みだれめも 第216回

水鏡子


なろう系・続

 なろう系を読みあさったのには、書籍化されたものに限ればジャンルの発生から現状までを系統を押さえ俯瞰的に見渡すことが今ならまだ可能だろうと思ったところもある。

 ライトノベルに関しては、草創期から何人かの作家は単位で拾っていたし、どんな本が出版されているか大まかにはSF周辺状況としてチェックしていたので、それなりにはふつうより知ってるほうだったと思うけど、ジャンル全体を俯瞰掌握する読み方は電撃のブギーポップから。どうしてこんな作家が出てきたのか、当時の現在状況を追いかけたくなった。ロードス島やARIEL、スレイヤーズ、フォーチュン・クエスト、オーフェンなどその前の有名作をほとんど読んでなくて、後続への影響とかそこからの脱皮とかの時系列的変遷に実感を伴えていない。いちおう拾っちゃっているので、いつか読むことがあるかもしれないけれど。作家単位で拾っていくのとジャンルが見えるということはかなり別の目線が必要で、むしろ少女小説系の方が氷室冴子をマイルストーンにして、たぶんそれ以前の時代は読んどく必要性を感じることなく、彼女以降をわりと俯瞰的視座で捉えていたように思える。最近はさすがについて行かなくなって、何人かは読んでいるけどジャンルの現在が見えなくなった。よしながふみのときみたいに、本人の作品は読みたくないものも含めて大半をこなしたものの、そこを起点に属している世界を見渡すことを意識的に忌避しているジャンルもある。小説読みより作家読み、作家読みよりジャンルもしくはムーブメント読みというのがぼくの基本的読書スタンスなんだろうと思う。

 最初の興隆期の読者の気分に添えていないことに引け目を感じるライトノベルと比較して、ネット発小説は、書籍化したものに限定すれば2005年の『レイン』が嚆矢であるらしい。その前段に2次創作の時代があったということで『福音の少年』とか少し気になるものもあるのだが、遡及する必要はそんなになさそうだ。0年代は数そのものも知れている。アルファポリスの独断場。2010年にエンターブレインが『まおゆう』のヒットからこのジャンルに参入。2012年にヒーロー文庫が刊行され、その好業績から一気の百花繚乱状態に突入する。

 だから量産状態が出現したのはここ5年くらい。出版点数合わせて千数百冊といったところか。一年少しで、古本屋での大人買いで500冊ほど入手して、読み終えたのが300冊越え。さすがに一気読みの反動で、昂奮は醒めてきた。できの悪いものも目につきだしたし、昂奮が醒めた分、前に褒めたものにもあらが気になるものが出てきた。それでもトータルとして面白いことにかわりはない。

 先駆的作品というのをいくつか読んで、『レイン』から現在の「異世界召喚・転生無双」までを直線的進化と捉えた前回の推測が間違っていたのがわかった。古めの作品の方が、厚みや奥行きがあったり、伝えたいものが重たかったりうざったかったり、評価としては現在の中核的作品群より内容的に上位に来る気がする。けれども、むしろそういうものを削ぎ落し、楽しく「語る」、「健全」な小説群が量産される状況が生じたようにも思えて、それもある種の「ジャンルの進化」と評価できる気がする。

 とりあえず、★5つがみつかったのと、読んだ冊数の確認をしておきたいので、前回のリストの上書きから始める。オーバーラップ大賞がらみのものとか、WEB小説かどうかよくわからないで混ぜたものもいくつかある。

 ★5は絶対評価で5枠。埋まっていない。あとは前回書いたように順繰りに上から枠作品数を埋めていく相対評価だが、枠を広げて★4を10、★3を20、★2を40とする。残りは★1と、可もなく不可もなくなもの、それにゴミ(こんなものを本にするなよ)とを全部ひとまとめに。若い頃とちがってゴミをゴミとあげつらうのがためらわれるという理由なので、一緒くたにした★1の本には申し訳ない。ごめんなさいです。ちなみに★5★4は僕の中では別格扱いで、★3から★1までは気分次第でわりと入れ替わりそう。それくらい均質ですなおに語りを楽しめる。同じネタを読みどころにしたものが大量にあるので、先に読んだ方が若干評価が高くなった気がする。第1巻しか読んでない本がいくつもあるのは、その先を読むに値しないという理由ではない。そういうものもないではないけど、基本的にA以降を100円、200円で買うことができないためである。買った本を読み切れない状態で、800円(半額値)近い本を買って続きを読む余力は金銭的にないのである。それにどの本も似たような安定した出来の良さということは、裏を返せば続きを読むのも別の本を読むのも同じようなものだということでもあるわけで。バトル系、お食事系より領地経営、生産系の評価が高めなのがぼくの偏りなのだけど、最上位には意外と食いこめていない。

