彼方には輝く星々

第8回 やねこんRと京SFフェス2024、カイロスロケット2号機、VitaminSF picopublishing起動

木下充矢

 ネタが溜まりすぎたので少しずつ。古い話が多くてすみません! 串本民間ロケット「カイロス」の2回目打ち上げ現地観覧チャレンジを試みたものの二度の延期でならず、打ち上げ(12/18)結果は宇宙到達、ただし軌道投入はならず。次回もきっと見に行くぞ! という話は、またそのうちに。


やねこんRレポート

長野県白樺リゾートで開催された第62回日本SF大会やねこんR(2024/7/6-7)に参加しました。

 午前8時に新大阪駅前に集合。ツアーバスでサービスエリア休憩を挟んで会場まで一直線。乗り換えしくじり体質の木下には誠にありがたい限り。写真の二枚目はサービスエリアにあったツバメの巣。よほど営巣しやすい環境らしく、一目で見える範囲に巣が三つはありました。すごい! 諏訪大社前での休憩も入り(参拝しました!)、プチ観光旅行気分。大会会場のホテル前の駐車場にポインター号が停めてあったり星雲賞を受賞された麻宮騎亜さんが大迫力のライブドローイングをずうっと描き続けていたり、見所満載だったのですが、ほとんど写真を撮れていません。5枚目と6枚目は帰路のツアーバスが立ち寄った蓼科。「丸襟ワンピース専門店」が出店していて衝撃を受けました。こんなにピンポイントの業態があるとは! 確かに高原によく似合う。

 大会では、まず開会式と第55回星雲賞贈呈を観覧。

 海外短編部門の、まだSFマガジンでしか読めない「堅実性」グレッグ・イーガン/山岸真 訳の受賞は快挙。あり得ない事象が切実に描かれる、現代の不安と希望を掬い上げた話。量子力学的世界観をストレートに扱いつつ、難解さをほとんど感じさせない、イーガン作品屈指の読みやすさ。確かにこういう感覚はあるよなあ、と思わせる。作中で挿入される「堅実性宣言」が心に染みる。早く単行本でも読めるようになるといいな。 


 日本長編部門の『グラーフ・ツェッペリンあの夏の飛行船』高野史緒は、すごく切ない。あり得たかもしれないもう一つの歴史。出会うはずのなかった少年少女の、ひとときの出会い。そして、ちょっと聖地巡礼がしてみたくなる「本格土浦SF」。夏にこの小説を読めたのは幸せでした。

1929年のツェッペリンLZ127号の日本訪問はニュース映像が残っていて、雄大な姿を 楽しめます。その後、1936年のヒンデンブルク号の悲劇の後もツェッペリン社は奮闘するが第二次大戦で力尽き残存機体は全て解体。しかし、ツェッペリン社は生き延び、後継のツェッペリンNTは今なおドイツで定期運航中。日本でも2004年から2010年まで運行していたのですが、一度乗ってみたかった……。


 日本短編部門の「わたしたちの怪獣」久永実木彦 は、軽妙でありながら同時に腹の奥に堪える重さがあり、そして現代的。本格怪獣SFと、虐げられたものの心の傷。そして怒りの連鎖。真の怪獣はどこにいるのか。見たくない、でも目を離せない、やっぱり見たい、のような。受賞作の収録短編集では、「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」も良かったです。ヒロインの星乃さんが素晴らしい!


 海外長編部門の『怪獣保護協会』ジョン・スコルジー/内田昌之 訳は、対照的に愉快な怪獣SF。新型コロナ蔓延を背景に、怪獣惑星での心躍る冒険。主人公は活力と機転にあふれ、悪役も立派に(?)悪を貫く。SF設定もしっかり、しかし深すぎずほどの良い感じ。作者自身が新型コロナで閉ざされた実生活の鬱屈を吹き飛ばそうと、やむに止まれず書いた話、と解説にありましたが、実に納得です。楽しみました!


