みだれめも 第258回

水鏡子


○近況(2月)

 市内にある古本市場が3月半ばで閉店することになった。発売一、二年の人気作でないweb小説本が他店に先駆け、かなり早い時期に400円まで売値を下げ、株主優待の半額割引を使って安く入手できる貴重な店だった。なにより自転車のかごに積んで移動できるため大量買いがやりやすく、各地にある他の古本市場で買うもののトータルよりもこの店一つで買った本の数量がうわまわっていた。残念至極である。とりあえず閉店セールの期間中はこまめに拾いに行くことにする。
 阪神間のブックオフの文庫本がほぼすべて220円に置き換わった。確認した中では吹田店がまだ110円を維持している。京都には行けてないのでわからないが、たぶん同様のことになっていることだろう。「110円~220円」と小看板が張り付けてある店は、単純に値札の張り替えを面倒がってるだけにすぎない。さすがに単行本の値上げは様子見模様で、350円の値付けの店は2店しかなかった。普通のの古書店の方が安いといった状態で行く意味がほとんどなくなった。売値80円の古本市場の3倍である。ちなみに古本市場は単行本も80円である。問題は買いたい本が本当にみつからないということ。
 まんだらけも書籍の棚はどんどん縮小されている。駿河屋の安売りあたりに期待するしかないのかなあ。
 いい本が百円台で買えるのは青空古本市(デパートなどの施設内古本市は原則300円を覚悟しないといけない)だけど、あそこって強面てする立派な本ばかりでラノベやweb小説はほとんど出ないのだ。 

 2月の購入数178冊。購入金額26,087円。クーポン使用4000円。
 web小説98冊。コミック23冊。だぶりエラーと買い直し11冊。新刊本は矢野アロウ『ホライズンゲート』、『SFマガジン4月号』、『昭和39年の俺たち24年3月号』『本の雑誌3月号』、4冊4,940円。雑誌ばっかり。
 『本の雑誌』はメフィスト賞のリストが欲しくて。『昭和39年の俺たち』は、『昭和40年代男』と同じコンセプトの、昭和39年生まれが作ったり書いたりしているらしいレトロ雑誌だが、出版社がエロ本系なので猥雑度が段違い。山口組やらAV女優やらスキャンダル関係ついて語ることが基底にあって、そこにかぶせるようにこの号では「伝説のはじまり」と題したTV草創期のドラマやアニメについての力の篭った特集が組まれている。「ゴジラ」や「月光仮面」「快傑ハリマオ」はまあ定番として、「遊星王子」「実写版 鉄人28号」「まぼろし探偵」「コンバット」「ナポレオン・ソロ」といった作品が取り上げられている。「昭和39年」じゃないだろう。「隠密剣士」についても言及があって、ちゃんと和風西部劇である第一部をフィーチャリングしている。
 あまりの面白さにバックナンバーを注文したが、読み捨てタイプの紙質の悪い週刊誌風(一応は隔月刊で通算23号らしい)の造りの雑誌なので出版社在庫はたぶんなさそうだ。結果は来月に。
 先述の古本市場閉店のための半額セールで42冊、百円均一セールで57冊。その大半はweb小説。株主優待本とか頂き本とか寄稿本とか0円の本が何冊かあるので、セールを除くと70冊しか買ってない。ブックオフの値上げのせいで本当に買う気が失せている。
 web系、ラノベ、コミック以外の主なところは、単行本で高橋康也編『逸脱の系譜』、岡田貞三郎『大衆文学夜話』、澤井繁男『魔術の復権』、蓮見重彦『齟齬の誘惑』、木村敏『自己あいだ時間』、C.℉.v.ヴァイッツゼガー『科学の射程』、菅野礼司他『科学と自然観』、岩波講座社会科学の方法『⑨歴史への問い歴史からの問い』、矢代梓『年表で読む二十世紀思想史』など。すべて300円以下である。

