大野万紀「シミルボン」掲載記事 「ブックレビュー」
ぬいぐるみクマさんたちの二次創作、というのではないけれど…
『地球人のお荷物』
ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン
ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスンの〈ホーカ・シリーズ〉をご紹介します。
星間調査部隊の少尉、アレグザンダー・ジョーンズ(アレックス)は、地球から約五百光年離れた惑星トーカに不時着。この惑星にはホーカという、ぬいぐるみのクマに似た先住民がいた。アレックスは後に汎生物連盟全権大使として、妻のタニと共にこの惑星に赴任し、やんちゃなホーカたちの指導役として、愛情をもって接していくことになる。迫り来る宇宙政治の危険な陰謀とも闘いながら……。
そして、そのホーカというのが、もう大変で……
玩具の熊(テディベア)をそのまま大きくしたような格好で、身長は1メートルそこそこ、ずんぐりむっくりした全身は黄金の柔毛でおおわれ、鼻はちんまりと丸く、眼は小さく黒く、しかもおたがいが区別のつかぬほどそっくり似ている。性質は従順、子供の無垢な想像力と成人の体力をかねそなえている――といえば聞こえはいいが、物事にむやみと熱しやすく、事実と虚構を区別する能力にとぼしく、そんなところへ地球の文化がどっとはいりこんだものだから、さて、どうなったかというと……
(「解説」伊藤典夫より)
物語にのめり込み、みんなでそのマネをするようになったのですね。
西部劇にはまって西部の街を再現し、シャーロック・ホームズにはまってロンドンと呼ばれる街ではずんぐりむっくりしたホームズが難事件を解決する。宇宙パトロールのスペースオペラに、本物のオペラ、海賊になったり、外人部隊になったり、大まじめにコスプレを繰り広げるのだ。
本書に続く『くたばれスネイクス!』では、野球にスパイにジャングル・ブック、そしてナポレオンまで、とことんなりきっちゃう。
他に、スピンオフの長編『がんばれチャーリー』がある。
どれもとにかく楽しい。そしてホーカたちが可愛い。天野喜孝さんのイラストもぴったり。
書かれたのは主に1951年から57年。その後75年に『がんばれチャーリー』が出て、さらに83年になって『くたばれスネイクス!』収録の「ナポレオン事件」が書かれている。
日本でも昔から人気が高く、ユーモアSFの傑作の一つといっていいでしょう。
(16年8月)