みだれめも 第227回

水鏡子


なろうの整理7 お勧めベスト

○近況(4月)

 北方謙三『チンギス紀④』を読みながらふと思った。北方作品の特徴のひとつに独立国建国志向というのがあるのだけど、これって要は武力を背景にした内政チートの建国物語ではないか。
 4月にWEB最終版まで読んだものは、舞『異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう』(優)、『ブラック会社のタブレットを持った私が異世界に転移したら』(可)、『二度目の地球で街づくり~開拓者はお爺ちゃん~』(可)
 後ろ2つが可であるのは10万文字で止まっているため。『異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう』は250万文字で堪能した。
 異世界転生内政チート建国物語には大きく二つの方向性がある。覇権国家建設とユートピア建設である。外に向かうか内に向かうかということではあるがドラマトゥルギー的に楽なのとバトルで進めて抽象論と雑な環境描写で済ませることも可能なことから主人公の信条心情とは無関係に結果的に覇権国家建設に傾きやすい。それと覇権国家建設が社会学、経済学等社会科学系チートであるのに対し、ユートピアは人類学等人文科学系チートの薫り高い。発展する社会の基盤の豊潤を料理やゲームに託すというのがひとつの定番と化している。過去に紹介した作品では『康太の異世界ご飯』などが数少ないユートピア系で、舞という作者は基本的にこの貴重なユートピア建設系である。現在700万文字の6割近くまで読み終えたEADA『異世界料理道』もこの系統にあたる。
 ちなみに異世界転生スローライフ系は覇権国家を目指さないという意味でユートピア系に属するのだがユートピア構築の志に欠ける安直さがあり、雑な環境描写で済ませた劣化版が多数を占める。

 4月はクーポンを1万円近く使ったこともあり、購入金額は2万6千円、冊数は210冊となった。うち、なろう系67冊。ダブリが9冊。西村寿行、菊地秀行、EDA、J・D・ロブ、はるかおりの、森橋ビンゴなどをそれぞれ5冊以上買っている。
 その他硬めの本として奥野健男『素顔の作家たち』(星、小松収載)、エンツォ・ピアージ『きみ、知ってるかい』(ブラッドベリ、アシモフ収載)、現代人の思想㉒『機械と人間の共生』([R・U・R]収載)、日高敏隆『動物と人間の世界認識』小林章夫『チャップブック』ジェントリー・リー他『22世紀から回顧する21世紀全史』などを拾っている。
 「ランス」の整理をしていたら、行方不明がいろいろ。『ランス5D』と『ランスⅨ』が見つからない。ないはずないのだけど。『鬼畜王ランス』はCDがなく、探してみるとWin95PCに入れたままで取り出せなくなっていた。ただ、かろうじて稼働はできるようである。

○近況(5月)

 今年のSFセミナーは3泊4日の古本行脚。当初の予定は5月2日大阪四天王寺古本祭り、京都みやこめっせ、名古屋宿泊、5月3日名古屋骨董市、市内行脚、八王子古本市、東京宿泊、5月4日セミナー、合宿、5月5日東京行脚の強行軍だったが、かなり縮小。体力的に無理があった。
 5月2日は4,000円を節約して名古屋まで在来線を利用したため、今年一度行っている四天王寺再訪を断念。神戸三宮のブックオフ、駿河屋、らしんばん、京都みやこめっせ、三条、四条のブックオフ、らしんばんを回る。名古屋に泊まった5月3日は地下鉄一日乗車券を使い、骨董市、各地の古本屋とブックオフ、まんだらけなどを東京でも神田のまんだらけ、ブックオフを回る。例年回っていた八王子古本市と町田のブックオフはあきらめた。回った割には収穫は少なく、ラノベ、なろう40冊くらい。東京のホテルで宅配を依頼する。もともとの計画では名古屋で宅配を予定していたのだが。
 コレクターが嵩じて古書店を開業した彩古さんから定点観測しているブックオフがどんどんダメになっているという話を聞く。関西ではそうでもないのだが東京は確かにひどい。たしかに関西でもブックオフプラスなど複合施設で敷地面積が拡大したくせ書籍売り場が縮小されるケーズがあるのだが、東京方面では敷地面積を増やさずに、衣料品やら電気製品を置く店が増えていて、なおかつ利益率の低い108円ものが本当にゴミ仕様、昔の半額レベルが基本7割、新作人気作が8~9割、本当に買う物がない。購入ジャンルを広げていくのが突破口か。
 あと面白かったのが、コーポレート・ガバナンスの関係から、買取拒否で引き取った品物を売ることができなくなっているとのこと。ボロボロの貴重な古書を売りものにならないと伝えたかぎり廃棄処分にしかできないらしい。
 悲しいことに、衣料品等の売り上げが好調で株価が上場来高値、1,000円の大台さえ見えてきている。方向性は強化されそう。

