みだれめも 第226回

水鏡子


なろうの整理6 アーススターノベルス

○近況(2月)

 前回の整理で触れた『魔導師は平凡を望む』。アリアンローの代表作なのに、1冊(第2巻)しか読んでいないというのは整理上よくないかなあとひっかかった。人気作であり200円にまで落ちない。22冊刊行で、さすがに2万円近い出費は厳しくて図書館とWEBに頼った。一応最後まで読んだ評価は可。1冊だけなら楽しめるけどまとめると浅いところでパターナイズされており冗長でくどい。ただたぶん欠点と重なる部分で人気も得ておりこれはこれでいいのだろう。TV版「水戸黄門」の特長をイメージしてもらえればちょうどいいが「水戸黄門」よりはレベルは上。
 その他、2月にWEB最終版まで読んだものには『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』(優)、『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』(可)がある。どちらも今回紹介のアーススターノベルスである。
 2月は新刊を1冊も買わなかったのと古本用クーポンを多用したせいで、何年ぶりかで購入総額が1万円を割り込んだ。
 購入冊数は160冊。なろう系33冊、コミック45冊。

○近況(3月)

 みだれめも220回西村寿行リスト失敗苦労譚で紹介した「はる坊の雑記」の管理者から丁寧なメールを頂いた。
 リスト作りでいろいろ調べたりしくじったこともあって、寿行本集めが再燃し、リスト作成時3割近くあった未所有作が十冊少々にまで減少した。そのうち半分くらいは自薦集、徳田左近シリーズ再編集版などの再録短編集なので、実質一桁を切っている。
 その過程でいくつか訂正事項も見つかったので、ご報告。

①最後の短編集『碇の男』について
入手してみると再録でなく新規短編集。混乱の原因となった「刑事」は同名の別作品でした。
② 『監置零号』について
入手してみると、同じ主人公たちによる法定物の連作短編集だった。
③ 掲載誌について
一部の作品についてだが、国会図書館で作品単位で検索すると参考資料として雑誌がリストアップされていた。なぜ一部の作品なのかは謎だが、国立国会図書館デジタルコレクション化されている雑誌であるかどうかということのように見える。ただ雑誌の目次からのワード検索なのでブックレビューなども混ざっており、一応みつけたものに(?)をつけておいた。

 そんなところで手直しした寿行リストと差し替える。 (リンク先はExcel Onlineです)
 個人的用途として、確保した本の記録セルを加えた。

 3月新たにWEB最終版まで読んだものには、健康『槍使いと、黒猫。』(良)、真上犬太『かみがみ〜最も弱き反逆者〜』(優)などがある。
 『槍使いと、黒猫。』は光の力を持つ闇系吸血種族に転生した主人公が幾多の神と魔神と邪神が相争う世界で強力な眷属を増やしながら成り上がっていく、全体8割がバトルシーンの混沌とした物語。次々と出現するあらたな諸勢力、あらたな諸種族、あらたな魔道具、あらたなスキルが支離滅裂に錯綜する。比較的普通の初期書籍化部分は文章的に読みづらさがあったが錯綜するに従って気にならなくなる。
 『かみがみ〜最も弱き反逆者〜』は神々が多数の勇者を召喚し、魔王と覇権を争いゲーム感覚で帰趨を決める世界が舞台。ゲームの舞台となった星は壊滅的に荒廃する。自分の星を破壊された過去をもつ女神が召喚された勇者の代わりに勇者に滅ぼされたコボルト村の最後の一人を自分の勇者に定めたことからゲームは大きく様変わりする。力ある神々が付与する能力に、<神規>という勇者(日本の若者)が前の世界で遊んでいたゲームのルールを世界に押し付けるものがあり、コボルトがそのルールと闘うことになるという力業の展開が秀逸。
 3月の書籍購入は2月の反動もあって5万円の出費、冊数は288冊。うちコミック48冊、なろう系110冊。出費の割にはたいしたものはない。

 青春18切符の適用期間であり、京都、岡山と東西の古本屋・古本市に動き回った。神戸の即売会では初期SFマガジンが一律250円で並んでいた。丸背はなかったが19号以降がほぼ揃っていて、状態の良いものを12冊まとめ買い。持ってないのは4冊だけだったけど、保存状態の悪いものも少なくないのでこの値段ならまあいいかと。これでSFマガジン角背は「ハヤカワHi」を除いてコンプリートになった。
 岡山では初めてレンタサイクルを使って即売会やブックオフなど8件を回った。距離を稼げるとともに買った本を前かごに載せることができるのも思いがけないメリットだった。そのぶん買い込みすぎてJRに乗ってからが大変だった。
 有名な万歩書店という古本屋にいって、奥行数十メートルの店構えに圧倒される。品揃えは凄いのだけど値付けがきちんとしていて手が出ない。ただ文庫に関しては個別の値付け本以外、定価399円までは100円均一ということで、黴らせてしまった古い創元本の買い直しに10冊ほど拾った。
 ダブリ本はあいかわらずだが、2000円で買った『香山滋全集』が1冊ダブったのは近来にない高額の失敗だった。
 大阪の古本市に行った時には駅への道を尋ねたおばさんが宗教の人だった。こちらから話しかけた成り行き上、駅までお相手をして、パンフレットをいただく仕儀となった。

