内 輪   第99回

大野万紀


 唐突ですが、CSチューナーとアンテナを買って、パーフェクTVに加入しました。スペースシャワーであるライブが見たい(GLAYは出ないけど)という家族の声に安売りのチラシが相乗効果で、即買いでした。全員B型の家族って、困ったもんだね(血液型とは関係ありません――性格がB型ということね。念のため)。ベランダは南向きでじゃまな建物もなく、条件はいいのに、アンテナレベルはどうしても24以上出ない。もっと細かく調整すればいいのかも知れないけど、根性がないので、もういいや。一応ちゃんと映っているし。CSって、音も画像もいいって広告しているけど、そんなことはないですね。圧縮の影響でしょうか。BSの方がずっと音も映像もいいように思う。チャンネル数が多いので楽しいけど、どうせほとんどは見ないのだ。それにしても、もう少し番組の検索機能が何とかならないものか。せめて2週間分くらいの番組表が配信されて、それがチューナーから色んな検索キーで検索できないと、プロモチャンネルなんかじゃどうしようもないと思う。
 加入するためにセンターに電話かけて、相手のお兄さんにこちらのICカード番号などを伝えていると、コンピュータを操作しているような雰囲気があり、突然それまで映らなかったチャンネルが映るようになった。ああ、今衛星にコマンドが送られたのだなあ、と妙に感動してしまった。

 衛星といえば、日本初の火星探査機「のぞみ」(←しかしこの名前はどうも、大森望が火星に向かっているみたいで、何かやだな)が打ち上げられましたね。SFオンライン詳細なレポートがありますが、これは必見です。とりわけ、野尻抱介さんの宇宙研的川教授へのインタビューは非常に読みごたえがあり、心が熱くなります。

 Windows98が発売されましたが、即買ったという人はいるんでしょうか(THATTA関係者で、とりあえず1名はいるみたいですね)。まあ、95より安定性は増しているという話なので、興味がないことはないのですが、ぼくは当分様子見です。それより、これで古い95マシンが安くなっているかと思って日本橋に覗きに行ったのだけど、みんな考えることは同じと見えて、これはという目玉もなかったですね。やれやれ。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。


『13』 古田日出男
 一気に読み終える迫力がある。これがデビュー作というんだからすごいよなあ。SFじゃないとは思うが、周辺領域の作品にはまちがいなく、幻想的だがファンタジーではない。むしろノンフィクションに近いタッチの作品だ。登場人物たちがみんな生き生きとしており、溌剌として生命力にあふれている。とにかく面白かった。
 色弱と脳、アフリカのジャングル(それも現代の)、人類学、サル学、土俗信仰、新宗教の発生、そして子供たちの友情という第一部、そこには諸星大二郎のマンガをよりリアルに描いたような雰囲気がある。小説としての迫力と、知的・思弁的な深みが同居している。現代のアフリカを描いているがゆえに悲劇的に終わる第一部だが、つづく第二部は、叙述のタッチが目を見張るほど異なる。ハリウッド、新進女優、ロック・スター、ウェストコーストのコンピュータ・テクノロジー。第一部で深いジャングルの中で作り上げてきた色彩が、ここでは乱舞している。そして、一番嬉しいのは、本編の登場人物たちが、みんな好ましく、まさしく現代のカルト・ヒーロー/ヒロインにふさわしい人たちだということだ。映画監督、美人女優、デザイナー、ロック・スター、熟年女優も含めて、みんな若々しく熱気にあふれている。かっこいい。そして主人公もまた。
 結末がややトーンダウンな感じもするが、これをオカルト的に深刻に捉える必要は全然ないだろう。人々が熱気にあふれて生きていくとき、時には不思議な現象もおこるのかも知れない、そんな程度で十分だ。あえて一言いうならば、『13』の象徴的な意味が、第一部では十分に伝わっていたのが、第二部ではかなりあいまいになってしまった、ということぐらいか。だから結末近くのシーンが、やや唐突に思えてしまうのだろう。小説内で語られる、民話や伝承話のたぐい、映画のシナリオなどもすごく面白い。特にニカラグアの「犬の少年」の話はすごい。

