続・サンタロガ・バリア  (第9回)
津田文夫

 ケンペのCDが最近よく出るようになって、うれしい悲鳴。とぼしい小遣いでは全部を買うことはできないが。グルダとのピアノ協奏曲もホームページで確認したら去年には出ていたらしい。とりあえず25年前にすり切れるほど聴いていたワルツ集と、はじめて聴く「英雄」とモーツァルトの交響曲集を買ってきた。ケンペのこのワルツ集は20年ぶりに聴くけど、やっぱり最高。おもわず身体がうごく。「英雄」はよい。でも、変な雑音が気になる。最近は「コリオラン」とか「エグモント」に興味があるので、この「エグモント」は気に入った。そういえばベートーヴェンやモーツァルトの交響曲ってケンペでは持ってなかった。34,39,41と入ったモーツァルトは貴重品だな。もっともモーツァルトの交響曲の演奏はこれがベストというのが無い人間なので、ケンペ盤もE線止まり。モーツァルトでは、いまのところクレンペラーの40番がいちばんよく聴いた交響曲かな。

 キング・クリムゾンの「USA」と「アースバウンド」が漸くCD化。30年近く前はどっちも買わなかった代物で、友達から借りてカセットで聴いていたっけ。ただ「アースバウンド」の異様な「21世紀」はここ10年ぐらいに何回か耳にしているので、新鮮さはない。「USA」の方は圧倒的な演奏で、ちゃんとレコードを買わなかったことが悔やまれる。もっとも当時「フラクチャー」や「スターレス」は入ってなかったのだから、感激は半減だったかも。
 『ロッキング・オン』創刊30周年記念号を買ってみた。もう25年以上読んだことはないが、18歳の時、ELPの『恐怖の頭脳改革』を「鈍色の鉄のかたまり」と表現した渋谷陽一に震撼した覚えがある。

 「ゆーこん」も、はやひと月半前の話になってしまったけれども、安田さんにはビックリ、いや昔話は大変面白く時は経ったのだとしみじみ思いました。水鏡子と安田さんの超貴重なツーショットを撮るはずだった大野万紀さんを邪魔してしまった酔っぱらいは自分です。ゴメンなさい。

 さて、6月以来『グリーン・マーズ』を1日10ページ読むのが精一杯だったのが、盆前くらいから漸くピッチがあがってきた。

 まずは『90年代SF傑作選』って、『グリーン・マーズ』の感想を先に書くべきか。風景はよいのだけれど、登場人物に興味が持てないのが困ったところ。だから10ページで寝ちゃうんだね。
 『傑作選』は上巻がネックですね。90年代英米豪加SF短編の中心テーマは「家族」なのかと思わせる作品の並び。なかではショーン・スチュアートの「バーナス鉱山全景図」(これも家族テーマのヴァリエーション)がイメージの強さで群を抜く。下巻はほぼ粒揃いかな。マクドナルド「フローティング・ドッグズ」はわかっていてもつい読まされてしまうし、イーガンの「ルミナス」の強引さには呆れるが、面白いことは間違いない。スターリングの「80年代サイバーパンク終結宣言」は何回読んでもいいアジテーションだ。

 ハヤカワJシリーズにも手をつけた。小林泰三の短編集『海を見る人』は旨くて懐かしい。秋山完と近い感性を持っているようにも見えるが、キャラクターへの思い入れを感じさせないところが小林泰三かな。ハードぶりは『太陽の簒奪者』もそうだけれど、あんまり強調されてもピンとこない文科系読者には、隠し味のありがたさということにしかならない。でもそれはそれでうれしい。野尻抱介の作品は今回はじめて読んだ。本来なら大長編になる話なんだろうが、とてもコンパクト。 コマ落としクロニクルとしては中途半端に書き込みが丁寧なので不満が残るけれど、このレベルで読ませてくれるなら十分つき合う価値はある。北野勇作『どーなつ』は10年前なら泉鏡花賞タイプか? といったってやや無骨なSFガジェットが気になるが。まだ工夫の余地があるように見えるけれど、それは無いモノねだりかもしれない。こうしてみると日本でも「SFはSFの上につくられ(DAW)」ているのかも。
 オマケは『クリスマス・テロル』。『水没ピアノ』でかなり重たくなった鏡家サーガだったけれど、新作の終章を読んでビックリ。どこまで本気なんだかなあ。でも文学になっていきつつあることも確かだろう。まだ期待してるよ。
 あの訳者あとがきのせいで昔のキズが痛む。


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