○なろうの整理6 アーススターノベルス

アーススターノベルス

 (優)夾竹桃『戦国小町苦労譚』10巻・未完
 (優)門司柿家『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』4巻・未完
 (優)漂月『人狼への転生、魔王の副官』11巻・未完
 (優)藤孝剛志『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』6巻・未完
 (優)再藤『スライムなダンジョンから天下をとろうと思う。』4巻・終了
 (良)道草家守『ドラゴンさんは友達が欲しい!』5巻・完結
 (良)藤原ゴンザレス『ドラゴンは寂しいと死んじゃいます』4巻・未完
 (良)makuro『やりなおし転生*俺の異世界冒険譚』3巻・未完
 (良)猫子『転生したらドラゴンの卵だった』9巻・未完
 (良)漆黒の豆腐『文官ワイト氏と白き職場』1巻

 アーススターエンターテインメントという聞きなれない出版社名。ツタヤを展開しているカルチュア・コンビニエンス・クラブの系列会社で、当初は発売アーススターエンターテインメント(06年創業)発行泰文堂(大正5年創業)という体制で、業務を行っていた。映画・ビデオ・タレントマネジメント・出版・コミック・アニメと幅広く展開していたらしい。18年に泰文堂の全株式を取得して名実ともにアーススターエンターテインメントに一本化したようだ。
 アーススターノベルは14年12月創刊、再藤『スライムなダンジョンから天下をとろうと思う。』赤井紅介『京都他種族安全機構』、翌1月には藤孝剛志『大魔王が倒せない』山田まる『おっさんが美女』と毎月ほぼ2冊づつコンスタントに出版する。
 『スライムなダンジョンから天下をとろうと思う。』の評価はWEB版によるもの。書籍版は4巻で終わっているが、実際には10巻越えの分量がある。ぼっちの魔導師が洞窟内に籠って生み出した知性あるスライム。成長するに従ってドラゴンをも凌駕する世界の規律を侵す存在へと変貌していく。アットホームでドメスティックな雰囲気と、世界を揺るがす事象の根源と化す展開は、なろうのひとつの典型であると同時に、このレーベルの基本カラーである気がする。
 『人狼への転生、魔王の副官』、『ドラゴンさんは友達が欲しい!』、『ドラゴンは寂しいと死んじゃいます』などがその系統の良作である。
 『人狼への転生、魔王の副官』魔王軍の人狼として転生した主人公。私淑できた竜人の前魔王、師匠であった現魔王の志を組んで魔族と人族の平和的共存のため邁進する。『ドラゴンさんは友達が欲しい!』はドラゴンに転生した女子大生が国に逆らいドラゴンの生贄とされた青年と友誼を結び、世界の危機に立ち向かう王道展開。『ドラゴンは寂しいと死んじゃいます』は人類最強の傭兵が仔竜を庇護し集まってくる間の抜けたたちと共同生活を目指す寓話風味の味濃い作品。
 『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』は要素は似たようなものなのだが展開バトルがハードなので雰囲気的にドメスティックと言い難い。
 もっとも例外の良作も多く、『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』『ねえちゃんは中二病』(HJ文庫・可)の著者藤孝剛志の、読んだ中では一番の作品。定期的に大量の人間が勇者として召喚される世界。召喚された修学旅行の一団だったが、この世界の神からランダムに付与される異能がもらえなかった主人公、じつは元々現世において世界中から恐怖され監視されていた存在だった。そんな人間が召喚されてしまったことで異世界は収拾不能の混乱に陥れ入れられることになる。
 『転生したらドラゴンの卵だった』もほのぼのしそうなタイトルから予想できないバトル系。グロ・シーンもしっかり書き込まれている。
 歴女の農業学校女子高生が織田信長の片腕として活躍する『戦国小町苦労譚』は、以前に紹介したこともある僕のレーベル・トップのお勧め品。本能寺の変の時期も(たぶん)過ぎて織田信長の天下統一が目前に迫っている。

レッドライジングブックス

 カルチュア・コンビニエンス・クラブの傘下には、ほかにリンダ・パブリッシャーズという出版社があった。あったと過去形なのは18年9月に倒産しているためである。
 ここが2017年1月からレッドライジングブックスというレーベルを立ち上げ、月3冊ペースで刊行する。ところが同年9月からの出版中止の告知を行い、わずか8ヶ月で頓挫する。その1年後に倒産したわけである。25点の作品がほとんど1冊出たきりで終了したわけで、それも理由であってかブックオフでも200円に落ちる比率が極めて高く、うちでもなんと21作が入手済。
 困ったことに、飛び抜けた傑作こそないものの、それなりに安定して楽しめるものが多いのだ。ここは見方を変えて、WEB版を読むためのショーケースなのだと割り切ろう。
 二線級戦国武将に転生した10人近くの現代人がチャットしながら生き延びるための工夫を凝らす青山有『竹中半兵衛の生存戦略』(可)、『魔法科高校』風の現代ものたすろう『魔界帰りの劣等能力者』(可)、題名通りの内容のポンポコ狸『朝起きたらダンジョンが出現していた日常について』(良)、VRMMOで不遇職のスローライフを選んだはずがトップランカーになってしまう定番設定棚架ユウ『出遅れテイマーのその日暮らし』(可)をWEB最終版まで読んでいる。
 他では『武姫の後宮物語』(良)の母親の恋物語筧千里『最強無敵、天下無双の恋する乙女』(可)、勇者召喚までのつなぎとして召喚された主人公が奮起する『勇者の出番ねえから』(可・WEB版は消失)などを楽しんだ。


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