大野万紀「シミルボン」掲載記事 「ブックレビュー」
鳥類学者が恐竜を語るのは、無謀でも何でもないよねー
『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』
川上和人
2013年に出て、ずいぶん評判の良かった本だ。
ぼくも書店で立ち読みして、えるしまさくさんのイラストがめっちゃ可愛かったので購入。
実際とても面白かった。語り口にユーモアがあって、すごく読みやすい。恐竜の子孫は鳥だということが定説となり、ならば鳥類学者は恐竜学者といってもいいはずだ、ということであり、それどころか、序章では「ここでは鳥以外の恐竜を”恐竜”と呼ぶことにさせてもらえないか?」とまでお願いされるくらいだ。でないと、”恐竜”は白亜紀の末に絶滅した、という言い方ができなくなってしまうものね。
現在の鳥類の生態から、恐竜たちの生活を想像するというのが本書の大きなテーマ。恐竜ファンとしては、特に目新しい発見が書かれているわけではないが、よく整理されて、とても見通しがよくなっている。
面白かったのは、本書を読むための基礎情報を共有するために書かれたという第1章。著者は読み飛ばしてもかまわないというが、種の分類法(繁殖できるかどうかは決定的じゃない)についてや、最新の鳥類の系統樹など、新しい内容が書かれていて、ぼくの古い知識をアップデートできてよかった。
ちなみにぼくの尊敬するSF作家のジェームズ・ティプトリー・ジュニアは、宇宙に広がって多様化した人 類が、同じ人間といえるかどうかという問題に「それはつまり相互の生殖能力だよ!」と答えている(「汝が半数染色体の心」――『老いたる霊長類の星への賛歌』収録)。でも今の生物学的な考え方では、交配可能かどうかよりも、DNAの類似性によって判定されるということだから、未来では、人類とはいえない相手と子
どもを作ったり、同じ人類なのに子孫を残せないといったことがあり得るわけだ。面白い。あ、これは脱線でした。
第2章は、鳥類の進化を語りつつ、恐竜との関係を記す。羽毛のことや二足歩行、尻尾、そして始祖鳥や翼竜 について。ここも面白い。
「鳥は翼でできている」「鳥も恐竜(鳥の祖先である恐竜)も二足歩行する。鳥と人間の共通点は二足歩行 することである」「鳥もおだてりゃ木に登る」そして「鳥は空を飛ぶために、歯も腕も尻尾も捨てた。過去を捨てることで、空に特化したミラクルボディを手に入れた」というのだ。
第3章が本書の中心、恐竜の様々な生態を鳥の生態と比較しつつ想像する章で、鳥類学者としての著者の面目 躍如である。
話はとても面白い。でも書いてあることはわりと普通。普通ではあるが、断片的な知識の整理が出来ていい。
カラフルな恐竜がはやっているが、実際には真っ白な恐竜もいただろう、とか、繁殖期の恐竜はブーブー、ボッボー、ピピピピッと鳴いていただろう――これは中生代の風物詩である――とか、恐竜も渡りをするとか、鳥からの類推で、いろいろなことがかなり確からしく想定できるわけだ。
最後の第4章は恐竜のような生物が生態系にどう影響をおよぼすのかという考察と、絶滅について。
中でも恐竜が集団で通った道は獣道(けものみち)ならぬ恐竜道となっただろうという考察が興味深い。それは人間が作るような本格的な道路だったかも知れない。太古の地球は『ハイウェイ惑星』(石原藤夫)だったのかも。これは惑星中に張り巡らされた、誰が作ったかもわからないハイウェイの上を、車型の生物が走りまわっているというSFで、とても面白いので見つけたら読んでみてください。
面白くて、さらに想像をたくましくできる。そして鳥についての知識も得られるという本だった。評判になったのも頷ける。
最近、著者の新しい本が出た。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』と、誰にケンカを売っているのかわからないけど、タイトルからしてすごく面白そう。鳥類学者シリーズなのか。これも早く読まなくちゃいけないな。
(17年5月)