気分はリングサイド――わたしのプロレス観戦日記(9)

青井 美香


さて、年が変わって、すっかり二〇〇〇年。旧正月も過ぎちゃいましたね。誰も待ってなかったりするかもしれませんが、ひさしぶりのプロレス観戦日記、書いてみます。ここでタイトルを見て、あれ、第8回じゃなかったけって、思われたかたって、いらっしゃるかしら。そうなんです、第8回の原稿もあったのですが、去年の9月のファン感謝デーのことを書いていて(それも途中で終わっている(^_^;))、いまさらながらなので、それは封印してしまいました。(どうしても読みたいというかたは、個人的に言ってきてくださいませ)

今年はもちろん、お正月早々、後楽園ホールに通っていたりもしたのですが、なんといってもショックだったのは、レスラーの訃報二連発。去年の馬場さんのときもショックだったけど、今年のは、まだ三十代の働きざかり。ゲーリー・オブライトは年末、武道館であんなに嬉しそうにリング上で記念写真におさまっていたのに、あれが最後になってしまうなんて……。試合中に心臓発作というのが、なんともかんとも。それにボビー・ダンカン・ジュニアはゲーリーよりさらに年下。こちらは大器晩成といわれていたのに、けっきょく、晩成まで達しないうちに散ってしまいました。

でもま、いつまでも嘆いていてもしかたないので、最近観た試合の感想をば。

2月13日(日)
うちから後楽園ホールへ行くのには、神保町で降りて、てくてく歩くルートをとることが多い。で、わりと最近、といっても去年の夏まえぐらいだけど、そのルート沿いに美味しいハンバーガーチェーンが出店した。フレッシュネス・バーガーという名前のお店で、ここのバナナケーキはなかなかのお味。もちろん、ハンバーガーもマクドナルドよりうまいと、わたしは個人的に思ってます。ただ、店内でちまちま焼くので、注文してから時間かかるんですよね。
その日、12時半試合開始だったのだけど、ここに入ってハンバーガーを注文することに固執したわたしは、後楽園ホールに12時40分過ぎに到着することになってしまった。
「大丈夫よ、第一試合なんて、どうせ前座なんだから」
と、遅刻したとぶうぶう文句をたれる相方に言っていたら、天罰てきめん。なんと、ひさしぶりに、第一試合に大森くんが森嶋とのシングルで出てたんですよねぇ。昨日のシリーズ開幕戦ではメインだったのに、翌日は第一試合。三沢社長の懲罰か(昨日はメインであっさり負けた)とも思ったけど、あとでプロレス雑誌を見たら、意外性をたかめるためのマッチメイクだったとか。意外性、うん、たかめられました。わたしは試合のほとんどを見逃してしまいました(^_^;)。
第二試合は、高山対キマラ。キマラにずいぶんせめこまれていて、やっぱり高山ってこの手の巨漢レスラーには苦手かも。でも、最後に決めたジャーマンスープレックスは高さといい、インパクトといい、圧巻でした。
この日、あと記憶に残ったのはセミの、井上・本田対ウィリアムス・ベイダーの試合。アジアタッグチャンピオンの井上、本田なのに、ほとんどなんのいいところもなく敗れ去り、いやぁ、ウィリアムス、ベイダー強いわぁと改めて感じ入りました。

2月27日(日)
日曜日の武道館大会。開始時間は午後3時半というのは、けっこう異例。でもって、この日も、第一試合に間に合わず。すみません、家を出るのが遅れたのはわたしが悪いんです。
第二試合の悪役商会対ファミリー軍団は、森嶋くんの練習マッチ。
ここで、あっさりと休憩。
第三試合は小川・丸藤対モスマン・池田。ジュニア同士らしいテンポのいい試合。モスマンが出てくると、技の重さがよくわかる。試合の後、みんな握手をしたのに、モスマンの差し出す手を振り払った小川の真意は……まだ、モスマンがあっさりジュニアチャンピオンのベルトを返上したことをうらみに思っているのかしら。でも、ほんとは、小川のいつものやり方だというだけかも。
第四試合はノーフィアーの大森・高山対本田・泉田。大森くんへの声援を送る時間もなく、試合はノーフィアーの勝利。試合パンフレットのノーフィアーの紹介文に、うんうんと納得。急降下と急上昇とを繰り返しつつも、地位をあげてきているもんね。
第五試合は、セミとメインにあぶれた方々の6人タッグ。
この試合で、あれっと思ったのは、川田の存在感の軽さ。キマラに対してうったチョップが、え、あんなに軽かったっけという感じ。それに身体も、全体的になんとなく小さくなってしまったような……。
セミは三沢対秋山。はっきりいって、すごい技の攻防でした。観ていて、何度、息を飲んだか。エプロンからエクスプロイダーをうとうとするのだから、秋山も鬼です。最後、三沢に決めた秋山のエクスプロイダーは、落とし方がはっきり違った。これで決めてやるという意識がありあり。三沢さん、社長業、大変で練習ができてないということがはっきりした試合でもありました。
そしてメイン。小橋対ベイダー。重量感あふるるどつきあい。それにしても、小橋の身体を覆う湿布にバンテージが痛々しい。ベイダーの技が決まるたび、小橋の顔がゆがむ。小橋が勝つにはワンチャンスをものにするしかないねと相方と話していたら、そのとおりの展開になりました。
というわけで、きょうの武道館、時代が動いた、新時代の風を感じたというのが感想であります。

3月11日(土)
キラー秋山、志賀を粉砕とか、セミのアジアタッグ戦、チャンピオンベルト流出の危機あり、やっぱり多聞の膝はそうとう悪いのねとか、時の流れの無情を感じたメインの6人タッグ……などなど、書きたいことはそれなりにあったワンナイト・マッチ。
でもでも、ここはミーハー・モードといきましょう(って、いつもそうじゃなかったのという、つっこみが聞こえるなぁ)。
大森くんはきょうも第一試合。あらかじめカード発表があったので、学習したわたしは、ちゃんと間に合うように会場へ。
きょうはいつもと違う席。通路のすぐ隣で、よく見えます。でもって、そこへ第一試合からテンション高く、場外戦ばしばばしの大森くんが、鉄柵の扉をあけて、きょうの対戦相手、丸藤の身体をほうりなげる。なにせ体重軽いから、空中高く放り投げられ、後楽園ホールの固い床に激突。悶絶する丸藤を残したまま、悠然とリングに戻る大森くん。ううん、かっこいい。目の前の、手をのばさなくても届きそうな距離のところを、大森くんの躍動する肉体が通り過ぎていきます。汗のひとつひとつが目に焼き付きます。日焼けサロンに通って焼いている肌の色が、赤銅色に輝いてます。と、そのとき、通路に投げ出していたわたしの足のごく一部に圧迫感。なんと、大森くんのリングシューズが、わたしの靴をかすめたのでありました。
「きゃっ、大森くんに、足踏まれちゃった」
興奮して騒ぐわたしに、相方の冷たい視線が浴びせられたのはいうまでもありません。


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