みだれめも 第111回

水鏡子


○5月×日
 高松宮記念。キョウエイマーチ・ブロードアピール・マサラッキの3点ボックスで勝負。一番人気の武豊シーキングパールが差してきて、マサラッキ・シーキング4300円で決まる。かなり悔しい。
 例会にいく。『キリンヤガ』『虚ろな穴』『グッドラック』『POG完全攻略ガイド99年版』『広告批評7月号』『妖怪花合わせ』を買う。
 『黄金色の祈り』(文芸春秋)で西澤保彦をはじめて読む。これがふだんの作風なのかどうかわからないけど、自虐色が強い作品。評価可もなく不可もなく。
 浦賀和宏『頭蓋骨の中の楽園』(講談社ノベルズ)は『記憶の果て』のシリーズ第3作。全体に小粒。番外篇といった印象。あるいは新展開にむけての新メンバー紹介篇か。敵役のイメージが、「ネルフ」と碇ゲンドウにますますかぶさってきた。インターネットでけなされたうらみをねっちりと書いている。不安になって自分の言及を読み返す。

○5月×日
 古本屋廻り。店の一つで1000円以上買うとお菓子詰め合せがもらえるセールをやっている。必死で10冊買おうとして1時間以上かかる。ばか。
 『イマジン(9)』『ベル・エポック(3)〜(7)』『エラン(1)(2)』『美しの首』『氷室冴子読本』『貧乏は正しい』『王と天皇』『死人騎士団(1)』『死霊たちの宴 上下』『うわの空で』『エヴァンゲリオン完全攻略読本』『エヴァンゲリオン研究序説』『パラノ・エヴァンゲリオン』『スキゾ・エヴァンゲリオン』『中国神話伝説集』を買う。
 作者名を書かないで羅列をしても、半年先には買った本人がどんな本だったかわからなくなることだろうな。
 去年絶賛した須田鷹雄他編『POG本』(光文社)。今年度版は去年のものより取材にも本にも金がかかった感じ。ごりっぱになってそのぶん文章から熱気が薄れた。
 そういえばこの人の本だというだけで、ゲームをやったことがないのにダビスタ本を1冊買った。『もうひとつのダビスタワールド』(アスペクト)という本。本編がダビスタでの最弱馬作りの結果報告、枝編がばんえい版ダビスタ企画と、あいかわらず着眼点には拍手であるのに、なんか仕上げがやっつけ仕事。惜しいなあ。
 水樹和佳『イティハーサ』(集英社)が(14)(15)で完結した。お約束通りの収束は、まあオーソドックスなお話だから、それはそれでいいのだけれど、クライマックスにむかってはもっと盛りあげてほしかった。とっちらかされたエピソードをバランスよく収束させていくためには(14)から(17)の4巻くらい必要だった気がする。物語の結び方が直前に遊んだばかりのギャルゲーの「ワーズワース」(エルフ)とシンクロしたのがけっこう面白かった。

○5月×日
 レズニック『キリンヤガ』(早川文庫)読了。形式的にもテーマ的にも同工異曲を反復させて波状効果を目論んだ連作年代記。「空に触れた少女」が佳作で、残りは総じて水準やや上といったところか。極右のあぶないおじさが主人公である。小野田さんがブラジルにいってユートピアを創ろうとする話。あとがきをみても是非相半ばさせる主人公の造型は作者会心のできのようだが、その造型、主張、物語とも公式的な枠の中に収まっていて、それはすなわち安心して予定調和に小説を味わえることでもあるのだけれど、結果的にできあがるのは昔書いたことのある「腺の細いアンダースン」というレズニック評にのっとるものにすぎない。腺の細さがプラスに出た作品ではあるけれど、読み心地のいい上品な良書の域にとどまっている。
 でも、ソーヤーよりは、レズニック。(といっても、『スタープレックス』はまだ未読)ベスト5下位候補。

 SFM7月号のてれぼーと補足。
 枚数の問題もあって短絡的な論理展開。加齢による〈アメリカン・ドリーム〉の変質に端を発する制度的思考の破綻という切り口は、六〇年代文化論としてけっこう目新しいアイデアだと思うのだけど、あの時代の全世界規模の文化変動をじっさいに見聞きした立場からすると、あれをアメリカ一国の国内事情に収斂させるのはやりすぎだろうとは思う。それでも一端の因果関係はあるんでないかなあなどと、書いてるときから怯えつつ披露してみたしだい。ただ、50年代というのは、アメリカ人が、現実世界の延長上に〈アメリカ〉というユートピアを見ることができた至福の時代だったのではないかという思いはかなり強くある。世界一の強国として、欧州本国へのコンプレックスを完全に振り払うことができたはじめての時代。現実社会の矛盾は、すべてソ連を中心にした共産主義の脅威を克服した暁にはすべて解消されるはずだと信じることができた時代。それが1950年代だったのではないのだろうか。
 あと、書くと収拾がつかなくなるので省いたけれど、〈郊外住宅ユートピア〉の背景には黒人・低所得者層の都市部への大量流入といった陰の部分がもちろんあるし、WASPとユダヤ系文学とかいろいろちゃんと見えてないことがじつはあります。
 書評コーナーで中野善夫がとりあげている『ファンタジー文学入門』(大修館書店)そのうち読もうと寝かしたままこのまま機会を失いそう。SFの箇所をつまんで読んで、ひさびさの馬鹿な訳題によろこんで、ちゃんと紹介しようと思ってたけど、『カルヴィーノの文学講義』(朝日新聞社)や能村庸一『実録テレビ時代劇史』(東京新聞出版局)やら気になるリファレンス本が溜まってきて億劫になった。アシモフ「夜のとばり」と、ロバート・E・ハインライン、キャンベルの作った同人誌「アンノウン」、デイクソン『竜と聖ジョージ』なんてところが楽しめた。