 メディア部門の『ゴジラ-1.0』  監督:山崎貴は配信で見ました。強大な、しかし頑張ればギリギリで何とかなるかも知れないゴジラと、事情あって旧軍の残存兵器の寄せ集めで立ち向かう羽目になる特攻帰りの敷島、そして民間対策チーム。ベタだけれど、やっぱりいい。ラストシーンにはいろいろ解釈がなされているようですが、あまり気にしたくない。ぱっと見えた通りで良いじゃないか、と思うのですが。


 コミック部門の『ダンジョン飯』九井諒子、アート部門の麻宮騎亜(大会のライブドローイングでも大活躍!)、ノンフィクション部門の『創元SF文庫総解説』東京創元社編集部、自由部門の 『日本の巨大ロボット群像 -巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-』の4部門は木下のインプット不足で、語れることがありません。精進したいと思います!

 続いて、ビュッフェの晩御飯(超豪華でした! ちなみに閉会後に販売されたホテル特製お弁当も良かったです)を大急ぎでかき込み、大会企画一コマ目は……実は、木下が在籍中の創作サポートセンターで拙作(世にある本を全部読んだ異能が巨悪と対決するバカSF)の講評が当たっていたので、寝部屋に荷物を広げてリモートで田中哲弥先生の講評を受けていました。何事も計画性が大事ですね! (というか普通に迂闊すぎるだろう>木下)拙作は話が始まるべきところで終わっていたことを認識、得るもの多々。この話はもうちょっと何とかしたい。

 ついで2コマ目、甘木零さんにお声がけをいただいて、星新一賞を語ろう企画に、同期受賞の柚木理佐さん・玖馬 巌さん、第6回で「Meteobacteria」受賞の揚羽はなさん第9回で「あなたはそこにいますか?」受賞の葦沢かもめさんと登壇。緊張のあまり記憶が曖昧です。木下は、応募がほんっとうに締切間際でトイレで立ったままスマホで応募ボタンを押した話とか、授賞式のあとSF関係の方々に声をかけていただいてイートインでお茶をした時に、食べ損ねた朝食の残りを取り出してもそもそ食べていたら、引き上げるときに木下の弁当がらをサッと片付けて下さった方が日本SF作家クラブの大澤会長(当時)だった、とか、天然丸出しの話をしたような気がします。

 3コマ目は「『ゲンロン 大森望SF創作講座 第7期』の新星たち」  大森望、菅浩江、大庭繭、中野伶理、池田隆、藤琉、ハダリヒナコ を観覧。7期のみなさん、エッジが立っていて素晴らしい。ゲンロンSF講座が凄いのは、公開情報からも充分窺い知れる講師陣・講義内容の充実と共に、実作や講評をどーんとネットで公開しているところ。出版界との太いつながりを生かした(というか、SF出版編集部虎の穴、的な)、超強火のSF創作講座だと感じます。木下が在籍している創サポのゆるさ・自在さと実に好対照で興味深い。

 この後も面白そうな企画がガッツリあったのですが、いろいろとキャパを越えたのでお風呂(大浴場が素晴らしい。さすがリゾート形式! )に入って大人しく就寝。

寝部屋では色々と想定外があったのですが、同室の方の素晴らしい機転で事なきを得ました。終わりよければ全てよし!

 翌朝はゆっくりと豪華な朝食を楽しみ、ツアーバスで安全安心の帰路。周囲で歓談に花が咲くのを羨ましく思いつつ、シャイなので(せっかくSF者ばっかりの車内なのに!)会話に入れず。下車間際に、ままよと隣席の方に名刺(作ったのです)を差し出すと、お隣の方が深海古生物マンガ&小物を手がける工房しのわずりぃ(最新刊は新江ノ島水族館とJAMSTEC横須賀本部のガチの観覧記。大阪文芸フリマで購入しましたが面白かったです)/著作権切れオープンデータ小物を手掛ける画房らぁぎにぃさん。歴戦の勇者を前に一気に緊張がほぐれ、「木下は老眼が進んでメガネを三個使い分けてるんですが、メタバースとかいいから早く『自動焦点VR老眼鏡』を出してほしいですよねッ!」などと口走ったような気がします。ありがとうございまた!


京フェス2024レポート(10/12〜10/13)

今年の京フェスは久々のリアル&合宿付き。木下が長年親しんだ丸太町ではなく、初めて訪れるJR京都駅近くの会場。

私は「奥深いバカバカしさ」を心の底から愛していて、本会1コマ目の橋本幸士先生(本職の素粒子物理学者にして、『シン・ウルトラマン』では科学考証および物理学者の「所作・数式筆順」監修を担当)の「科学をエンタメする」は、その嗜好を最も満たしてくれる企画でした。素粒子物理学者向け、イーガン向け、一般向け、のスペクトラムが素晴らしい。今後あるかも知れない「ファースト・コンタクト」に向けても、貴重な示唆と枠組みが得られた、かも知れない。マジで。面白かったです!

