気分はリングサイド――わたしのプロレス観戦日記(3)
青井 美香
11月14日(土)
さあ、きょうは最強タッグの開幕日。天気もよく、まさに昼間は小春日和、行楽日和でもありました。後楽園ホールも満員で、バルコニーの立ち見席もいつもよりぐっと人数が入ってます。
第一試合はSPEEDの島袋に似ていると評判の(どこがだという話もあるが)丸藤&浅子対金丸、井上雅央の山梨県出身コンビ。地力にまさる雅央が丸藤をアルゼンチンバックブリーカーでかつぎあげ、ギブアップ勝ち。それにしても、パンフレットの「甲斐の怪力」のフレーズがなんとも……。雅央にはほかにキャッチフレーズはないのかと言いたい気分。
第二試合は、本田対森嶋。本田の余裕かましまくりが印象的。
で、第三試合は、いつもの悪役商会の試合。ラッシャー木村さんの右目が妙に腫れていたのが気にかかったけど、まさか、酔っ払って歩道のブロックに激突したとかいう、そんな痕じゃありませんよね。
そして、休憩時間のあと、リング上にはいつのまにか運び込まれた二つのトロフィー。そう、年末の風物詩、世界最強タッグリーグ戦開幕の入場セレモニーであります。
といっても、出場レスラーが、自分の名前をプリントした襷をかけてリングに入ってきて、ロード・ブレアーズという元レスラーが英語でなんだか御大層な文句を朗読して、前年度のチャンピオンがトロフィーと額の返還を行なうだけ。
しかし、あの「オリンピア」という曲が会場に流され、照明の落とされた会場に、レスラーが次々とリングにあがってゆくさまは、なんというか、万感、胸迫る思いがします。ああ、今年ももう終わりなんだなぁ、そんな思いでいっぱいになるのです。
注目の大森(隆男)くんも高山と元気に入場。二人とも前シリーズとおんなじコスチュームだけど、もともとが黒を基調にしているので、合わせたみたいにぴったり。こうして二人が立っているところを見ると、日本人にしてはかなりの大型コンビだなぁ。
そして休憩後の第四試合は、大森くんが高山・垣原と組んで、泉田・キマラ・オブライトと対します。
キマラは、今回、イメージチェンジをはかってきたのか、なんと、リングシューズを使用し、そのうえ、コスチュームは黒のアマレスタイツ。オブライトと合わせたのかしら。そして、もちろん、顔にペイントもなし。ニューキマラといったところでしょうか。ただし、ファイトのほうは以前とあんまし変わりはない。
大森くんのきょうの試合は……けっこうがんばってました。ただ、高山も大森くんも、カットプレーに入るタイミングがいまひとつ、遅い。これが、公式リーグ戦になったときどう影響するか、気になるところです。
ま、試合の最後では、二人の合体技を泉田に繰り出してたし、リーグ戦用の秘密兵器はそれ以外にもあるみたいだし、すべては明日の試合を見てからじゃないと、なんにも言えませんが。けど、合体技で泉田からすぐにピンをとれなかったのに、一抹の不安。泉田の地力がついたとも言えるのでしょうけど。
次は注目の新規参入外人バート・ガンがエース、モスマンと組んで、志賀・秋山・小橋とあたります。
この試合、通路から大森くん、メインの試合に出る三沢などが観戦。その注目度の高さがわかるもの。
そういえば、わたしって、バート・ガンは初めてじゃないんですよね。94年5月にWWFが開催したマニアツアーでガンは日本にやってきていて、わたしと相方は、わざわざ横浜アリーナまで試合を見にいったのです。しかし、そのときは「スモーキン・ガンズ」というタッグチームで、やたら派手なアクションでガン(銃)を打ち鳴らす入場パフォーマンスしか記憶にない。どっちがバートでどっちがビリーだったか、まったく覚えていないのでした。
で、そのガンですが、彼はけっして「とんだいっぱい食わせ者」じゃあありませんでした。秋山にはなった脇腹への拳は強烈で、そのあと秋山の動きはがくっと落ちる。タッグ屋らしく、タッチワークもスムーズ。瞬発力もあるし、これはそこそこいくかもしれないと思わせます。試合のほうは最後、志賀が貧乏クジ。ガンにつかまり、エースとの合体技、ナイアガラ・デス・バレー、新型エースクラッシャーと、たてつづけに決め技三連発をくらってピンフォール。合体技をくらった時点で、志賀としてはもうメロメロだったのだけど、秋山のカットが間に合ってしまい、かえって志賀にとってはひどいことになってしまったよう。森嶋に背負われて退場。お疲れさまでした。
このあとはセミとメインの公式リーグ戦。けど、どちらも順当勝ちというのでしょうか、さしたる波瀾はなし。
セミに出た双子のでぶちゃんずのヘッドハンターズは、あっさり川田・田上組にピンフォール負け。それにしても、双子のはずなのに、ヘッドハンターズBは減量したのか、Aとずいぶんお腹の出っ張り具合が違ってました。