★★★★★:5作以内 34冊読破

 1 橙乃ままれ 『魔王勇者@〜D・外伝@〜B』 (完結・エンターブレイン)
2 橙乃ままれ 『ログホライズン@〜I』 (エンターブレイン)
3 大森藤ノ 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか@〜H・外伝@〜D』           (GA文庫)

★★★★:10作 64冊読破

1 疎陀陽 『フレイム王国興亡記@〜C』 (オーバーラップ文庫)
2 樋辻臥命 『異世界魔法は遅れてる!@〜E』 (オーバーラップ文庫)
3 すずの木くろ 『宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する@〜D』 (モンスター文庫)
4 日暮眠都 『モンスターのご主人様@〜D』 (モンスター文庫)
5 甘酒之瓢 『ナイツ&マジック@〜D』 (ヒーロー文庫)
6 佐島勉 『魔法科高校の劣等生@〜P』 (電撃文庫)
7 柳井たくみ 『ゲート @〜D外伝@〜D』 (完結・アルファポリス)
8 蝉川夏哉 『邪神に転生したら配下の魔王軍がさっそく滅亡しそうなんだが、どうすればいいんだろうか@〜D』 (アルファポリス)
9 おけむら 『勇者互助組合 交流型掲示板@A』 (アルファポリス)
10 林亮介 『迷宮街クロニクル@〜C』 (GA文庫)

★★★:20作 98冊読破

11 割内タリサ 『異世界迷宮の最深部を目指そう@〜E』 (オーバーラップ文庫)
12 白米良 『ありふれた職業で世界最強@〜B』 (オーバーラップ文庫)
13 Gibson 『銀河戦記の実弾兵器@A』 (オーバーラップ文庫)
14 藍藤ユウ 『魔剣戦記@〜B』 (オーバーラップ文庫)
15 横塚司 『ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける@〜D』                   (モンスター文庫)
16 井藤きく 『ドラゴンイェーガー@A』 (モンスター文庫)
17 兄二 『異世界エース@〜B』 (モンスター文庫)
18 肥前文俊 『青雲に駆ける@〜B』 (ヒーロー文庫)
19 浮世草子 『最新のゲームは凄すぎだろ@〜C』 (ヒーロー文庫)
20 山下湊 『ウロボロス・レコード@A』 (ヒーロー文庫)
21 寺原るるる 『竜峰の麓にぼくらは住んでいます@』 (ヒーロー文庫)
22 十本スイ 『金色の文字使い@〜F』 (ファンタジア文庫)
23 川原礫 『ソード・アート・オンライン@〜O 別伝@A』 (電撃文庫)
24 丸山くがね 『オーバーロード@〜H』 (エンターブレイン)
25 理不尽な孫の手 『無職転生@〜I』 (MFブックス)
26 香月美夜 『本好きの下剋上@〜E』 (TOブックス)
27 高見梁川 『異世界転生騒動記@〜D』 (アルファポリス)
28 アマラ 『神様は異世界にお引越ししました@〜D』 (宝島社)
29 mm 『カボチャ頭のランタン@〜B』 (ダッシュX文庫)
30 蝸牛くも 『ゴブリンスレイヤー』 (GA文庫)

