内 輪   第107回

大野万紀


 今年のSF大会は7月3日〜4日の「やねこん」ですが、こういうリゾート地の大会というのもいいものですね。ぼくは残念ながら都合で参加できないのですが、THATTAの関西からは水鏡子や岡田靖史さんが参加します。岡田さんはとても面白いSFクイズをやるそうなので、SF大会に参加される方は、ぜひのぞいてみて下さい。水鏡子は……どこかそのへんをうろうろしていることでしょう。彼はPCのSFっぽいエロゲーについて熱く語りたいそうなので、そっちに詳しい方、声をかけてあげて下さいね。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『宇宙への帰還』 谷甲州他
 横山信義、吉岡平、森岡浩之、早狩武志、佐藤大輔、谷甲州による新書版の宇宙SFアンソロジー。まずこういう企画で本が出たということが嬉しい。そしてどの作品も(多少の方向性の違いはあるが)まっとうにSFしていて、好感が持てる。森岡浩之「A Boy Meets A Girl」と谷甲州「繁殖」のSFとしての完成度が高いのは当然として、横山信義「星喰い鬼(プラネット・オーガー)」もまるで小松左京の短編にでもあるようなテーマで本格SFしている(ちょっと短いのが惜しいところだ)。早狩武志「輝ける閉じた未来」だけは(この人、これが処女作なのですね)、ちょっと浮いていて、ベテランたちと一緒に収録されては可哀想という感じ。こういう設定で悲劇性を盛り上げたいのなら、森岡浩之までとはいわないけれど、もっと設定のリアリティを(一言で済まさないで)書き込む必要があるでしょう。まあファンジン小説だったらこんなもんだろうけどね。

『ホット・ゾーン』 リチャード・プレストン
 バイオ・サスペンスを語るには必読の書だが、文庫になったので、今頃読みました。エボラ出血熱をあつかったノン・フィクション。ノン・フィクションだから弟のダグラス・プレストンの書いた小説(例えば『マウント・ドラゴン』)のように劇的な展開はないけれど、描写はまるで小説のように感情入りまくりだし、何しろ本当にあったことだから、とても怖い。このときのエボラはとりあえず人類の大半を犠牲にすることはなかったが、ほとんど区別がつかないほどのRNAのわずかな変異によって、真に恐ろしい事態が発生し得たかもしれないというのは、ぞっとすることだ。

『肉食屋敷』 小林泰三
 SFマガジンに載った「肉食屋敷」(「脈打つ壁」改題)、異形コレクションの「ジャンク」、小説non掲載の「妻への三通の告白」、メフィスト掲載の「獣の記憶」の4編が収録されている。「結果的に、怪獣小説、西部劇、サイコスリラー、ミステリーというバラエティに富んだ構成になった」と作者があとがきに書かれているが、その中では西部劇となっている「ジャンク」が一番好きだ。だって一番SFだから。「肉食屋敷」も怪獣ものでマッド・サイエンティストものだから好きな部類だが、本来もっとマッドでハチャハチャな話になるはずじゃないかと思う。サイコスリラーとミステリは、どうもぼくの素直な(?)頭ではトリッキーにすぎて、無理があるように思えてしまう。でもぼくは本格も新本格もちゃんとした読者じゃないんで、これはこれでいいのかも知れない。ちょっと自信がない。

『不安な童話』 恩田陸
 5年ほど前に出た本の文庫化。どうもぼくはこの作者と相性がいいみたいだとわかったので、出たら買うようになってしまった。いきなり超能力者っぽい主人公が出てきて、日常的な世界でのミステリが始まったので、これはもしかして宮部みゆき風になるのかな、と思ったら、なるほど、確かにそんな感じだった。もちろん作者らしい独自な描写はあるのだが、一言で言えば不思議さが足りない。ぼくが読んだこれまでの恩田陸では、超能力はそれがささやかなものであっても、もう一つの世界とつながるものだという印象があった。本書では(宮部みゆきがそうであるように)、超能力は単なる人間の能力(目がよく見えるとか)にすぎず、世界は変容しない。ミステリとしての面白さはあるが、結末はそんなに意外でもないと思う。

『OKAGE』 梶尾真治
 文庫化されたので購入。何か、出た当時、「SFじゃない」とかいう人が(大森望とか)多かったと思う。つまり、オカルトがベースになっていて、SF的な方向性と違うという感じだった。で、まあ読んでみたんですが、しっかりSFじゃないですか。いやもちろんハードSFとはいえないだろうけど、ぼくの感覚ではりっぱにSFです。ベースになっているのはオカルト的でトンデモな進化テーマで、波動やら100匹目の猿やら、ポールシフトやら、うさんくさげなものがてんこもり。だから反発を招いたんだというのはよくわかる。でもそれを信じ込んでノン・フィクションにするならともかく、小説にしたらSFでしょう。梶尾さんはちゃんとわかってると思うけどなあ(まあぼくもポールシフトが出てきたときは引いてしまったけど)。『幼年期の終わり』の変奏として読めるんだから、まともなSFですよ。途中、ちょっとだれ場があるが、前半はぐいぐいと引きつけて読ませるし、後半の大破壊シーンも悪くない。善と悪の戦いが思ったほど迫力なかったんで、むしろこっちの日常パニックの方を中心にすればもっと面白かったかも。

『ミクロの決死圏2−目的地は脳−』 アイザック・アシモフ
 昔の『ミクロの決死圏』は面白かった記憶がある。映画も良かったし。で、文庫化されたことだし、傑作じゃなくても面白いSFとして読めるに違いないと思ったのだが……。だめじゃん。まず、登場人物が誰一人魅力的じゃない。とりわけ主人公は優柔不断で勇気もやる気もなく、不満たらたらでどうしようもない。だめなおやじが危機的状況の中で隠れた力を発揮するといったエンターテインメントに特有の魅力もなく、かといってアンチヒーローとして文学的に社会やあるいは読者を衝くといったものでもない。で、そんな奴らが狭い潜水艇の中で人間模様がらみでうだうだ言い争っているだけの話だ。映画にあったようなスリルもないし、SF的な魅力も乏しい。やれやれ。アシモフは何のつもりでこんなのを書いたんだろう。


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