本会2コマ目、『百年の孤独』を代わりに読む」、という方法」の 友田とん さんのお話も、学生時代に読んだ『百年の孤独』を思い出して味わい深かったです。なんだかよくわからないけれどすごい、という感覚がずっと引っかかっていたのですが、自由自在な読み方が印象的。取ったメモの抜粋を順不同で並べてみます。まとまりがなくてすみません。

・挿話が無数に。「圧」、「力」のようなもの。冗談話として書いている

・ありがたがって読むと本当には読めない、なるべく関係ない話に脱線しながら読む。

・幽霊はどうものどが渇いているらしい。たらいに水を張っていくつも並べる、幽霊が飲む。これはドリフのコントなんだと。いつまでも真に受けて応対するおかしさ

・割り込み、接近して併走、平行、複数の平行。コンピュータにたとえて考えるとマルチプロセス。人間はマルチプロセスと言っても、次のタスクを実行しているときに、直前にやった情報・感覚がちょっと残っている。脱線の様々なあり方の図式

3コマ目は「少女小説の記憶——SF・異世界・コバルト文庫」 嵯峨景子 × 須賀しのぶ

ジャンルの盛衰に翻弄されつつ、力強くキャリアを切り開く須賀先生のバイタリティと、嵯峨景子さんの熱いジャンル愛がまばゆい。あまり読めていないジャンルだけに全てが新鮮。

・氷室冴子の『クララ白書』は凄い、共感ポイントをちりばめるのがものすごくうまい、言語化できなかった痛みやもやもやを教えてもらった。読者にとって登場人物はお友達、作者はお姉さん。特別な読書体験。

・デビューしたら様変わりしていてびっくり、学園ものはどこへ行った。ウラシマ効果を扱った作品でデビューしたが、SFと呼ぶと怒られそう、それが読者に伝わってしまう

・「MASH」や「コンバット」が好きだった。ミリタリー系。目が輝いていた、それでいきなよ、と編集さんに促されて。

・当時のコバルトは特殊。男性編集長は少女小説はわからないと公言、数字しか見ない。なのでかえって、なんでも書けた。

・少女小説で戦争もの、『キル・ゾーン』シリーズ宇宙SFミリタリー(1996-2001)、キャッスルがかっこいい。キャラクター人気、「こんなの読んだことない」そりゃそうだ。最初、主人公を30代にしようとして論外だと言われ、編集者と話し合ってぎりぎりの妥協点で23歳。

『流血女神伝』シリーズ大河少女小説ファンタジー 1999-2007 はアンチ少女小説。少女小説の恋愛・結婚感は古い。人間って変わっていくものなのに。

・テーマは変容。長い歴史の中で女性が持っている強さは変わっていくこと。決して悪いことではない。王道を全部はずしていく。担当さんドン引き。嫌悪しちゃうと読んでくれない。それをうまい感じに。ほかのキャラクターに引きつけて読ませてみせる。

『アンゲルゼ』シリーズSFミリタリー学園もの 2008

・現代もの。気が済んだので王道に立ち返りたい。学園ものが書けない。盛りに盛って、一番コバルトに忠実。残念ながら打ち切り。

・「姫嫁もの」に偏った時代が来た。読者も作家も疲弊。一般小説レーベルで歴史物を書き始めた。『革命前夜』。20世紀ヨーロッパ。中欧・満州の話を書こうとすると、想像しにくい、共感しにくいと言われた。今は違う。キャラクターのたたせ方が独特と言われたがそれはラノベでは普通

・少女小説にとってSFとは何か? SFかきたい、では100%だめ。実際、少女小説で大ヒットしたSFは新井素子だけ。宇宙飛行士ものが多かった。

・今後の少女小説とSFへの展望。アンソロジー『少女小説とSF』にはコバルト作家をあまり入れられなかった。続編を企画中。

本会4コマ目、「ボカロ(小説)とSF」 人間六度 × 吉田夜世

 このコマは会場の若手参加者のリアクションが最もホット。メモは取ったんですが、よくわかっていないので印象に残った言葉を断片的に。なんだか元気が出ました! 