★★:40作 135冊読破

31 ネコ光一 『ワールド・ティーチャー@A』 (オーバーラップ文庫)
32 いえこけい 『リーングラードの学び舎より@A』 (オーバーラップ文庫)
33 日々花長春 『異世界混浴物語@〜C』 (オーバーラップ文庫)
34 篠崎芳 『聖樹の国の禁呪使い@〜D』 (オーバーラップ文庫)
35 ファースト 『神眼の勇者@〜B』 (モンスター文庫)
36 ファースト 『ぼっち転生記@』 (モンスター文庫)
37 雪だるま 『必勝ダンジョン運営方法@〜B』 (モンスター文庫)
38 美紅 『進化の実@〜B』 (モンスター文庫)
39 夏にコタツ 『ギルドのチートな受付嬢@A2.5』 (モンスター文庫)
40 幼馴染み 『異世界の迷宮都市で治癒魔法使いやってます@〜B』                        (モンスター文庫)
41 からす 『余命一年の勇者@A』 (モンスター文庫)
42 空野進 『鑑定能力で調合師になります@A』 (ヒーロー文庫)
43 岩船晶 『ポーション、わが身を助ける@A』 (ヒーロー文庫)
44 相野仁 『ネクストライフ@〜H』 (ヒーロー文庫)
45 三島与夢 『セブンス@』 (ヒーロー文庫)
46 神野光典 『異世界で生きていく方法@』 (ヒーロー文庫)
47 唐沢和希 『転生少女の履歴書@』 (ヒーロー文庫)
48 陽山純樹 『賢者の剣@』 (ヒーロー文庫)
49 赤雪トナ 『竜殺しの過ごす日々@〜J』 (完結・ヒーロー文庫)
50 武藤健太 『無属性魔法の救世主@』 (ヒーロー文庫)
51 アロハ座長 『Only Sense Online@〜F』 (ファンタジア文庫)
52 長月達平 『RE:ゼロから始める異世界生活@〜F』 (MF文庫)
53 アネコユサギ 『盾の勇者の成り上がり@〜B』 (MFブックス)
54 埴輪星人 『フェアリーテイル・クロニクル@〜D』 (MFブックス)
55 みかみてれん 『勇者イサギの転生譚@〜B』 (エンターブレイン)
56 風羽洸海 『灰と王国@〜B』 (エンターブレイン)
57 三度笠 『男なら一国一城の主を目指さなきゃね@〜C』 (富士見書房)
58 安登恵一 『遅咲き冒険者@』 (KADOKAWAブックス)
59 鰤/牙 『VRMMOを金の力で無双する@〜C』 (HJ文庫)
60 霧島まるは 『左遷も悪くない@』 (アルファポリス)
61 佐竹アキノリ 『異世界を制御魔法で切り開け@』 (アルファポリス)
62 安部飛翔 『シーカー@〜G』 (アルファポリス)
63 吉野匠 『レイン@〜L外伝@』 (アルファポリス)
64 ヘロー天気 『ワールド・カスタマイズ・クリエイター@〜D』 (完結・アルファポリス)
65 天野ハザマ 『勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です@』 (アルファポリス)
66 秋川滝美 『いい加減な夜食@A』 (アルファポリス)
67 小田マキ 『アイリスの剣@〜C』 (レジーナブックス)
68 佐崎一路 『吸血姫は薔薇色の夢をみる@〜C』 (新紀元社)
69 栗木下 『異世界じゃなくて、現実世界で魔王になったら@』 (NMG文庫)
70 いくさや 『魔法書を作る人@』 (GCノベルズ)

