気分はリングサイド――わたしのプロレス観戦日記(6)

青井 美香


3月26日(金)
きょうはチャンピオン・カーニバル開幕戦。
でも、28日に先日亡くなった祖母(相方の母方)の49日の法要があるので、そのために体力温存をしておかなければならないわたしは、きょうと明日の試合のチケットを、またまた断腸の思いで、FBATL(ニフティのプロレスフォーラム)の知り合いに売りわたし、家でおとなしく相方の帰りを待つ。
「ね、ね、開幕戦どうだった?」
「いやぁ、入場シーンでリング上でみんなV字型に並んだんだけど、これってはじめてだよね。やっぱ、三沢のプロデュースかなぁ」
「で、大森くんは?」
「6人タッグでがんばってたよ。場外戦ではベイダーに果敢に突っ込んでって、やられてた」
後日、ビデオに撮っておいた「全日本プロレス中継」で確認。うんうん、大森くん、がんばってたみたい。ああ、観にいきたかったなぁ。

3月27日(土)
午前中は愛犬ポンタを獣医さんとこへつれていく。ううむ、肝機能の値は正常値に戻ったものの、今度は血液中の水分がたりないと言われてしまう。困りましたねぇ。水皿をおいておいても、ポンタにむりやり水を飲ませるわけにもいかないし。
お昼は買ってきたものを適当に食べて、ちょこっとお昼寝したあと、相方は一人で後楽園ホールへ。わたしはポンタと寂しく夕食。冷凍ミニハンバーグを焼いたところ、しっかり焦げてしまいました。これも観にいかれなかったストレスかしら。(って、そんなわけはないと思う(^_^;))
明日が早いので、相方はわりと早めに帰ってきた。
「きょうの大森くんはどうだった? 小橋とシングル対決だったでしょ?」
「結果としては負けたけど、よくやってたよ。小橋の牙城をゆるがせるところまではいったんじゃないかな」
「ああ、観たかった……観て、応援したかったのにぃ」

4月11日(日)
きょうはひさしぶりの後楽園ホール。
といっても、別にふだんと変わりなく、試合はさくさく進みます。
第一試合で目についたのは、飛び技の攻防。むかしの全日の第一試合は地味なグランド技の応酬だったのに、タッグマッチとはいえ、ダブルで飛んだり跳ねたり。丸藤、浅子対金丸、菊地の身体の軽い4人だから、あたりまえなんだけど、今昔の感あり。なんてね。
第二試合は、志賀、本田対森嶋、垣原の異色(?)タッグマッチ。ま、このなかに入ると、キャリアが一番浅い森嶋がやられるのはしょうがないところ。試合のあと、やられちまった森嶋くんの面倒をみる垣原。アンタッチャブルは3人だから、自分のタッグパートナーとして森嶋くんを考えているのかしら。
第三試合は、悪役商会の試合。試合前のボール投げがなくなってしまって、ちょっち寂しいぞ。そのうえ、なんと、きょうはもろに永源さんの唾がこっち方向。で、あたってしまいました。顔はなんとか新聞で隠したものの、ズボンの膝あたりに着弾。ひえー(^_^;)。
さて、休憩後、第四試合は、こんな前にはお珍しい三沢が小川と組んで、ヘッドハンターズ。試合組み合わせを見たとき、「この試合は短かそうだ」と思った印象は裏切られず。さっさとヘッドハンターズが負けて終わり。なにせ、後半、シングルが3つもありますからねぇ。
というわけで、第五試合は、わたしがこのためだけにきょう後楽園ホールへやってきたといっても過言ではない、チャンピオン・カーニバル公式戦での、大森対秋山。新聞やTVで煽るだけ煽った前評判。ひょっとしてひょっとして、大森くんが秋山を破らないまでも、ドローには持ち込めるかと期待させてくれました。
でも、試合のほうは、前半のグランド勝負の時間の長さで、大森くんの負けが見えてしまった。いえね、すっごくがんばったんですよ、大森くんは。けれど、自分の流れを作りだすことができなかった。攻撃も散発的。それにひきかえ、秋山は、試合の展開をものにしていったっていうのかな。パワーだと、もう、絶対、秋山よりも上なんだけど、そこらへんがいま一歩、崩せなかった要因か。
それにしても、この2人の攻防は、ほんと華があるんです。
どっちもかっこいいし、どっちも見栄えがする。リングに立っているだけで、なんだかオーラみたいなものがゆらゆらと立ち上ってくるのが見える。
相方曰く「この2人のシングルがメインにならないようだと、全日本プロレスの未来はない」。うんうんとうなずくわたしでありました。
第六試合は、井上雅央、新崎人生、田上明対モスマン、ジョニー・スミス、ゲーリー・オブライト。人生の痛々しい姿(ベイダーに肋骨をへし折られたらしい)しか印象にありません。
第七試合は、公式戦。高山、思いきりよくベイダーに玉砕。
そして、メインも公式戦。小橋対エース。秋山に一泡吹かせたエースのことだから、ここでもあわよくば小橋を食うかと思っていたけど、結果はドロー。(小橋の左脹脛のがちがちのテーピングがとっても気になるなぁ)
エースは小橋との場外戦で、もんどりうって、わたしのすぐ前の席にまでつっこんでくるし。2人、へとへとになっての30分の試合でありました。

