東三国通信 (第二回)
村上 純平 

 しかしなんなんでしょうね、あのばか騒ぎ。確かに長野オリンピックは見ている分にはおもしろかったんだけど、あのなんとかの一つ覚えのようなマスコミの論調には辟易する。サッカーワールドカップ予選の時もそうだったけど、あいつら本当に”空気”に踊らされてばかりで本質が何も見えていない。大体プロとして勉強不足すぎる。よく、”いまの気持ちは”なんて愚問を発して、それも全国に放送されていて恥ずかしくないんだろうか。あれじゃ選手がキレないほうが不思議だ。その辺の話を今月号のプレイボーイで岡田監督がインタビューで語っていてなかなかおもしろい。まあ、見ている側も”感動をありがとう”なんてどう考えてもマスコミに作らされた言葉をうれしそうに自分の感情としてFAXする奴がゴマンといるのだから、どっちもどっちかもしれないけど。大本営発表に狂気乱舞していたのはこんな調子じゃなかったのかなと思ってしまう今日この頃です。気を取り直して今月はブックレビューから。

”ヘリはなぜ飛ばなかったか”小川 和久

著者はあの湾岸戦争の時に喜々として軍事オタク、もといアナリストとしてTV局をはしごして廻っていた人といえば思い出すでしょう。今回は危機管理アナリストなんて肩書きになっていますが。でも著者って中退してるけど僕の大学の先輩だったのね。知らんかった。中味は阪神大震災の時直後によく言われた、長田の火事は空中消火が出来たのではないかという論議を検証している。当初、自治省消防庁ができない理由にあげていたいくつかの論点を敢然に反証している。ここにもあるのが相変わらずの事なかれ、無責任の官僚体制が根本。筆者の身内である自衛隊を持ち上げ過ぎのきらいがあるが、前半の当日の自衛隊の動きを描いているところでは伊福部 昭かワーグナーがBGMで流れていそうだった。 住んでしたマンションを地震と火災で失ったものからすれば、今さらという部分もあるが、1月17日の午後に空中消火作業用に区域を線引きしたという長田区の地図の写真はなかなかショッキングだ。 序章で兵庫県の抜き打ち訓練の事が書かれているのだけど、山崎断層が地震を引き起こし姫路が震度7を記録したという想定になっていた。やっぱり次はここかなあ。

”天才伝説 横山やすし”小林 信彦

 著者の芸能関係本といえば20年程前に読んだ”日本の喜劇人”がすぐに思い浮かぶ。あのとき感心したのが、ともすれば東京を活躍の場としている者にとって扱いが軽くなりそうな関西の喜劇人、特にその当時の現役バリバリの漫才師をちゃんとフォローいていたのに感心したのを思い出すが、今回もその辺の話は詳細に説明されている。 これを読んでいてつくづく思うのは、関西文化圏の特殊さって言うか、笑いの文化に本人の意識するしないに関わらず、どっぷりと浸かってているのだなあと改めて感じた次第。だって、やすしの話ほとんどどこかで見聞きした話ばかりだもん。やっぱり、土曜日の昼からの松竹座アワーと吉本新喜劇の影響は大だ。 唯一新鮮だったのは”唐獅子株式会社”の映画化をめぐるエピソードだけ。これもいつもの小林信彦流の嫌味っぽい話で決して後味はよくない。古沢センセどうもありがとう。

”決戦前夜” 金子 達仁

 アトランタオリンピックでのサッカー日本代表を描いた前作”28年目のハーフタイム”で僕らの知らない、”世界で戦う”とはどういう事か、ということを教えてくれ、目からウロコが落ちる思いだった、筆者の期待の第2弾。今回はw杯予選でのエピソードを描いているのだけど、筆者の文章を”ナンバー”誌やその他の雑誌等で追っかけていたせいか、あまり新鮮味がないし、中田、川口両選手と俺はこれだけ親しいんだ的な話に終始して中味が薄く感じる。そうなってくると、前作も眉ツバに思えてくるのは読者の傲慢だろうか。もう少し取材に時間をかけて熟成して、5月頃に出したほうがよかったんじゃないかと思える。タイミング的にもそのほうがもっと売れると思うけど。

CDのレビューもしようと思ったんだけど、あんまり書くと次回のネタが切れそうなんで、今回はこんなところで。


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