内 輪 第135回
大野万紀
獅子座流星雨を見逃しました!
18日の夜は京フェス帰りで、西宮は曇りがちだったし、流星雨というのはいつも話のわりにはしょぼかった記憶があるので、さっさと寝てしまった。痛恨の一撃! 300年に一度の大流星雨だったって。残念。見たかったなあ。
それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。
『The S.O.U.P.』 川端裕人 (角川書店)
インターネット、ハッカー、クラッキング、バーチャルリアリティ、オンラインゲーム、AIとAL、そして引きこもり、カルト、『指輪物語』と『ゲド戦記』。これはそういう物語だ。現在のネットワークの延長に真のサイバースペースを描く本書のテーマは、決して目新しいものではなく、むしろ見なれたものだといえる。だが、とことんリアルなインターネットとそのセキュリティに関する描写が、このSFをより現実に近い(しかし日常的ではない)読み応えのあるものにしている。しっかりとしたパースペクティブがあるので、ここから一歩を踏み出すのはたやすい。イーガンの塵理論や、この前のSF大会でも紹介があった、この宇宙がプログラムである可能性を示す論文など、本書からすんなりとつながっていけるだろう。SF作品やSF作家の名前(のもじり)がちりばめられているのも楽しい。インターネット技術とセキュリティに関する入門小説としても良くできている。
『スター・ハンドラー(上)』
『スター・ハンドラー(下)』 草上仁 ソノラマ文庫
異生物訓練士の卵、ミリは、ちょっとしたきっかけでゼネラル・ブリーディング社への就職が決まり、宇宙で一二を争う凶暴な宇宙生物ヤアブを捕獲する旅に出る。だが彼女たちは、ややこしい陰謀に巻き込まれていくのだった。つねに小説のように語るハンターとか、操縦桿を握ると人が変わる仕入れ担当者とか、癖のありすぎる個性的な人物ばかりが登場する。そうか、吉本新喜劇か。下巻に出てくる〈演芸艦隊〉もすごすぎ。ヤアブが素数+1でのみ群れをつくる(そうでないと凶暴になる)というのも、よくわからんけどSFっぽくて面白い。これで主人公がもう少しとっつきのいい、可愛げな性格だったらなあ。まあ、まわりがうまくさばいているのでOKでしょう。大変楽しく、気持ちよく読み終えることができた。それほどどぎつくない関西風味もちょうどいい。ヤアブやオオドラゴンモドキも興味深かったが、もっと色々な異星生物(異生物という表記はどうよ?)が出てくればさらに面白くなるだろう(でもヤアブと同じくらいの細かさで、異星生物の生態から何から作り上げていくのは大変だろうね)。著者あとがきも面白い。続きが出たら「よろこんでっ」読ませていただきまっせ。
『大赤斑追撃』 林譲治 徳間デュアル文庫
木星の大赤斑を舞台に、民間の調査船と宇宙軍の巡航艦が追いかけっこをする話。大気のある世界での宇宙船の動きという興味深いテーマを扱い、物語もストレートで面白く読めた。こういう話だから、中編の長さというのはちょうどいいのだろう。ストーリーやキャラクターは二の次という小説だが、水戸黄門プロットというのは分かり易すぎて、どんなものだろうか。まあ、うまくまとめてあるともいえるのだが。
『CANDY』 鯨統一郎 祥伝社400円文庫
しかしすごい文庫名だねえ。これも中編が一冊になっている。短いのはすぐ読めるからいいのだけれど。でも本書は何だかわけのわからない話。目が覚めたら別の並行宇宙にいた記憶喪失の男の話だが、α、β、γの3つの宇宙のうち、ひとつしか生き残れない。その鍵になるのがキャンディで、男はそのひとつを持っている。リンリンという女に助けられ、他の二つのキャンディを手に入れようとするのだが……。わかる? まあ別にストーリーは重要じゃないようで、好意的に言えば奔放な想像力でダジャレをベースに描かれたハチャハチャSFということだが、何か空回りしていて、あんまり面白くないなあ。横田順彌のハチャハチャの方がずっと面白かったなあ。
『虹の天象儀』 瀬名秀明 祥伝社400円文庫
2001年3月の五島プラネタリウム閉館をテーマに、プラネタリウムという機械のもつロマンティシズムと、著者の博物館ものに通じるノスタルジーを混ぜ合わせた、どこか甘酸っぱい幻想小説である。一種のタイムトラベルを扱っているし、最後のあたりはかなりSFっぽい感じもある。ただし、この物語は中編の長さでは短すぎ、雰囲気はいいのだが、それが雰囲気だけに終わってしまって、物語としては中途半端な印象が残る。なぜ織田作之助なのか。タイムトラベルした意識に入り込まれた側はどうなるのか。タイムトラベルするほどの思いとプラネタリウムという機械の関係はどうなのか。逆にもっと短ければ気にならなかったかも知れないが、このあたりももう少し書き込んでほしかったところである。
『ゲーム・プレイヤー』 イアン・M・バンクス 角川文庫
これは面白い。イアン・M・バンクス〈カルチャー〉シリーズの初訳。はるかな未来を舞台とする大スペース・オペラだ。ほんとにゲーム大会する話。主人公はゲームの天才だが、それ以外では情けないところのある個性的な人物だ。ドローンというのはロボットというか、高度な機械知性なのだが、主人公といっしょに旅をするおしゃべりなドローンがめちゃくちゃキュートでいい。こいつ、バードウォッチングが趣味なのだ。シリーズの他の作品もぜひ訳されてほしいなあ。
『蛍女』 藤崎慎吾 朝日ソノラマ
森の生態系が自然破壊に復讐する話。山の神の巫女となった女性もこのシステムに組み込まれる。森の生態系が「脳」を形成しているとか、ガイア仮説のローカル版みたいな部分はSF的だが、物語はホラーのスタイルで、どうにも中途半端。ありきたりなテーマであってもそれをハードSF的に徹底すれば読み応えある話になったかも知れない(ガイア仮説というだけで目の敵にする人もいるが、SFなんだから何も問題ないと思う)。本書もその方向に行くのかと思ったが、どうも作者にはむしろありふれたテーマの方が重要だったようで、それはきっと作者の内部に強い動機があるのだろうが、そこのところもストレートには伝わってこないのだ。ぼくにはちょっと残念な作品だった。