みだれめも 第235回

水鏡子


○近況(5月)

 探すとマスクは100枚以上出てきた。新型インフルエンザの蔓延期に買いそろえたものなので10年物である。引っ張ると1割くらい持ち手が取れる。不良品ではなく単純に経年劣化したものだろう。

 くりかえすけどコロナってそんなに怖いと思えない。もちろんだからと言って軽視することはできないし、罹れば厳しいものがある。一定の対処療法が確立されて、医療崩壊が起きずに済みそうな現状では、普段通りの対応で支障はない。もともと例会がないと会話不足で声が出なくなる巣ごもり生活であるわけだし。
 まあ、実際かかると生活保守主義の馬鹿が湧き出すので、そっちのほうが大変だ。いろいろ報道されているけど、ああいう風土は確実に醸成拡大されていまや日本の風土といえる。大震災のとき、実害のない福島からの避難者さえも排除しようとしたんだよ。金銭的に余裕があればコロナ禍ニュースに寄付寄贈をする傍ら、同時に自分の生活圏に入り込んだ関係者を適性異物として排除に血道をあげる。生活保守主義者ってのはそういう連中だ。昔であれば共同体の集団原理で建前とかも尊重しながら比較的穏やかに合意形成しながら決定していた事柄を、協同しないで生きれるようになって個別過激に群集心理にのっかりながら恥ずかしげもなく行動する。絶対昔より増えている。 

 さすがに大阪例会が2か月近く中止になって、結果的にJRの回数券が3,000円分使い切れなかった。コロナ禍による唯一の金銭被害である。
 それでも週一程度には大阪京都の再開されたブックオフ行脚をした結果、SFセミナーがなくなり、天満宮四天王寺の古本市も中止になったにもかかわらず、5月の購入冊数は、4万円320冊とあいなった。新刊費用は1万円ほど。古書価220円縛りをかけているのにへたをすると年間4千冊コースである。
 緊急事態宣言下で、家の整理を進めた結果、本を放出する人がそれなりにいたのでないのかな。比較的新しめのなろう本が200円棚でみつけられる。

 5月に買ったなろう本は138冊である。あと吹田の天牛書店に創元ハヤカワSF文庫が大量に入荷していたので買い直しのため100円150円の値付けのものを40冊買いこむ。青い背表紙3刷の『マラコット深海』150円と白い背表紙27刷100円のどちらを買うか真剣に悩む。
 ここのワゴンセールはブックオフで絶対出ない、立派な本の100円セールで、いくと必ず10冊単位で買い込む。他店で買った本も合わせて、しかも業者価格で安く託送してもらえるので、踏ん切りがついてSF文庫と一緒にいろいろ買いこむ。山本光雄編訳『初期ギリシア哲学者断片集』、I・ラドウンスカヤ『狂気と創造性』、エドマンド・リーチ『人類学再考』、埴谷雄嵩監修『幻想飛行記』、クラックホーン『人間のための鏡』、河合雅雄&沢田允茂『動物と人間』など。

 ゴールの遠い書庫建設資金回収計画。大暴落から6割、瞬間最大風速からは7割戻したが、まだまだ含み損は大台のまま。含み損ゼロからの再出発は75歳くらいからかな。とにかく、しかし、いくら金融がじゃぶじゃぶとはいえ、コロナで業績悪化がした会社がコロナ前の株価に戻るなんてむちゃくちゃだろう。こんなものは怖くて買い増しできない。今は息をひそめて資金を回収するのが正しい。
 例会は5月31日から再開。これまでの珈琲館が梅田芸術劇場閉館のあおりを食って短縮営業となったため、阪急の星之珈琲店に変更する。

○近況(6月)

 イベントも古本市もない起伏のない生活。WEB小説作家一覧の評点をつけようとひたすら読む。
 株主総会もお土産自粛でいくところが少ない。例年だと株主総会参加地区のブックオフとか回ったりしていた。
 有効期限の切れるホテル宿泊券を使って、大阪で二泊三日の古本屋回り。この券もいつもなら東京とか浜松で使っているのだが。