4月16日(金)
きょうはチャンピオン・カーニバルの決勝戦。でも、わたしは武道館には行かれず、うちで実家の母の相手。
あの九段下から武道館にあがる坂道がなければ……。いまはちょっと坂道(もしくは階段)を上り下りすると動悸がひどいので、じっと家で我慢の子。それにしても、昨日の夜から、鼻水がとまらないと泣き言を言っていた相方は、きょうはしっかり観戦に行く。これで週末、風邪で寝込むんだろうなぁ。(このわたしの予感はしっかりあたった)
帰ってきた相方は興奮していた。
「いやぁ、やっぱ、すごかったよ、小橋とベイダーの肉弾戦は」
「で、どっちが勝ったの?」
「ベイダーさ。最初はわりと静かな展開だったんだけど、中盤からすごくて……でも、あのベイダーが小橋の足を一回も攻めなかったんだよ」
「って、どういうこと?」
「つまり、それだけ、フェアな勝負だってことを、観客に印象づけて、自分が勝ちたかったんじゃないかな」
「大森くんは?」
「試合後、エース相手に、なんかリアクション起こしてたけど、試合はまあまあだったかな」

4月17日(土)
きょうは、馬場さんへのありがとうの日。
相方が元気だったら、車で行こうかと思っていたのに、きのうの無理がたたったか、風邪でダウン。
夕方、TVで観たら、かなりの人数が集まっていた様子。花でいっぱいになったリングが哀しかった。