 定価の高さに呻吟して購入を断念したものに『弓月光全仕事40Th』があるのだが5月に『弓月光全仕事50Th』(5,000円+税)が出た。購入に悩んだのが数年前の気がしていたのだが月日の経つのは早い。書庫を埋めたくて書籍購入のタガが外れた昨今なので若干の躊躇で購入する。画業50周年のわりには、弓月光の作品数は驚くほど少なく、書棚三段を埋めきれない。うちの隣の姫路市にある名門高校の卒業だが、同校卒業生には堀晃、竹本健治がいる。三人並べると校風に誤解が生まれそうだけど、西兵庫を代表する真っ当な進学校だった。
 デビューは一条ゆかりやのがみけい、もりたじゅんなどが活躍した時代の「りぼん」。筒井康隆のような漫画を描いてるとSFファンの間で話題になっていた。
 少女漫画誌でガチガチの宇宙SFコメディを書いたりしていて『トラブル急行』ではステープルフォード作、クリス・フォスデザインのフーデッド・スワンやパペッティア人が活躍する。(大野注:フーデッド・スワンはクリス・フォスじゃなくて、アンガス・マッキーですね)
 作品数が少ないだけに集めることはわりと楽。先に言及した『弓月光全仕事40Th』のほか『どろん』『うっふんレポート』『マジだよ①②』の残り5冊。通販を使えば数千円で簡単にコンプリートできる内容だけど、こまめに古本屋を回って集めるほうが好き.

 5月の購入は307冊で53,000円。なろう系104冊。ダブリ本は比較的少なく26冊。
 SFマガジン丸表紙1冊300円で6冊。2冊ダブリ。
 その他硬めの本としてドーキンス『盲目の時計職人』、『講座進化・①進化論とは』浅尾典彦『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』藤岡喜愛『対談 人間を考える』竹原威滋『グリム童話と近代メルヘン』別役実『贋作天地創造』中野美代子『迷宮としての人間』佐藤優『キリスト教神学4で読みとく共産主義』赤木洋一『アンアン1970』など。

○なろうの整理7 お勧めベスト

 今年の目標④であったなろう系トータル3,000冊の目標に、たぶん到達した模様。
 たぶんというのは、なろうに参加しているけれど、もともとラノベの作家であったり、出版社系のWEBに出版社の依頼で書いていたり、途中から更新を止めて書き下ろしに転じたり、逆にWEB小説であることをこちらが気づいていなかったり、微妙なところがいろいろあって、確実な数字が出せないのだ。
 一番多いのはアルファポリスで500冊越え。100冊以上が、アーススターノベルス、MFブックス、カドカワブックス、エンターブレイン、ホビージャパン、宝島社、ヒーロー文庫、モンスター文庫、オーバーラップ文庫の9レーベルとなる。
 ということで、これまで読んだ作品について、お勧めベストを作ることにした(リンク先はExcel Onlineです)。ぶっちゃけるとレーベル別の整理に飽きた。長い話に関しては最低書籍3冊分読んでいることを条件とした。
 なろうの整理と言っているけど、WEB小説全般である。E★エブリスタやカクヨム、個人サイト掲載も多数含んでいる。ここまでのレーベル別調査の結果も踏まえて、読んだ本からそれぞれにレーベル枠別上位15点を選んで「お勧めベスト5」「次席5」「可1 5」の三つのリストとそこに入るかもしれないけれど未所有のもの、買ったけどまだ未読で評価できないもののリストをつけた。本来的にはこのあとに「可2」「可だけどおもしろくない」「稚」「拙」「惨」というリストが続くのだが、わざわざ晒して嫌われたくないので門外不出とする。「可2」はお勧めできる出来のものだけど、このリストを載せてしまうと、消去法で残りがだめという結論が見えるので、あえて「可2」を外している。
 A4、1枚にコンパクトにまとめることに主眼を置いて1作家1作品に限定した。350作品350作家である。そのため『魔王勇者』『異世界居酒屋「のぶ」』とか本来入るべき作品がいくつも洩れている。とびぬけた傑作とは縁がないが安定した作品をいくつも書籍化している中堅どころ、森田季節、月夜涙、三木なずななどは数で評価すべき作家なのだが。純粋に作品評価で選んでいけば、作家数は200人くらいに絞り込まれると思われる。4,000冊読破を目途に、複数作品を掲載したĀ4、2枚の枠組みのベストリスト完全版を作成しよう。
 レーベル枠別上位15点であるので、当然ながら質に差がある。読んでる数にも大きな差がある。アルファポリスやMFブックス、オーバーラップなどは選ぶのに苦労したし、客観評価(稚)レベルを入れないと埋まらない枠もいくつかあった。
 そこで、さらにトータルの上位作品について色付けで区分けを加えた。
 赤が上位5点(秀)、橙が次上位10点(優)、黄が次々上位20点(良)という区分けである。流動的であくまで現時点での上位35点であり、客観評価で(良)を付けることができるものも、たぶんあと二、三十点ある。

