内 輪   第132回

大野万紀


 FFXはラスボス戦まできたが、他にできることが多すぎてそっちに手を取られ、いまだクリアせず。まあいいか。
 今月は何だかばたばたしていて、あんまり本を読んでいません。ちょっと疲れ気味。あ、でも映画の「千と千尋の神隠し」は見てきました。とても気持ちのいい傑作でした。あーだこーだという必要のない傑作。何がなんだかわからない前半が特にお気に入りです。筒井康隆の作品によく出てくる巨大で複雑怪奇な日本建築という、おそらく日本人みなの心のどこかにある映像が、こうもはっきりと(夢のかたちのままに)表現されているというのが、本当に気持ちよかったです。
 「ジュラシックパーク3」もSF者の評判がいいですね。見たいのだけど、なかなか暇がないなあ。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『異形コレクション 夢魔』 井上雅彦編 (光文社文庫)
 今度のテーマは「夢魔」。バラエティ豊かな作品が収録されているが、例によって特に印象に残ったものをあげる。まずは、田中哲弥「げろめさん」。いかにも魅惑的な悪夢そのものの話だが、やはり筒井康隆の昔の作品を思わせる文体である。似ているというのではないが、そのどこかふわふわとした頼りなげな印象が、心地いいのだ。浦浜圭一郎「夢の目蓋」はSF的な趣きがあって楽しめる。朝松健の室町もの(今回は鎌倉だが)「妖霊星」も相変わらず快調。小林泰三「脳喰い」は完全なSFで、これも確かに夢テーマの傑作といっていい。小中千昭「集団同一夢障害」はありがちなアイデアながら、描き方が秀逸だ。しかし何といっても本書の白眉をなしているのは平山夢明「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」だろう。恐ろしく残酷な話でありながら、不思議に抽象的で、生理的心理的痛さもきついのに、どこか清々しさがある。凄い。

『ルー=ガルー』 京極夏彦 (徳間書店)
 水鏡子は誉めていた。かおるさんはけなしていた。で、読んでみたが……。21世紀半ばの日本。社会のあり方が今とはだいぶ変わっている。個人主義で他者との関わりを拒否し、人権や環境問題や差別に関するいささか教条主義的な態度が当たり前。ありそうではあるが、何かとても住みにくそうな、イヤな感じの社会で、キャラクターたちもあんまり好きになれそうにない連中ばかり。すげーのか、バカなのか、ちょっとバランスの悪い話で、正直四分の三くらいまでは読むのが苦痛になりかけていた。その辺りで雰囲気が大きく変わり、派手な活劇となる。こうなってからは面白い。カタルシスがある。でもそこまでが長いんだよなー。

『ブラック・オーク』 チャールズ・グラント (祥伝社文庫)
 なんか昔なつかしいB級ホラーの感覚。スプラッタも(直接は)ないし、そもそも化け物はいきなり出てこないで、じらしてばっかりである。初めて読むとハードボイルド風の探偵が怪奇事件にいどむみたいだが、実はオカルト探偵で、シリーズもので、だから結末も何か物足りない(来週に続く……)なのだな。悪くはないし、ぐちょぐちょなホラーばかり最近読んでたもんで、このTV的?な感覚も、それなりにいいと思うのだが、これではちょっとあっさりしすぎでしょう。

『回転翼の天使』 小川一水 (ハルキ文庫)
 ヘリコプター一機の小さな航空会社に、なりゆきで就職したスチュワーデス志願の伊吹が、仕事に慣れて活躍する話。あるいは「め組の大悟」みたいなレスキューの話。リアルなディテールと少年マンガみたいな熱血ストーリーがうまくかみあって、生き生きとした話になっている。ただ、マンガ的な展開が、小説的リアリティを阻害している面もあって、ちょっと難しいところ(いや、このフォーマットではそれでもいっこうにかまわないのだが)。


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