5月2日(日)
SFセミナー当日。
はい、わたしはたしかにこの日、水道橋におりました。
でも場所は全逓会館ではなく……東京ドームでした。
そう、全日本プロレス主催の「ジャイアント馬場引退記念興行」。わたしは東京ドームの三塁側の席で、午後2時から7時過ぎまで、ずっとプロレス観戦。
どっちかっていうと、東京ドームでのプロレス観戦って、関心が散漫になってしまって、後楽園ホールや武道館で観るときみたいな、集中力がもてないから嫌いなんだけど、でもその一方、お祭りムードはどこの会場よりも高いから、やっぱり行ってしまうんですよね。それに今回はなんといっても、馬場さん引退興行。武道館でお別れをいえなかったぶん、これを逃してはの思い、ありました。
で、とりあえず、休憩後の試合から感想をば。
休憩後、とっぱなの試合は、入場シーンでドームが揺れた。みちプロのザ・グレート・サスケがIWPGタッグチャンピオンのベルトを肩にかけて入ってきたんだもの。IWGPといえば、猪木が作った新日のベルト(ほんとはちょっとちがうのかもしれないけど、大多数の認識はこんなもん)。新日と全日といえば、相容れない二大メジャーだったわけでしょ。それがいきなり……。
ま、試合のほうは、小川とサスケのからみがあんまりなかったみたいな気がして、いまひとつわたしのなかでは盛り上がりが薄かったのだけど、あとで雑誌の記事なんか読んだら、これがいちばん盛り上がったって。ううむ。感じ方はひとそれぞれだからねぇ。
垣原の掌底が小川に誤爆して、試合後、小川が垣原にいちゃもんつけてたほうが、印象に残ってます。
さて、おつぎはジャイアント馬場引退記念試合。試合ってことは、どういうことなのかと思ったら、往年のライバルたちがリングに上がり、オーロラビジョンで映し出される馬場さんとの死闘シーンを眺め、そしてひとこと弔辞をのべるというもの。キニスキーの英語は、プロレスラー英語のままだったけど、サンマルチノのほうは、ビジネスマンみたいだった。デストロイヤーの「お疲れさまでした」というたったひとことの日本語に、彼と馬場さんとの絆の深さが出ていたような……。
そして、みんながリングから降りたあと、元子夫人がそっと馬場さんのリングシューズをリングに置いた。つぎにオーロラビジョンに映し出されるのは、馬場さんの姿。これは武道館でわたしが観た馬場さんの姿。
リング上には、馬場さんのリングシューズにひと筋のスポットライト。ビジョンとリングを見比べているうちに、リングのなかに馬場さんがそのまま立っているような気持ちがしてくる。馬場さんのいままでの足跡がナレーションで流れてくるのを、ドームに集まった全員が聞いていた。
最後にテンカウント。
シューズをリングからそっとおろしたのは、デストロイヤー。彼はそれを元子夫人に渡し、馬場さんの引退試合は終わったのでした。
きょうのメインはこれで終わったと思ったのはわたしだけじゃないはず。でもでもまだ試合はつづく。
第7試合。大森くんはこの日のために新チーム名(ノー・フィアーですって。なに考えてつけたんだか)を発表して、高山とオブライトと3人で暴れまくってドームで目立つ予定だったのだけど……結果は、おっさんパワー全開のハンセンと田上、そしておひさしぶりねぇのスティーブ・ウィリアムスに負けた(^_^;)。
セミ前は、理由はちがうけど、長期休養明けの2人が闘うシングル戦。国会議員をやりながらきっちり身体を仕上げてくる馳は、相変わらずすごい。で、骨折の治ったはずの川田はというと、こっちもシェイプアップ。けれど、試合のほうは……。やっぱり試合勘というのは、ちょっとやそっとでは戻ってこないものですねぇ。それに、川田、ちっとも怪我なおってないじゃん。
セミは、なんで6人タッグなの、小橋・秋山対ロード・ウォリアーズのほうがよかったんじゃないっていうのが、正直な感想。でも、あのウォリアーズのテーマ曲がドームに流れたときは、わくわくさせられた。兄を従えて(?)入場してきたエースは、しごく嬉しそうだったし。ま、人生が捕まる展開になるのは仕方ないか。
そして、最後の試合。ベイダー対三沢は、三沢が勝つにはこのパターンしかないねのパターン(エルボー、エルボー、エルボーの乱打で、ベイダーの意識を奪う)で、三沢が勝った。わたしの前の席の三沢ファンは興奮していたけど、でも、この試合がベストバウトだとは思えなかった。すごい試合だとは思うけど、緊迫感が欠けていた。
全体的に、現実の試合のテンションはいまひとつだったけど、きょうは馬場さんの引退試合がすべて。
東京ドームをあとにするとき、ふと、もう馬場さんのテーマ曲「王者の魂」を聞けないんだなぁと思ったとき、心のなかを一陣の風が吹きぬけた。
馬場さん、ありがとう。


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