○赤5点。

○橙10点。

○黄20点。

 あと水色に塗っているのはWEB板最終更新近くまで読んでいるもので赤橙黄の色を付けなかったもの。色付けしていないがとりあえず気に入っているわけだから他の作品よりおおむね評価していることになる。なかには途中で飽きたものや意地で読み切ったものもある。赤橙黄の色付けしたもののうち3割くらいはWEB最終更新まで読んでいて、あと完結しているものが半分くらいある。
 昔選んだ時より上位選出作品はかなり変化している。ここ数年に読んだものが大きく進出してきており、極めて流動的である。

 『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』、『横浜駅SF』は一昨年の『SFが読みたい』のSFベストに選んだ作品。カクヨム掲載作。だらだら長く、心地よく浸りきれるなろう系の秀作と真逆の読み応え。
 4月5月と読み続けたのがEDA『異世界料理道』である。大衆食堂の跡取り息子が異世界で遭遇したのは、猪めいた巨獣を狩って命をつなぐ森部の一族。彼らにとって食事とは栄養摂取以外の意味を持たない。そんな社会でうまい食事という概念を知らしめ、料理という文化を伝え、人との縁をつなぎ、習俗を変え、枠組、制度を揺るがし、新たな未来を開いていく。習俗にまで落とし込まれた憎悪の連鎖が年月にしてたった一年で解きほぐされるのはどうかと思うが、その一年を密度濃く、700万文字費やして書き込んでいるので読んでる間はそんなに無理な気がしない。怒涛の一年を回顧する傀儡使いの物語が感動的。
 料理を主軸に人の縁をつなぎ、つないだ縁を足掛かりに異世界で成り上がっていくのは、なろう系の確立された技法のひとつで、出来のいい作品にことかかない。転じて食事シーンを書き込むことで異世界風景に厚みを増していくこともよく使われるテクニックで、パターン化されたシーンに読み飛ばしが可能になっている。
 だが料理そのもので、世界の在り様を変えていくレベルのものは、希少貴重である。『異世界料理道』の他には『康太の異世界ごはん』くらいしか今思いつかない。
 異世界ものと並ぶ大枠テーマの双璧VRMMORPGもの。『ソードアートオンライン』のころは前線攻略組が主体だったが、わりと早い時期から、生産職やサモナーになってスローライフを楽しむパターン、人と外れた育ち方が結果的にチート能力者になるタイプが増えていく。ゲーム世界に閉じこめられるデスゲームタイプよりログアウト可能なタイプの方がだらだら書かれてだらだら読めて気楽でいい。
 近作で増えてきたのが、中年のさえないおっさんを主人公にするタイプ。これも定番化されてきているのだが予定調和で気軽に読める。
 レジーナやアリアンローズのレーベルを区分けするついでに女性作家枠を作ったのだけど、作者名がむちゃくちゃなので男女の区別があまりつかない。ヘロー天気は男性っぽいのだけど、これはレジーナブックスというレーベル枠で。
 文体やあとがきから適度に振ってみたのだけれど、途中でめんどくさくなった。
 4,000冊読破時を目途にした次のお勧めリスト作成に明日から頑張ろう。


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