○5月×日
 オークス。ウメノファイバー・ゴッドインマーチ・ピサノガレーの3点ボックス。一番人気の武豊トゥーザヴィクトリーが来て、ウメノファイバー・ヴィクトリーで2800円。
かなり悔しい。
 例会にいく。佐脇一家がひさしぶりに来る。

○6月×日
 古本屋廻り。『ポーの一族(1)〜(3)』『雷火(1)〜(6)』『愛しのバットマン(5)〜(13)』『人魚の森』『人魚の傷』『Pの悲劇』『招霊妖術師』『ダーク・ハーフ 上下』『女性と東西思想』『東日本と西日本』『ジプシー民話集』『フランス妖精民話集』『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』を買う。
 昔読んだ手元不如意のコミック本を値段百円に惹かれて買いこむ変形ノスタルジー傾向が強まっている。
 谷川俊太郎の『わらべうた』の話になって、たしか4、5年か、もうちょっと前に文庫落ちしたとき本を買ったと言う。家に帰って文庫の奥付をみたら昭和60年の本である。ショックを受ける。

○6月×日
 ダービー。また武豊のアドマイヤベガが来て、馬券が外れる。学習能力のない人間である。
 佐脇家でゲーム会。カタンその他をやる。勝てない。

○6月×日
 古本屋廻り。『アラベスク(1)〜(3)』『愛のアランフェス(1)〜(3)』『きらきら馨る(2)』『カスミ伝 全・S』『ピタゴラスの定理』『曽田正人作品集』『ユリイカ増・死者の書』『エスノメソトロジーとは何か』を買う。
 キャシー・コージャ『虚ろな穴』(早川文庫)読了。
 あらすじ紹介を読んで、ホラー版「おーいでてこい」かなあといいながら読んでみると、「X電車で行こう」だった。ような気がする。「X電車で行こう」がどんな話だったか筋がおぼろだ。だけど社会に向かって開いているか閉じているかのちがいはあっても(すごく大きなちがいみたいな気がしなくもない)、エッセンスはこういう話だったような気がする。傑作。
 考えてみると「X電車で行こう」の発表当時、これもSFであることをほとんどの人が当然視していた。今『虚ろな穴』をいいSFだと言いきる人は、どれくらいいるんだろうか。そう考えると、SFと呼ばれるもののイメージは、昔にくらべてずいぶん狭く薄っぺらくなってきているのではないか。
 傑作が続く。
 神林長平についてはあんまり作家論が書ける気がしない。なにをどう書いても、ただのエッセンスとしてのSF論にしかならないような気がするのだ。ほとんどSFが服を着て歩いているとしか思えない。そしてこれだけの作品をコンスタントに量産しながら、SFファン以外のところで神林という作家の知名度が全然あがっていかないところ、作品自体に漂うある種の窮屈さ、そんなところも神林本人の欠点というより、SFが本来的に抱えている弱点としか思えない。ディックとの比較が一時期流行ったけれど、作家的に近いのはむしろレムでないかとふんでいる。アプロとラテルとラジェンドラがいなかったら神林ワールドは煮詰まった窮屈きわまりない世界に落ちこんでいたにちがいない。
 待望の雪風第2弾『グッドラック』(早川書房)は、たぶん今年の日本篇ベスト1位。ジャンルSFの頂点に立つ作品。『ソラリスの陽のもとに』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』『エリア88』のハイブリッドというと誉め言葉になるのか、けなし言葉になるのか。
 連作長篇と呼ぶには個々の中短篇の単独での出来ばえは今ひとつ。長篇が勝っている。

○6月×日
 神大SF研新歓コンパに顔を出す。古本屋で『世界時局地図:1937』を千円で買う。ギャザ、疲れて〈レガシイ〉を買う元気を無くしているうち、とうとう〈デスティニィ〉が出てしまう。
 マイルチャンピオン。グラスワンダーの相手に武豊シーキングザパールを指名。一点買いで勝負。武がこない。

○6月×日
 茅田砂胡〈デルフィニア戦記〉第1巻『放浪の戦士』を読む。
 たとえば『銀英伝』にしても『ロードス島』『宇宙皇子』にしても、1冊も読んでないけど、売れている様子や評判その他モロモロは耳に入ってきていたものだ。〈デルフィニア戦記〉で悔しいのは、そんな情報がまるでアンテナにひっかからず、最新刊の本屋大量平積みで、はじめてその存在に気がつき、しかも作者の名前が読めなかったこと。とりあえずチェックしているはずのジャンルであるだけに、アンテナの錆びつき具合にショックがあった。そんな事情でめずらしく覗いてみた。
 初篇、設定・発想・展開その他、興奮とは縁遠いけど気楽に読める。こんなものかと思って読めば、まあそれなりに楽しめる。


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