・吉田夜生さんの「オーバーライド」は5000万回再生。相当に凄いこと

・会社員からボカロPへ。職業かというと怪しい。食っていく覚悟を決めたとき。ドッキドキ。生活が成り立つまで1年。心境の変化はゆるやか

・オーバーライドの歌詞について。テトに自分を投影して。人間のやることなすこと数式で、マトリックス

・「トンデモワンダラーズ」のお仕事が決定した時、嬉しかったけれど失敗できない、と覚悟

・SF作家の視点でもっともおもしろいのはドーキンス、ミーム、作ったものが別のものになっていく現象

・自分の思想はめちゃくちゃいれている。テック系 ダーク 呪いを吐き出している。売れてないときには妬みをこめることも多かった

・それがおいしい

・初心を忘れないように、燃えつきから立ち直り、締め切りたくさん、でも復活した、それを曲に

・現代のオタクに勧める、SFを知るのにおすすめの本は『老ヴォールの惑星』小川一水

・人間の声を収録して加工してもそれはボカロ曲ではない

・人間の声を使っている曲に新たな言葉を用意するかも、ボカロ界隈では『人間歌唱』といわれている

・オーバーライドがヒット、ノベライズ決定!

合宿企画までたどり着けませんでした。残りをまとめているといつになるか判らないので一旦ここまで。

京都SFフェスティバル2024 合宿企画1コマ目(19:15-20:15)では、(こういうことは今年しかできないと思い、)「第11回日経『星新一賞』受賞全作品を語る(当事者が)」をやらせていただきました。京フェスDiscordにアップロードしたレジュメ43ページを再録します。無茶振りを受け止めて下さった、木下と同期受賞の柚木理佐さん、玖馬巌さん、鷹羽玖洋さんに心からの感謝を。ありがとうございました!


イアン・ワトスン翻訳同人誌、起動

ご報告。神大SF研で先輩の本城雅之さんセレクションで、イアン・ワトスン短編(初出:75〜90年)の翻訳同人誌を出します。収録は下記の7作品。発行元レーベルは「Vitamin SF picopublishing」にしました(同人は本城さんと木下の2名)。翻訳のほとんどを本城さんが担当されます。

Immune Dreams (Pulsar 1 1978)

To the Pump Room with Jane (New Writings in SF(26) 1975)

Returning Home (Omni 1982)

The Day of the Wolf (Changes 1983)

In the Mirror of the Earth (Lands of Never 1983)

Stalin's Teardrops (Weird Tales 1990)

The Eye of the Ayatollah (Interzone, #33 1990)

イアン・ワトスン氏のお許しを得て、5年間の独占翻訳権を取得済み(!)。電子書籍とプリントオンデマンドの併用を計画、刊行は来年中を目指します。ちなみに、全7作のアルファ版訳稿がすでにできています。……あ、いや、うち2本は木下のヘボい初稿なので、アルファ品質に達しているかは微妙ですが! これから完成度を上げていきます。内容にほとんど古さを感じないのが流石。だいぶ癖の強いオリジナル短編集になりそうです。乞うご期待!


ボイジャー1号の故障と修復には心を揺すぶられました。この修復作業の核心だった記憶装置は、ワイヤーメモリと呼ばれるものだったようです。磁性体をコーティングしたワイヤを編み上げて、可動部分を持たない記憶装置を実現。1970年代に短期間使用され、木星圏の強大な電磁場にも耐え抜きましたが、LSIの進歩とともに廃れ、今は使われていません。

今期の「さなコン2024」(盛り上がりました! 受賞作は今回もレベルが高い)への提出作では、このボイジャー1号に主人公になってもらいました。今回から最終候補のみの発表になり、拙作は残念ながら選外。やっぱり、もっと丁寧に書かないとなあ……。例によって、タイトルは、ジェイムズ・イングリス「夜のオデッセイ」(『スターシップ(宇宙SFコレクション2)』新潮文庫 収録)からお借りしました。この話、大好きなのです。

さなコン2024選外作

「夜のオデッセイ」木下充矢


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