★以下:150冊読破

71 十文字青 『大英雄が無職で何が悪い@〜B』 (オーバーラップ文庫)
72 弁当箱 『転生!異世界より愛をこめて@』 (オーバーラップ文庫)
73 にゅん 『異世界に転生したんだけど俺、天才って勘違いされていない@』         (オーバーラップ文庫)
74 陸理明 『かくて聖獣は乙女と謳う@』 (オーバーラップ文庫)
75 岸根紅華 『戦華の舞姫@』 (オーバーラップ文庫)
76 熱井拳也 『君から受け継ぐ英雄系譜@』 (オーバーラップ文庫)
77 有馬五十鈴 『ビルドエラーの盾僧侶@〜B』 (モンスター文庫)
78 岸本和葉 『異世界召喚は二度目です@』 (モンスター文庫)
79 水星 『勇者パーティーに可愛い子がいたので告白してみた@〜B』 (モンスター文庫)
80 月夜涙 『エルフ転生からのチート建国記@A』 (モンスター文庫)
81 藤崎 『レベル99冒険者によるはじめての領地経営@〜B』 (モンスター文庫)
82 にゃお 『魔人勇者サトゥン@』 (モンスター文庫)
83 マツ 『スカートの奥を征く者@』 (モンスター文庫)
84 愛澤魅魂 『ぼっちがハーレムギルドを作るまで@』 (モンスター文庫)
85 硝子町玻璃 『異世界の役所でアルバイト始めました@』 (モンスター文庫)
86 Kt60 『物理さんで無双してたらモテモテになりましたB』 (モンスター文庫)
87 柊むぅ 『天災外科医が異世界で闇医者を始めました@』 (モンスター文庫)
88 タンバ 『軍師は何でも知っている@〜C』 (モンスター文庫)
89 山南葉 『サラリーマン中二病@』 (モンスター文庫)
90 高梨ひかる 『魔力の使えない魔術師@A』 (ヒーロー文庫)
91 細川晃 『エルフ・インフレーション@A』 (ヒーロー文庫)
92 河和時久 『ワールド・オーダー@A』 (ヒーロー文庫)
93 岬キタル 『こちら討伐クエスト斡旋窓口@A』 (ヒーロー文庫)
94 唯野皓司 『打算あり善行冒険者@』 (ヒーロー文庫)
95 犬塚惇平 『異世界食堂@』 (ヒーロー文庫)
96 内田健 『異世界チート魔術師@〜B』 (ヒーロー文庫)
97 気がつけば毛玉 『神様ライフ@〜B』 (スニーカー文庫))
98 暁なつめ 『この素晴らしい世界に祝福を@』 (スニーカー文庫))
99 吉川兵衛 『やっぱチョロインでしょ』 (スニーカー文庫))
100 赤石赫々 『武に身を捧げて百と余年。エルフでやりなおす武者修行@〜C』 (ファンタジア文庫)
101 サカモト666 『HP1からはじめる異世界無双@』 (ファンタジア文庫)
102 かっぱ同盟 『メイデーア魔王転生記@A』 (ファンタジア文庫)
103 わい 『ドラグーン@A』 (MFブックス)
104 津田彷徨 『やる気なし英雄譚@』 (MFブックス)
105 秋ぎつね 『マギクラフトマイスター@』 (MFブックス)
106 赤巻たると 『ディンの紋章@〜B』 (MFブックス)
107 星崎崑 『ネトオク男の異世界貿易@』 (MFブックス)
108 井々田K 『先代勇者は隠居したい@〜B』 (MFブックス)
109 烏丸烏丸 『土魔法に栄光を@』 (KADOKAWAブックス)
110 支援BS 『辺境の老騎士@』 (エンターブレイン)
111 リュート 『29歳独身は異世界で自由に生きた・・・かった。@A』 (富士見書房)
112 秋月アスカ 『異世界出戻り奮闘記@』 (アリアンローズ)
113 遠野空 『俺が魔族軍で出世して魔王の娘の心を射止める話@A』 (TOブックス)
114 栖原依夢 『最強勇者の弟子育成計画@』 (宝島社)
115 紫炎 『まのわ@〜B』 (このライトノベルがすごい文庫)
116 白沢戍亥 『白の皇国物語@〜C』 (アルファポリス)
117 櫻井春輝 『Bグループの少年@〜BD』 (アルファポリス)
118 大沢雅紀 『反逆の勇者と道具袋@〜D』 (アルファポリス)
119 秋川滝美 『ありふれたチョコレートA』 (アルファポリス)
120 如月ゆすら 『リセット@〜F・5.5』 (アルファポリス)
121 かっぱ同盟 『僕の嫁の、物騒な嫁入り事情と大魔獣@〜B』 (アルファポリス)
122 ヘロー天気 『異界の魔術士@A』 (レジーナブックス)
123 アマラ 『地方騎士ハンスの受難@〜B』 (アルファポリス)
124 幾威空 『黒の創造召喚師@』 (アルファポリス)
125 泣き虫黒鬼 『鍛冶師ですが何か!@A』 (アルファポリス)
126 桐野紡 『アルゲートオンライン@』 (アルファポリス)
127 阿部正行 『強くてニューサーガ@〜C』 (アルファポリス)
128 白神怜司 『スイの魔法@〜B』 (アルファポリス)
129 木原ゆう 『魔剣ゾルディの成長記録@A』 (アルファポリス)
130 八汰烏 『アーカディアの魔工学士@』 (アルファポリス)
131 謙虚なサークル 『効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める@』 (アルファポリス)
132 田中二十三 『物語の中の人@〜B』 (アルファポリス)
133 結城絡操 『本一冊で事足りる異世界流浪物語@』 (アルファポリス)
134 乃塚一翔 『セブンスブレイブ@』 (アルファポリス)
135 雨竜秀樹 『邪悪にして悪辣なる地下帝国物語@〜D』 (完結・アルファポリス)
136 雨宮れん 『雇われ聖女の転職事情@』 (レジーナブックス)
137 風来人 『酷幻想をアイテムチートで生き抜く@』 (マイクロマガジン)
138 りゅうせんひろつぐ 『賢者の弟子を名乗る賢者@』 (マイクロマガジン)
139 柑橘ゆすら 『異世界支配のスキルテイカー@A』 (講談社ラノベ文庫)
140 御子神零 『少年給魔師と恋する乙女@』 (GA文庫)
141 保利亮太 『ウォルテニア戦記@〜B』 (フェザー文庫)
142 栖原依夢 『壊天の召喚撃退士』 (新紀元社)
143 ゆうたろう 『異世界最強は大家さんでした@』 (アーススターノベルズ)
144 もち 『異世界魔術師は魔法を唱えない@A』 (ビギニングノベルズ)
145 一年新 『人喰いダンジョンA』 (ビギニングノベルズ)

