大野万紀
12月のSFファン交流会は12月14日(土)、「少女小説における「SF」の在り方」と題してzoomにて開催されました。
出演は、嵯峨景子さん(ライター、書評家)、皆川ゆかさん(作家)、若木未生さん(作家)です。
写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、嵯峨さん、若木さん、みいめさん(SFファン交流会)、皆川さんです。
以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。
今回のテーマは、「少女小説研究家の嵯峨景子さんに、コバルト文庫を始めとする少女小説の歴史的変遷をお話しいただきつつ、1987年「講談社X文庫ティーンズハート」デビューの皆川ゆかさんと1989年「コバルト文庫」デビューの若木未生さんという、まさに少女小説の黄金期を支えたのおふたりをお招きして、当時の少女小説とSFの関係性やお互いの作品への影響などについてお伺いしたい」(SFファン交流会サイトより)というもので、まさにぼくにはすっぽりと抜け落ちている領域だ。水鏡子などにとってはむしろ得意分野だと思うのだが。
まずは、アンソロジー『少女小説とSF』について。
少女小説のブックガイドなども出している嵯峨さんに、当時日本SF作家クラブの理事をしていた若木さんからメールが届いた。若木さんは作家クラブでサイン会を主催しているとき、少女小説の書き手が多く来られていることに気づき、少女小説作家によるSFアンソロジーを作ろうと嵯峨さんにお願いしたのだった。そこで嵯峨さんは作家を選定し、それぞれのレーベル(コバルトとか)のイメージを重視して執筆依頼をする。若木さんへは少年主人公で、皆川さんへは少女主人公でとお願いした。
テーマに悩まなかったかという質問に、若木さんは現代少年SFみたいなのもいいかと思ったけれど、昔から音楽テーマの作品を書きたかったのでと答え、皆川さんは短い作品はあまり得意じゃないので昔携帯小説で書いたものを思いだしてリメイクした。ホラー的な作品で新井素子さんとかぶるのではと思った。SFテイストは弱いと思うと答える。
そこでお二人のSFとの出会いについて。
皆川さんは、SFを意識して読んだのはスターウォーズのころ。創元SF文庫を読むようになった。もともとはミステリを読んでいたが歴史小説が好きだったので「銀河帝国の興亡」が面白かった。中3のころは「砂の惑星」や半村良の「妖星伝」。キャラクターものが好きだった。高校時代図書館の奥にSFマガジンのバックナンバーがあり、「百億の昼と千億の夜」のエンディングが違うと知った。大学でSF研に入り、先輩からワイドスクリーンバロックを教えられてはまった。キャラクター性の強いものが良かった。短編より長編が好きだったとのこと。
若木さんも読んできたSFはかぶっている。SF作家になりたかったがどうやったらSF作家になれるのかわからなかった。コバルトならコバルトノベル大賞をとればいいが、ソノラマ文庫や早川・創元にどうやって入ればいいのか。中ではコバルトが入りやすかった。
たぶん「宇宙戦艦ヤマト」のノベライズにコバルト文庫で出会ったのがSFに入ったきっかけ。入り口は「百億千億」の原作の方で、それを小学生のころに読んだ。あれは〈ハイスクール・オーラバスター〉の構造的な部分に影響を与えている。右往左往する人間たちの上に神がいるという。それ以前に「ガッチャマン」や「009」のアニメの世代だからこれはしょうがない。平井和正もすごい好きで、光瀬龍、平井和正が好きということでも皆川さんとかぶっている。
平井先生には会って言葉をいただいたことがあると皆川さん。若木さんはSFが書きたいんですと編集者に言うと驚かれたと言う。ファンタジイを書いてほしいと言われ、書いてみるとスッと出してもらった。直しもなかった。
皆川さんもデビューの時は書いたらすぐに出してもらえた。点数をそろえることが大事で、出版社にも余裕があったのだろう。
もっとSF話をということで、若木さん。「機動戦士ガンダム」を小説で読んでしまったのがやばかった。鍵穴にガツンとはまった。これがほしかったと思うと同時にこれがすでにあるなら私はどうすればいいのかと。
皆川さんは、光瀬、平井、ガンダムと3つそろった。SF研の先輩ほどたくさん読んでいるわけじゃないが、SFは空気のようにそばにあるものだった。キャラクター小説としてのSFがいい。「銀英伝」とか基礎教養みたいなもの。終わっているといことが重要だと思うが、でも夢枕獏さんは「終わらない小説が一番面白い」と書いていた。
