた表題作と「ゼロで割る」や「七十二文字」が白眉だろうが、「バビロンの塔」もわかりやすくてよい。

 小林泰三『目を擦る女』、いい短編集だ。「空からの風が止む時」「未公開実験」「予め決定されている明日」あたりがベストだけれど、どれも理屈が立っているところが持ち味か。ちょっと古めかしい感じの表題作や「脳喰い」も悪くない。ついでに『家に棲むもの』を斜め読み。これは表題作が一番だった。ホラーにも理屈を立てずにいられないのがこの作者だね。

 山尾悠子の『ラピスラズリ』を読んでしまう。ううっ、もったいない。
 山尾悠子はいまもって絶後の作家たる面目を失っていない。3行から5行にわたる息の長い文章を多用して、夜の暗さと静謐を醸しバーレスクを主宰する。まるで『タイタス・グローン』の飛び地のような「竈の秋」、そこへと導く「銅版」と「閑日」、私小説的幻想に彩られた初期短編の反映のような「トビアス」、オープニングとクロージング・テーマを兼ねた「青金石」。いまのところなにもいうことを思いつかない。 


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