 ・・・うーむ。はじめてちゃんと数えたけれど148作481冊ですか。先述のように300冊くらいのつもりだったのですがね。今年度のなろう系500冊読破目標が春の間に達成できそう。家にある拾った本を全部片付けたらそれだけでクリアできるのだけど、未読の半分がレジーナやアリアンローズなんかだからなあ。

○ヒーロー文庫に対する評価が上昇した。
 『竜殺しの過ごす日々』を評して「ライトノベルのコロコロコミック?」と前回書いたのだけど、全体に小学生高学年なら十分理解可能な作品が多い。内容的にも倫理コードがきちんとしていて知育啓蒙要素が強い。もちろんラノベ仕様であるのでハーレム設定はふつうにあるけど、桃色要素の加味された小学校高学年向け課題図書もしくは学習漫画といった、品の良いテイストが多数を占める。現代の野鍛冶が転移した世界で技術を伝えていくなかで夫婦生活に比重のかかった描写を綴る『青雲に駆ける』や、異世界転生のきっかけとなった死の恐怖から、周囲の人間たちを材料扱いして使い潰すダークな錬金術師の物語『ウロボロス・レコード』などの例外もあるが、基本的に親が安心して子供に手渡すことができる話が中心だ。『ポーション、わが身を助ける』『鑑定能力で調合師になります』みたいなほのぼのした話は『魔女宅』みたいで肩の力を抜いて読める。
 というか、なろう系のほとんどが、肩の力を抜いて読める、読むのは楽しいけれど読まなくても別にかまわない、そういう本である。だからこそ、これだけ一気に読めたという面がある。読んどかなきゃなあと思う本を横に積み上げ「なろう系」を読みあさるのは、試験前日漫画に手を出す心境に近い。そんな日々が1年以上続いている。

○世界設定やチート能力の修得方法、表現描写方法が似たようなもの(というか同じもの)だったり、転生以前のひきこもり描写や魔法学校入学、美少女集団に懐かれるなどのお約束展開が繰り返されるのはある意味やむをえなくて、それらは読む側にも安心感を与えるものでもあるのだが、それだけではなく小ネタ中ネタの流用度合いがとんでもない。黒髪黒目による差別や、奴隷の誓約紋とか石鹸、ポンプ、水車、ジャガイモ、米、醤油、四輪作、鉄器、オセロなどなどの異世界への技術導入話を実に何度となく読まされた。同じ話をコピペしてアレンジするのが幅広く許されるというのは、ここまでいくとこれはひとつの文化なのだろう。武器の鍛造と鋳造の違いなんかも繰り返し勉強させていただいた。
 先行作の劣化バージョンとしかいえないものも散見はされる。それでも基本的には自分の語りたい妄想を、手近な素材を使用して実現していく、そんな心根のものが多数だ。「RPGツクール」の小説応用版という指摘をネットでみかけたが、言い得て妙に思える。「RPGツクール」を触ったことがないので、あくまで印象だけだけど。
 ゲームのステイタス画面の要領で修得レベル、スキルが表示される表現手法は、麻雀牌の配列を印字した阿佐田哲也の作品などに匹敵する発明かもしれない。TRPGリプレイからの伝統なのかもしれないがあちらはほとんど読んでないのでわからない。最初にやったのはだれだろう。
 食事シーンが必須であるのもなろう系文化の特徴らしい。