若木さんは昔から男の子が主人公の作品を書いていて、編集がよく許してくれたとは思うが、まあやってみればということだったのでと。男の子主人公の作品は過去にもあったことがある。それをコバルトは表紙をピンク色にして出した。
昔は女の子は暖色系がいいと言われていた。90年代あたりから変わってきたがと皆川さん。
嵯峨さんが「オーラバトラー」は1巻目と2巻目を並べるとずいぶん見た印象が違うと言い、並べて見ると確かに違う。みんなにっこりしていない。悩ましい顔をしているとみいめさん。
「オーラ」のころはSFとは打ち出してなくてファンタジイとして出していたと嵯峨さんが指摘する。
若木さんは、編集がSFというと売れなくなるからとファンタジイを出してきた。本当は伝奇SFのつもりなのに。
当時SF冬の時代と言われていたが、すでにSFばっかりだった。別にSFと言わなくてもSFが出来たと皆川さん。〈ティー・パーティ〉シリーズはSFを意識していたが、〈運命のタロット〉シリーズは始めは占いテーマから入り、タロットについても全然知らなかったが色々調べて書き、それが後半ではSFになった。運命は変えられないという話だが「ティーパーティ」は認識が世界を変えていく話。「運タロ」は終わった話を読んでいる感覚。歴史やアカシックコードを外側から見ている。二つは空間と時間で対になっている。講談社でティーンズハートの編集長に言われたのが「子どもにウソをついてはいけない」。作品として真正面から子どもに伝えないといけない。自分で書いているキャラクターから逃げてはいけない。作家として逃げ道を作るのはいいが。真面目に向き合った作品にはちゃんと熱狂的な読者がつく。とはいえ、電磁相互作用の話を1章かけて書いたのは編集にも全然わからないと言われた。
後半は嵯峨さんによる少女小説の歴史について。本につけていたものに補足したというすごい年表が公開された(ネットでは見られないのかしら)。
年表によれば、集英社からコバルト文庫が。氷室冴子さんがデビューし、80年代前半から知名度が上がった。講談社からはティーンズハートが創刊され2大レーベルとなり少女小説がブームになった。89年には他にもたくさんのレーベルが参入する。
皆川さんは87年、ティーンズハートの初期に「ティーパーティ」でデビューしている。
それについて皆川さんから、投稿するには長いものはダメだということで「ティーパーティ」はあちこち持ち込んだが、講談社でティーンズハートを紹介してもらった。ただし講談社で出すとコバルトでは出せないよと言われたとのこと。嵯峨さんによれば、ティーンズハートは企画部と文芸部と2つの編集部体制があって皆川さんらは企画部、文芸部は小野不由美さんらだったと言う。80年代に人気があったのは少女主人公の一人称の学園ファンタジイ。それが変わったのは前田珠子さんが異世界ファンタジイを書き、若木さん桑原さんなどの少年主人公ものが出てきたことで流れが変わった。コバルトは流れに合わせるのが素早かった。若木さんは集英社スーパーファンタジーで「イズミ幻戦記」を書く。講談社はホワイトハートを創刊。そこに小野不由美さんが出てくる。
ホワイトハートはティーンズハートの読者がお姉さんになりティーンズの方は年齢層が下がってきた。ホワイトの編集者がSFとコネクションがあってファンタジーをやろうとしたと皆川さん。
若木さんは、スーパーファンタジー文庫はコバルトの編集者が作っていてファンタジーが書けると言うので「イズミ幻戦記」が出た。でも途中からはBLが強くなって路線がよくわからなくなった。「イズミ」はコバルトへという話になったが、そうなると表紙イラストが変わる。それはイヤだと言ったらじゃあ好きにしなさいといわれたのでつき合いのあった徳間へ行った。
嵯峨さんによると、2006年ごろにまた再編期がきて流れが変わった。少女小説はレーベル主体ではなくライト文芸のジャンルとなった。今はオレンジ文庫がコバルト文庫の後を継ぐ存在となっていると言う。
年末なので、二次会はリアルな二次会として開催されることになり、zoom組はここでおしまい。今回もとても面白く、知らないことが多くてためになるお話でした。少女小説とSFというか、そういう独立して語るようなものではなく、少女小説のレーベルで活躍している作家さんの中にも若木さんや皆川さんのようなSFマインドを持った人たちがたくさんいる。だからそういう人たちの作品は例えファンタジーや学園もののように見えても、どうしようもなくSFが染み出てくると、そんな理解でよかったでしょうか。
1月のSFファン交流会は、1月25日(土)14時からzoomにて「2024年SF回顧(国内、コミック編)」というテーマで開催されます。出演は、森下一仁さん、香月祥宏さん、岡野晋弥さん、福井健太さん、林哲矢さんほかの予定とのことです。