SF映画総解説 Part1/Part2より
大野万紀
早川書房「SFマガジン」17年10月号/17年12月号掲載
2017年10月1日/2017年12月1日発行
■1978年『ルパン三世 ルパンVS複製人間(クローン)』
劇場版のルパン三世といえば『カリオストロの城』が有名だが、ぼくが好きなのは第一作『ルパンVS複製人間』だ。テレビ版(第二期)の雰囲気をそのまま大人向けにして、その上ちゃんとしたSFに仕上げているのがいい。もちろんルパンなんだから、クローンのアイデンティティなんか、まあいいか、という感じなんだけど、それでもしっかりと言及されているし、クローンの寿命の問題も劣化コピーという言葉でわかりやすく語られている。この時代としてはすごくハードSFしているのだ。真面目にSFのベースを作った上で、ルパンらしく派手にぶち壊しているという感じ。もちろんスピーディな展開や、とんでもないカーチェースや、シュールレアリスムの絵画そのままの秘密基地とか、今見ても見どころいっぱいの傑作だ。
■1980年『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』
〈スター・ウォーズ〉をリアルタイムに見てきた世代だから、第一作『エピソード4/新たなる希望』には大感激した。でも個人的なベストは、この第二作『エピソード5/帝国の逆襲』である。最初の三部作の中間にあたり、ずいぶんと盛りだくさんで、後に尾を引く結末だが、何といっても、SFの、スペースオペラの魅力を大画面で思う存分見せつけてくれたという印象がある。氷の惑星ホスでの戦いから小惑星帯での追いかけっこ、かつてのSFイラストそのままな、クラウド・シティの美しい光景。そして結末の、宇宙船の大窓からヒーローとヒロインが眺める壮大な渦巻き星雲の姿!「SFは絵だ」という言葉そのままだ。脚本家の一人、リイ・ブラケットは、E・ハミルトンの奥さんでSF作家。ちゃんとわかっているのだ。
2017年7月
■2001年『COWBOY BEBOP 天国の扉』
近未来SFとノワールやハードボイルドはとても相性がいい。TVシリーズは、その上にマニアックなディテールとノリのいいユーモアの加わった傑作だった。各話のストーリーは映画的でバラエティに満ち、かっこよさとギャグとが同居していた。もちろん音楽も最高。『天国の扉』はその劇場版で、TVシリーズの中にあってもおかしくない一編を、より深く描き込んだような作品。冷たく残酷な、吸血鬼みたいなテロリストとの闘いを描くが、いつものユーモアは抑え気味(あの三爺は出てくるけどね)、人物の内面が重視され、雰囲気は暗い。暗いが、エスニックでアメリカンな、二十世紀末っぽい世界の描写がすばらしい(でも舞台は火星!)。そして強烈なアクション。またこの映画はハロウィンSFで、犬SFでもあるのだ。
2017年9月