○★5と★4はそれなりに読み応えのあるものが並んだ。6作が新たに追加されたわけで、ほぼ半数が新顔である。最初に触れたようにそのすべてが初期書籍化作品であり、そういう読み応えを削ぎ落したところが現在のなろう系のもつ共有的物語文化の特異性かもしれない。

 「昔の方が、面白いと言えるのかな」
 「ぶつかっていく敵がいるというのは、勝ちも負けもはっきりして、それはそれで悪くないだろう」
 「まったくだ。私たちが考えているのは、水の中で暴れるようなことかもしれない、と時々思う。水から出れば、またもとの水がある。波紋さえもやがては消えてしまう、静かな水さ」
  しかし、戦をやる意味は、強く意識している。水の中で暴れても、水そのものを捨てようとしているのではない。いままでとは違う、新しい器にしようとしている。
  器がほんとうに新しいのかどうか、十年先、二十年先、いや五十年先にならなければ、わからないことだという気がする。
  そういうあてどなさがあっても、新しい器は必要なのだ。古かろうが新しかろうが、器は毀れることがある。
  しかし、水はいつまでも水なのだ。どんな場所でも、どんなものでも、器にできる。水のありようを信じ、水の中に物流という流れがあるかぎり、乾ききってしまうことはない、と考えてきた。
(北方謙三『岳飛伝16』124ページ)

 不思議な結構に収まってきた大水滸第三部『岳飛伝』も雑誌連載が終了し、残るは単行本あと1冊になってしまった。終りに向かって雄傑が次々と舞台を降りていく。ジンギスカンの話がはじまりそうな気配がしてきた。引用した文章を読みながら、なんとなくなろう系というのも「器」なのかなと考えた。いくつものいろんな器に収まりながら流れていく「物語」という「水」。

上位新顔6作について触れていく。

橙乃ままれ『まおゆう(魔王勇者)』(完結)
 魔王と勇者の最終決戦の場で、魔王(女)が勇者(男)に提案を行う。「戦後」の軍事経済の破綻の中で世界は悲惨なことになる。二人で手をとりあってそんな状況を乗り越えた丘の向こうの世界に行かないか。
 ポスト魔王と勇者の物語、ある意味定番設定で、話自体も予定調和の王道定番物語。ただ形式や細部が尋常ではない。まず、すべての登場人物に固有名詞がない。魔王、勇者、商人、メイド姉、メイド妹といった名称だけである。それが戯曲形式でセリフを喋り見栄を切り本編5冊3000枚を読み通させる。狂言形式との指摘もあってなるほどと納得する。太郎冠者次郎冠者というわけである。そして図書館族出身で経済学が専門の魔王を始めとしたキャラたちが脳筋メンバーに噛み砕いて説明する知的な開陳、主要メンバーの会話に見られる情愛の数々、そして丘の向こうに歩いていこうとするキャラたちの前向きの意思。凡庸な枠組みの中に詰め込まれた知情意の粋。はっきり言って読むのが苦手な狂言的表現の3000枚+外伝をこれは読まなければならないと思い定めさせる魅力的なキャラたちと台詞の数々。
 知と情というのは、いい小説の基本である。問題は「意」。ここで頑張られると、うざったいイデオローグのメッセージ小説となるのがほとんどで苦痛に耐えながら読むことになるのだが、この作品は「意」によってさらに輝く。ちなみに「知情意」の言いだしっぺは誰なんだろうと調べたら、どうやらカントの『純粋理性批判』あたりらしい。もっと昔のギリシアか中国あたりの言い回しだと思っていた。やっぱりカントは一度は読んどくべきかなあ。一応家に全集があるし。
 本書の特徴と魅力については、書籍化の中心になった桝田省治氏による第1巻解説が見事にまとめている。水玉蛍之丞のキャラデザインも力作。まず第1巻だけでも読み通していただきたい。
 個人的にはこの作品が現在のなろう系のテイストに精神的な支柱を与えているような気がしている。

