内 輪   第115回

大野万紀


 2月29日は400年に一度のうるう日。ぼくの腕時計はしっかり3月1日になっていました。他は特におかしくなったものはなかったなあ。しかし、こうして2000年も一日一日と過ぎていくのだね。そして3月4日には、プレーステーション2を発売日当日入手。当分はPS1のソフトで遊ぶ予定です。今のところ何の不具合も出ていません。DVDもちゃんと再生できたし。わが家では何も問題なしみたい。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『電脳祈祷師 邪雷幻悩』 東野司 (学研)
 喜多哲士や岡本俊弥が高く評価している伝奇(電気?)SF。評判になった時に買っていたのだが、読むのは今頃になってしまった。東野司はミルキーピア・シリーズなんか好きだったなあと思いつつ、あまりに雰囲気が違うのでとまどう。伝奇SFとして良くできている……といいたいのだが、うーん、設定にSF的リアリティを与えるのを始めから放棄している印象を受けるなあ。太古の超能力をもつ種族が現代によみがえり、人類の敵と味方となって戦い合う、という話なら、どんな設定でも別に問題ないようなものだが、それが霊や神や宇宙人なら特に気にならないところを、あえてこんな設定にするかなあ。語り口のシリアスさに不釣り合いな、実はとんでもないギャグをかましているのかも知れないという気がする。無料OSで人類を支配しようとかいうのも、何だか笑えるし。主人公らしき男もヒロインの女もはっきりいってアホだし(敵もそう)、語られるエピソードは、まるで長い長いプロローグのような感じで、すごく痛々しくシリアスな物語なのに、本筋とはすれ違ってしまったりしている。でもそのあたりは良く書きこまれていて、本筋よりずっと読み応えがあるのだ。びっくりするのが、実は本書が算数小説でもあるということ。小学校高学年の算数の問題が、きちんと解法まで書かれていて、とても勉強になるです。

『世紀末サーカス』 井上雅彦編 (廣済堂文庫)
 異形コレクション14。テーマがテーマだけに、わりと似た雰囲気の作品が集まったように思う。その中で平山夢明「Ωの聖餐」がぼくには意外性があり、面白くて印象に残った。この陰惨なストーリーに、まさかリーマン予想が関係するとは思わなかったものなあ。他の作品もそれぞれに面白いとは思ったのだが、雰囲気が似通っていて数が多いので印象が薄れてしまう。田中啓文「にこやかな男」もいつもの作者に比べればもう一つ。この結末はありきたりで期待はずれ(はて、ぼくはどんな結末を期待していたんだろう)。そのぶん、竹河聖「サダコ」がイヤ〜な感じで勝っている。いや、竹河聖が田中啓文と対抗するとは意外でした。

『ワン・オヴ・アス』 マイケル・マーシャル・スミス (ソニーマガジンズ)
 99年のベストでたくさんの人が評価し、海外部門の7位になっていた。そこで遅ればせながら読んだのだが、うーん、なるほど。その気持ちはわかるわ。とにかく、いさましいちびの目覚まし時計だな。何だか「目覚ましテレビ」の目覚ましくんみたいな印象もあるけど。でも、ハードボイルドタッチのメインストーリーは、はっきりいって退屈。夢や記憶をあずかる商売で犯罪に巻き込まれ、というのはちょっと古いSFっぽくて悪くはないのだが、カットバックの多用も効果的というよりわずらわしく、あんまりストーリーに入っていけない感じ。その理由の一つは、世界が異様すぎること。メインストーリーのわりとオーソドックスなシリアスさと、目覚ましくんに代表される世界の異常さが、あまりにも唐突にぶつかり合い、あまりにもミスマッチ。そこがいいんだという意見もあるでしょうがね。結末に向かってどんどん異常さの方が勝ってくるし。それに、目覚ましくんたちのSF的(というべきでしょう)イメージが、とにかく強烈で魅力的なのも確か。メインストーリーをモノクロ映画とすると(別れた奥さんの女殺し屋が出てきてからはけっこうそれもいい感じなのだが)、突然派手なCGがカラーで飛び出すような感じ。無茶苦茶としかいいようがない結末も、喜んで許してしまえるから、まあベスト10入りもOKじゃないでしょうか。でも、やっぱりユーモアSFとかいうのとは違うと思う。

『彗星パニック』 岬兄悟・大原まり子編 (廣済堂文庫)
 SFバカ本の新シリーズは装丁がCGになり、何か本格SFの雰囲気。でも中身とはあんまり関係ないようだ。書き下ろしの11編が収録されているが、どれも水準は高い。とりわけ面白かったのを挙げれば、まずは牧野修「電撃海女ゴーゴー作戦」。これはSFMに連載していた〈月世界小説〉シリーズの関連作品なのだろうか。意表をつく展開の、とんでもない話(としかいいようがない!)。だけど結末はちょっと悲しかったりする。すごいのは、いとうせいこう「江戸宙灼熱繰言(えどのそらほのおのくりごと)」。江戸時代に火星人や土星人が来て、歌舞伎をやっていたのだそうだ。初代と二代目のやつは本当に見てみたい。すごく面白そう。SF映画史のパロディがあからさまになるあたりは、もう一つだけど。東野司「つるかめ算の逆襲」はやっぱり算数SFだった。ごまかさずにちゃんと解法が書いてあるところがいい。


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