『終末のプロメテウス』 ケヴィン・アンダースン&ダグ・ビースン
 いかにも映画的なパニックものだが、後半はアフター・ホロコーストものでもある。しかし、そういう意味では必要十分な書き込みがあり、面白いし、良くできたエンターテインメントになっている。ただ、登場人物は多すぎる。もう少し、エピソードを絞った方が読みやすかっただろう。ロック・フェスティバルのエピソードも、感動を盛り上げて、映画だときっといいシーンになるだろうが、それに作者はきっと書きたかった(何しろ各章のタイトルが曲名になっている)のだろうが、小説的には全く関係ないエピソードだ。こういうのは前作でも感じたなあ。

『絶滅のクレーター』 ウォルター・アルヴァレズ
 面白いと聞いていたが、本当に面白かった。隕石説の張本人の本だけに、一方的な内容かと思っていたのだが、批判的な説にもたっぷりとページを使っていて、信頼性がある。内容もわかりやすく、ドキュメントとしても面白い。これで地図がついていれば、もっと良かったのだが。

『タイムクエイク』 カート・ヴォネガット
 小説というか、エッセイというか、『チャンピオンたちの朝食』と似た感じかも。すごく淡々としているので、読みやすいが、凄みはない。軽く読めてしまう。結局、身近な人々への愛といわゆる拡大家族へのノスタルジーみたいなもの、まっとうなリベラリズムへの気恥ずかしいくらいの指向。いや、すごくわかるし、正しいし、心地よさもある。いい人。キルゴア・トラウトって本当にいい人なんだよなあ。その奇矯さも含めて。「あなたは病気だったが、もう元気になって、これからやる仕事がある」というのも、人を勇気づけるいい言葉だが、素直じゃない人にとっては「せいぜいがんばって!」としか返せないかも知れないなあ。ところで、タイムクエイクだが、解体されたために、本書の叙述を根拠づけるというよりも、単なる背景というか、自由意志の否定という以上のしかけではなくなってしまったようだ。

『ファウンデーションの誕生』 アイザック・アシモフ
 何というか、93年に書かれた話ではあるが、けっこう悲しいものがある。まあSFじゃないとは言わないが、何のリアリティもプロージビリティも感じられない。せいぜいがファンタジーだ。今の世の中で、心理歴史学なんて、解説で田中芳樹が書いているようにフリーメーソンの秘技と変わらない。この田中芳樹の解説はいい批評になっている。登場人物にも感情移入できないし。ファウンデーションの歴史をちゃんと完成させたかったということかも知れないが、それだけじゃあねえ。

『夜来たる』 アイザック・アシモフ&ロバート・シルヴァーバーグ
 シルヴァーバーグは偉い。あの中編が同じ話でこんな長編にできるなんて。それに面白いじゃないですか。破滅SFと大破壊後SFの王道を行っている。実は結末の逆転にちょっと疑問があるのだが、まあハッピーだからいいや。しかし、カオスの時代になっちゃって、『夜来たる』もハードSF的には(厳密な予言という意味で)成り立たない話になったわけだろうな。

『宮廷魔術師は大忙し!』 ロバート・アスプリン
 マジカルランドの4巻。このシリーズは急速に面白くなってきた。初めのうちは主人公がバカすぎてつまらなかった。主人公の成長する話はよくあるが、成長してやっと面白く読めるようになったというのも、すごいことかも知れない。でも、この女王様がもっと活躍すべきだったというのは、大森望に賛成。

『水妖』 井上雅彦編
 ちゃんと続けて出ているのが嬉しい。内容はちょっと夏向きか。空山基のエロティックなイラストがあんまり内容とはマッチしていない感じ(中には合っているのもある)。ホラーな作品と幻想的な作品があるが、ぼくとしては幻想的な方が印象が強い。岡本賢一「濁流」がイメージの鮮烈さで群を抜いて良かった。早見裕司「月の庭」、菅浩江「蟷螂の月」もビジュアルなイメージが印象に残る。ホラー系の作品は、わりとオーソドックスな感じのものが多かったが、どれも水準以上のできだと思った。


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