○その橙乃ままれのふつうの小説形式の『ログホライズン』は、VRMMORPGが突然現実化され、遊んでいた3万人のプレイヤーが現在から切り離され、その世界で生きていかざるを得なくなる。これまた定番設定だが、物語は超強力なスキルを持つ3万人がいかにして永続できる社会を構築していくか、受肉化したNPCたちとどう共存していくかといった破滅テーマとコンタクト・テーマを重ねたテーマが色濃い。『魔王勇者』は経済学系の知性が前に出ていたけれど、こちらはむしろ社会学、法学系知性が目立つ。
 日常的合理性や科学的知見でファンタジイの世界律を読み替える蹂躙するというのが、SF系ファンタジイの常道で、ある意味本来的な幻想小説愛好者に唾棄されかねない方向性である。ぼくの「SFという暴力」という持論に至る視座であり、電撃を始めとしたライトノベルの代表作の大半がそういうタイプの作品で、その特徴は、世界が魔法等の非日常的な要素も含めて基本的に科学的視座で整合されるところにある。最終的にSF的な感触が世界を蓋うことになる。
 ところが、この『ログホライズン』は違うのだ。全面展開される科学的知見が世界を読み替えるためではなく、魔法的世界の在り方を尊重し、世界を支えるために援用されるのだ。『魔王勇者』もそうなのだが、全然SFっぽくならないのだ。ハード・ファンタジイといってもいい。ここで言う「ハード」は「ハードSF」のハードである。

 橙乃ままれにはあと1冊、コミック(原作)と料理エッセイ、短篇小説を組み合わせた『放課後のトラットリア@』(フレックス・コミックス)がある。料理研究会の女子高生4人が異世界に飛ばされる話。掲載誌が潰れて中断してしまったものだが、この巻末の短篇は、この作者の特徴がうまく抽出されていて、初読サンプルとしてちょうどいい。

大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』はダンジョンを中心に栄える都市で、都市でも5本の指に入る女戦士に憧れて、その憧れを「スキル」に、ダンジョンに潜りながら成長を続ける少年の物語。天界に退屈した神々が地上に降りてそれぞれに冒険者クランを立ち上げているという設定で、性格の悪い神々の因縁確執を横線に、正攻法の純愛系ダンジョンバトルが繰り広げられる。真っ直ぐさ心地よく、別格扱いの橙乃ままれを除いて唯一の★5をつけた。

 ダンジョン小説がもう一つ。
 京都市内に突然出現したダンジョンに探索者たちが群れ集う、林亮介『迷宮街クロニクル』。ダンジョンに潜っては生還し、休日になると京阪神をうろつく日常を地味というか地道な筆致で書き綴っていく。関係者がとにかくよく死ぬ。探索者たちの懐事情や現実の事物をリアルに盛り込むその手法は、時代から取り残された違和感を強烈に漂わす。GA文庫の出版年は2008年だけど、刊行時点ですでに10年以上古びた印象。ラノベですらない。休憩部屋に設置された共有パソコンに書かれた日記とか、月10万円の助成資金が頂けるのを有難がる「人類の剣」とか。金銭感覚に変なずれとリアルさがある。

 最近アニメ化されてるらしい柳井たくみ『ゲート』は魔法やエルフや獣人のお約束異世界に自衛隊が進駐する。専守防衛などの自衛隊法規の帳尻合わせやコミケ命のオタク全開モテまくり主人公やらの目配りの利いたよくできた話。一応の決着がついた本篇の後日談、性格の確立されたキャラたちが好き勝手に振る舞い、本篇と同じ長さで書かれた外伝の伸びやかさが好き。

 おけむら『勇者互助組合 交流型掲示板』は、いろんな世界で活躍した勇者たちが、スレッドを立て、過去の活躍の体験談や、現役勇者へのサジェストをチャットする。ひとつひとつのスレッドがショートショートというより小咄となってまとまりながら、複数のスレッドを経由するなかで、それぞれの勇者の性格や事情や活躍した世界が浮かび上がってくる。WEBの特徴を生かしたよくできた構成の作品で1冊目を読んだ時点は★5の評価だったのだが、『魔王勇者』同様全篇会話のやりとりだけの作品で、『魔王勇者』のときみたいにはテンションを維持することができなくて、第3巻まで(買ったのに)辿りつけなかったことから★4にとどまった。


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