メインは下馬評どおりの強さを発揮して、ハンセン・ベイダー組が三沢・小川組をパワーで蹴散らしておしまい。いやぁ、ほんと、この二人が組むとすごいです。ただ、リーグ戦なので、最後までスタミナがもつかなぁというところが、この組の唯一の不安材料か。だから、リーグ戦の最後のほうでこの組とあたったほうが多少は有利かも。
そんなことをいろいろ思いながら、家路につきました。
11月27日(金)
14日の翌日、15日にももちろん後楽園ホールまで観戦しにいったのだけど、その日の夜、観戦記を書こうと思っていたら、相方がうちのこたつトップ・パソコンを使用中で、なんとなく書きそびれ……きょうになってしまいました。ま、その間、年末恒例のいつものバイトで忙しかったというのもあるのだけど。
で、15日は、大森・高山組の公式戦初試合だったのですが、エース・ガン組にあえなく敗退。いや、これはと思わせるところもあったのだけど、コンビネーションの差か。大森くんは、退場するとき、後楽園ホールのファンに野次られ、応酬してたけど、負けて退場するときに大口たたいても……ねぇ。ま、そこが彼のかわいいところなんですが。
でも、この大型コンビ、どこかでブレイクしてくれるはず、と思って、連日、新聞や通信で、各地で開かれている公式戦の情報を追うものの……今日にいたるまで、勝ち星なし(涙)。あの、こいつらなら勝てるだろうと思われていたおでぶちゃんずの双子のヘッドハンターズにまで、白星献上してるんだもん。哀しいっす。
そうこうするうちに、このリーグ戦が終わったら、馬場さんがいよいよ本格的にアメリカのプロレス団体WWF首脳と提携の話し合いの場をもつとかいうニュースも新聞に載りました。全日の選手がアメリカに長期遠征することも考えられる……って、その候補者のなかに大森くんの名が……。
ひえー、来年からは大森くんを観るためにアメリカまで行かなくちゃいけなくなるかも。いや、そんなお金はないから、とりあえず、WWFの試合も放映しているパーフェクTVに加入したほうがはやいか……。
いろいろと心乱れる11月末の週末であります。
11月30日(月)
ようやく大森・高山組、27日の盛岡大会で最強タッグリーグ戦初白星をキマラ・オブライト組からあげたというニュース。ほっとしたりして。でも、ニフティのFBATLの観戦記を読むと、相変わらず、高山が捕まっているときに、大森くんはなにもせずに場外で吠えてただけとか書かれていて、ファンとしては複雑な気持ちです。
12月5日(土)
きょうは最強タッグリーグ戦最終日。優勝は、ここまで無傷でつっぱしってきた、皇帝戦士ベイダー・不沈艦ハンセン組か、それともバーニングの小橋・秋山組か……とにかく、大森くんは一勝あげただけで終わり。優勝戦線にはまったくからみませんでした(哀)。
それはともかく武道館。試合開始前に、まずは今年の武道館を全部観戦したスタンプラリーの賞品を引き換えにいきます。去年は特製テレカだったけど、今年は「満員御礼」Tシャツでした。
とりあえず、第一試合から第四試合は飛ばします(^_^;)。
さあ、第五試合、大森くんはモスマンと組んで、エース・ガン組。まあ、よくも悪くもないいつもの大森くんの試合。「アックスボンバー!」と自ら叫んで放ったボンバーは、一部で失笑をかってたかもしれないけど、わたしはよしとします。自分がプロレスファンだってこと、もっともっと試合にだしていかれれば、彼ももひとつブレイクできるのに。
セミの六人タッグマッチは、決勝戦に出られなかった残念組によるファイト。高山は川田・田上とぎくしゃくしたタッチワーク。それにひきかえ、垣原のほうは三沢・小川とスムーズにタッチしてます。それでも、体格的にいっても、圧倒的に川田・田上・高山のヘビー級トリオのほうが優勢だと見えたのだけど、試合ってわかりませんね。田上の腰への垣原の一発がうまく入ったのか、それとも最初からそこを痛めていたのか、田上の動きががくんと悪くなって、ほとんど戦線離脱状態。そこへもってきて、タッチワークが悪いから、高山がリング上で孤立してしまうと、試合はあっけなくジ・エンド。
メインは、秋山・小橋組の勝機はたったひとつしかないねと、試合前に予想していたとおりの展開でした。物量でまさるハンセン・ベイダー組の猛攻をなんとかかんとかしのぎきって15分。そろそろベイダー先生、スタミナが……というときに、秋山・小橋組、満を持しての合体攻撃。そして、ハンセンを小橋のラリアットが襲い、スリーカウント。
カウントが早かったとか、いろいろ言われているけど、いいんです、この幕切れで。