 5月に比べてちょうど50冊減って、270冊。偶然なのだが、なろう本も88冊と前月から50冊減である。金額はあまり変わらず38,000円。うち新刊購入費が14,000円である。じつは株主優待クーポンも14,000円使っているので、実質5万円コース。まんだらけに3回行ったせいである。先月使用のクーポンは6,000円くらいなので絶対金額は前月より多い。内容のわからないラノベ文庫本30冊480円の福袋なども買ってみたが、内容はそれほどひどくないぶん、買ってるものとほとんどダブる。未入手のものは3冊だけだった。

 硬めの収穫は、辻邦生監修『世紀末の美と夢①~⑥』、マンリー・P・ホール『秘密の博物誌』『カバラと薔薇十字団』、スティーブン・メネル『食卓の歴史』、梅原猛著作集『仏教の思想①②』、稲葉振一郎『経済学という教養』、クルーグマン『良い経済学、悪い経済学』など。あとフラン・オブライエン、ゴールディング、イブリン・ウォーの長編+ミュリエル・スパーク他の短編を揃えた『集英社版世界の文学 イギリスⅣ』が500円であったので、奮発して買う。

● WEB小説作家別一覧(不完全)リスト 第2回

○ 「いうえお」の作家

 リストはこちら。 (※リンク先はOne Drive(Excel Online)です)

 大量読破の弊害からか、一週間前に読んだ本の記憶が残らない。評価ABCのものはそうでもないが、Dの半分くらい、E・Fのほとんどを思い出せない。さすがにGはひどすぎて記憶に残る。まあ、お勧めするのはC以上だから問題ないともいえるのだが、なぜDではなくEにしたのか、Fにしたのか、記憶が残らないので、基準がすごくあやふやで、もやもやしている。

評価A
     柞刈湯葉  『横浜駅SF』
EDA 『異世界料理道』
大森藤ノ 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(外伝あり)』
評価B
おけむら 『勇者互助組合交流型掲示板』
評価C
石和¥ 『スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした』
井戸正善 『呼び出された殺戮者』
岩館野良猫  『トカゲといっしょ』
イワトオ 『迷宮クソたわけ』
『カボチャ頭のランタン』
大橋和代 『シャルパンティエの雑貨屋さん』
岡本俊弥 『機械の精神分析医 』、『二〇三八年から来た兵士』
小倉ひろあき   『リオンクール戦記』

 ABC合わせて12人。前回より総数が増えているのに、人数は一人減。大量読破で評価がきつくなったかもしれない。

 評価Aの3人は、いずれも人気作家である。
 知的な部分では、柞刈湯葉が頭抜けている。
 EDA『異世界料理道』は今回取り上げたなかでは最長で、21冊書籍化されたが、現在九百万文字で、話が終わる気配もない。
 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』は上質のらのべの文法に一番忠実であり、本編と同じ時間帯での迷宮都市での物語を他のクラン、他のキャラの視点で語る外伝シリーズを含めて軸をぶらさず、多面的に物語っていく。出発点こそ個人サイトの掲載だが、早い時期に書下ろしに移行しており、WEB小説に含めるべきか微妙ではある。

 評価Bは、おけむら『勇者互助組合交流型掲示板』ひとつのみ。異世界で勇者の経験がある人間たちが、掲示板で語り合う。伏線をいろいろ張り巡らせたり、小説的なまとまりをうまく作ろうとする知的な小説だが、全編掲示板での会話であるので流して読むには少し敷居が高い。その意味でBに落とした。