 最終更新まで読んだあらたなweb小説は10作ほど。書籍化の速度が上がったのか3日くらいでweb部分を読み切れてしまうものが増えた。

西の果てのペロ『裏稼業転生~元極道が家族の為に領地発展させますが何か?~』(TOブックス)

内容紹介(「BOOK」データベースより)
 天涯孤独で生きてきた極道の男は、騎士爵家の三男・リューとして異世界へ転生。今まで縁がなかった家族の愛を一身に受けてスクスクと成長し、やがて気づいた。優しすぎる彼らは先祖代々、ケンカは強いが稼業は弱い超貧乏家系だということに!これは自分が一肌脱ぐしかないと、未知のスキル“ゴクドー”と前世の裏稼業知識を活かして作ったコーヒーやチョコ、リヤカーを売りさばき、畑の改善で原料の収穫量はさらに増加、祭りで出店した屋台は大繁盛と、次々に新たなシノギを軌道に乗せていく。しかし、着実にシマを増やす中でゴロツキ貴族から逆恨みされた一家には危険が迫っていて…?心優しき元極道少年の義理と人情の領地経営ファンタジー!

 凡百臭の強い設定で、それなりに読ませる筆遣いに気楽に読み進めたのだが、これが意外とよくできている。貴族としてのおもて面、暗黒街を掌握してのうらの面、冒険者としての活動、学園生としての物語、四つの立場をそれぞれ隠しあい、それぞれに発生するさまざまな事件を微妙に絡ませあいながら緊張感のあるドラマトゥルギーを組み上げていく。質実剛健な家族像と領地を発展させながら成り上がっていくところなど『おかしな転生』を彷彿させるが、使い分ける立場の絡ませあいの部分は読んでいく肝をなしていく。

虚妄公『公爵家の三男が征く己の正道譚』(エンターブレイン)

内容紹介(「BOOK」データベースより)
 信じていた仲間に裏切られ、最愛の家族も失い、全てに絶望して死んだはずの男が公爵家の三男アーノルド・ダンケルノに転生!!そして公爵家の後継者争いに巻き込まれることになった彼は後継者の座を手に入れるため、さらに前世と同じ過ちを繰り返さないためにも“誰にも侵されない知性”“誰にも屈しない武力”を手に入れることを誓う。そんな中、行儀見習いで侍女として働いている侯爵家の娘と対立し、侯爵家との全面戦争へと発展する。急遽、戦争の準備と魔法と剣術の訓練をすることになったアーノルドだったが、訓練中に漆黒のオーラを暴走させてしまい…。理不尽に奪われ全てに絶望した男が、二度目の人生で圧倒的な力を手に入れ成り上がる異世界逆転ファンタジー。

 ダーク味の強い成り上がり絵巻。読み応えのある文章で力強さがある。ただしweb版は、信念の吐露が冗長で、必要以上に言葉を連ね、ひとつひとつのシーンが長すぎバランスを欠く。とくに第一部の最後は風呂敷を広げすぎ収拾がつけられるか疑問がある。第二部で少し締まった感はある。作品に誠実であろうとする気概は、欠点を補ってあまりある。ここ数年に書籍化されたものにはこの種の好感を持てる作品が目につくようになってきて、web小説が新しいフェーズに入ってきたのではないかと期待を抱かせる。

 それにしても「web小説本」というのは語呂が悪い。「なろう本」に戻したいけど、明らかにカクヨム優位な気がしているし。慣れるかどうかもうしばらく「web小説本」でやってみたい。

 株価四万円突破とかニュースは騒いでいるけどいったいどこの話やら。正月明けに、一気に持ち株が上昇し、7年ぶりに含み損が無くなったのだが、そこからあとはじりじり下がり続けて、含み損生活に逆戻り。日経平均が大幅に上がった日でもマイナスになることが度々ある。いったいなにがあがっているのだろう。


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