すばやく椅子をたったわたしは鉄柵へ。そして、怒ったベイダー、ハンセンによる怒涛の攻撃フルコース・シーンを満喫しました。小橋も秋山もリング上に大の字にのしたあと、怒れるオジサン二人組は、さっさか、花道を帰っていったのでした。
そして、そのあとは一年の最後を締めくくる表彰式。さすがにハンセン、ベイダーは来なかったけれど、そのほかの出場メンバーはみんな登場。このときに、それぞれの選手の私服のセンスがうかがえるのも楽しみのひとつ。もちろん、わたしの目的は大森くん。ありがたいことに、きょうの彼は全日のTシャツにジャージーでありました。意外と決めていたのは、ヘッドハンターズの二人。いかにもレゲエという感じで、パープルカラーがお似合い。
さてさて、鉄柵のまわりというのは、ファンが鈴なりとなってリング上を見つめているのだけど、そのファンって、みんな若いんですよね。たぶん、わたしがそのなかでは最高齢を誇っていたんじゃないかって。でもでも、無理して(?)鉄柵のそばまで行った甲斐があったというもの。最後に出場者みんなそろって記念撮影のとき、なぜかリングの外にずっと立っていたオブライトに気がついて、「中に入れば」とすすめたのは、なにあろう大森くんでした。彼って、こういうところがほんと、いい人。だからこそ、試合じゃ、観ているほうをイライラさせてしまうこともあるのだけど、オブライトと談笑する大森くんの笑顔を見られただけで、わたしは大満足。危険を押して、鉄柵まで行ってよかった。
そして武道館の年末最後をしめくくる山下達郎の「クリスマス・イブ」を聴きながら、家路についたのでした。これで、今年のプロレスは観おさめたと思いながら。
12月8日(火)
やっぱり、神ならぬ身には、思いがけないことがいろいろ起こるものです。今年のプロレス観戦はもう終わったと思っていたのに、気がつくと、およそプロレスを観るとは思ってもいなかったところで、観る羽目になるのだから、世の中面白い。
ところは赤坂プリンスホテルの巨大宴会場。宝島社のイヤーエンド・パーティのことでありました。
会場に入ってみると、中央になにやら巨大なものが布で覆われて鎮座ましましてます。でも、わたしは深くそのことは考えず、ビュッフェに突入。なにしろ、招待客4000人だとかのパーティで、その招待客が全員来たわけではないにしろ、かなりの大人数。食べ物があっというまになくなってしまうというピラニア状態。ちょっと遅れてやってきた相方は、結局ろくに食べられず、帰宅してからソース焼きソバを食べたという惨状だったのでした。
京都からやってきた舞妓さんの演奏もろくにきかず、解体されたばかりのマグロの刺し身をもらう列にわたしが並んでいたころ、巨大な布がはずされるや、リングが現われ、その上で篠原ともえのミニライブが始まりました。いやぁ、相方は中身がリングだとわかってからというもの、かぶりつきの場所からもう動かない。篠原ともえがそんなに好きだったのか、ということではなく、これはプロレスの試合があるにちがいないと読んだ行動のようでした。
「えー、ほんとにプロレスやるの?」
「あのリングはJWPのリングだから、うまくすると、キューティ鈴木の引退前の試合が観られる」
そんなわけで、リングサイド最前列というか、いちばん近くの場所に陣取った相方は、もうそこから一歩も動かず。
そして、食べ物を犠牲にした相方は報われ、見事、それから3試合もほんとにまじかで女子プロレスを観ることができたのでした。(なにしろコーナーポストのすぐそばだったし、宴会場だから鉄柵もなし。普段なら観られない角度で、コーナーポストに上った女子レスラーが見られたりして……これはおいしい)
第一試合の新人同士の4人タッグマッチは、もたもたした試合展開で、わたしはとっとと見切りをつけ、食べ物を探して会場をうろうろしてましたが、第二試合のシングル、宮口知子対本谷香名子では、さすがに釘付け。それだけ、迫力も試合のテンポもちがいました。っていっても、いつも観ている全日にくらべると、ひとつひとつの技は軽いのだけど。
メインは、6人タッグ。相方のお目当てのキューティ鈴木がコマンド・ボリショイ、天野理恵子と組んで、デビル雅美、久住智子、春山香代子と闘います。ほんとは、春山のかわりにダイナマイト関西が入る予定だったけど、彼女は先日の全女の試合で救急車ものの怪我をしてしまったため、本日は欠場。ゲスト席に座ってました。そう、ゲスト席も豪華で、ゲストはアントニオ猪木のものまね芸人、春一番、解説は山本小鉄、インタビュアーとしてフジテレビの佐藤理香アナウンサーという布陣。もちろん、実況つきです。
で、これがわが家の1998年のプロレス観おさめでありました。