 評価Cは9人。
 うち3人は過去に言及あり。
 『トカゲといっしょ』は3巻で打ち切られた模様。当初の異能異世界バトルから内政チートに路線変更されて本領発揮のなるのだが、その前で書籍化は終わっている。ほとんど毎日更新されていたが、一年弱前からばったり止まっている。かなりの分量があるのでWEBに読みに行くのをお勧めする。
 『呼び出された殺戮者』は、異世界召喚された武道家が召喚した国を相手取って無双する。WEBには続編の『よみがえる殺戮者』があるが現在中断中。
 『シャルパンティエの雑貨屋さん』は第1回アリアンローズ新人賞最優秀賞受賞作。領民ゼロの領地の営業許可証を手に入れた少女と領主との芯はあるけどハートウォーミングな物語。
 THATTA掲載作を中心にオンデマンド出版をした岡本俊弥の短編集はテーマ性を持たせたことで、それぞれに肌合いが異なる短編集に仕上がった。ふだんだらだら続く文章に馴染んでいると、たまにこういうきちんとした文章構成アイデアの短編群をまとめて読むと少し居住いを正そうという気にもなる。本人も指摘するよう『機械の精神分析医 』の、一見藤井太洋を連想させる雰囲気が、小品指向の作品評価を下げる面がある。これはむしろ企業の中間管理者を軸に据えた「インサイダーSF」、60年代眉村卓短編のアップデートと見るべきで、そう思えば『二〇三八年から来た兵士』も眉村卓的に見えてきて、意外と師弟的影響が強かったんだと思ったりしている。
 『スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした』は異世界召喚された主人公の職業が「商人」だったということで処分されそうになるけれど、実はそれが「死の商人」でタイトル通りのスキルであってという展開。最近このてのミリタリー異世界無双の話がよくあって、基本的にカタルシスがあって好きなものが多い。ミリタリーの蘊蓄が小説の細部を埋めてくれるところが効果的。
 イワトオ『迷宮クソたわけ』は副題「最弱魔法使いは借金返済のためコツコツ冒険をくりかえす」のとおり、過酷な迷宮を力のなさを知恵をしぼって生き延びる話。宗教団体の暗闘に巻き込まれたり、辛気臭く地味地道なわりにスケールはそれなり。ウイザードリーがベースである。主人公の名前が「ア」というのもそこからするとなるほどなと苦笑しながら納得する。意外な拾い物だった。カクヨム連載。そういえば最近読んだ中だと、のか『ニンジャと司教の再出発』(レジェンドノベルス)は、もっと露骨なウイザードリー小説で、小説の出来栄えでは本書より数段落ちるが、ゲーム経験者にはかなりツボにはまる。
 『カボチャ頭のランタン』も迷宮探索もの。狷介なソロ探索者が仲間を得て深部に向かう話だったと思う。集英社ダッシュエックス文庫の新装開店目玉商品のひとつで、新刊で買って面白く読んだ記憶が残る。ただ、なろう系読書の初期にあたり、読み返していないので、今読むと評価が変わる可能性がある。3巻で打ち切りだが、WEBはまだ続いている。この時期読んだ本は続きをWEBに読みに行く習慣が根付いていない。
 『リオンクール戦記』はファンタジイ要素が少ない戦史もの。『大陸英雄戦記』とか『草原の掟』とかしっかりしたものがそれなりにある。主人公の果断な対処と決断が話の肝になっていて、あとがきなどで『銀英伝』が取り上げられたりがよくある。

 あと評価点Dをつけた作家はとびぬけた印象はないものの基本的に読んでものたりなさのない作家、もしくは個別の作品でいいものがある作家である。評価した個別の作品を数点挙げておく。

    岡沢六十四   『異世界で土地を買って農場を作ろう』
    丘野境界 『生活魔術師、シリーズ』
瓜生久一 『化学で捗る魔術開発』
上宮将徳 『たのしい傭兵団』
イナンナ 『隠れたがり希少種族は「調薬」スキルで絆を結ぶ』
江本マシメサ  『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし』
小田マキ 『アイリスの剣』

 とくに岡沢六十四。ラノベ出身作家はわりとのんべんだらりとしたスローライフ小説に行く傾向が見受けられるが、本稿連載途中で化けた印象がある。時事ネタ風俗ネタの取り込み方に非凡さがある。ただ化ける前の話には、読んでもなんだかなあの印象で。

 前回報告通り、それなりにある評価点Fは少しあるGとともに空白にしている。あと未読である本来の空白には、まちがいなく読んだ記憶があるのに、かけらも話を思い出せなくて評価点をつけられなかったものもある。評価点をつけるための読み返すのもねえ。どうせF評価で、空白扱いになるレベルだろうし。


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