岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。


 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、
それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

 『サンリオ文庫総解説』が売れたせいなのかどうなのか、早川書房でも隔月化「SFマガジン」の2015年4月号(2月発売号)からハヤカワ文庫SF2000冊(2014年12月時点で1984冊)の総解説を連載で載せていくようです。まだ、どのようなスタイルとなるかは分かりません。

 ハヤカワ文庫SF(当初はハヤカワSF文庫)といえば創刊1970年、1963年からの創元推理文庫に遅れること7年(その間は、新書サイズのハヤカワSFシリーズを刊行していた)、サンリオ文庫との競争をしていた時期もあるものの、今や内容、数量ともに国内最大のSF叢書に成長しています。

 ということで、今回はハヤカワ文庫のデータに基づく分析をしてみます。いろいろ分析はできるのですが、今回は特徴的な作家別とシリーズ別に絞って行います。例によって、元データに関しては渡辺英樹データベースに基づきます。

 まず注意が必要なのは、長い歴史のあるハヤカワ文庫の場合、同じ内容の原著が新装版、新訳版などで再刊される場合があるということです。ふつう重版というと、同じものの2刷、3刷で同一体裁同一通巻番号が与えられるため、別の本とはカウントされません(イラストの変更はよく行われます。この場合、中身の本は古い版のまま変わりません)。しかし、文字組が変わり改版されたものは、同じ翻訳者の本であっても新しい通番が与えられます。たとえば、1977年にハヤカワSFシリーズから文庫化された通番225アーサー・C・クラーク『海底牧場』は、2006年に通番1580として新装復刊していますが、翻訳者は高橋泰邦で変わっていません。この2000冊にはそういった改版本も多く含まれています。

 もうひとつは、原著の長大化に伴う分冊の影響です。今では当たり前になってきましたが、1冊の長編翻訳が文庫数冊分を占める場合があります。1冊にしようとすると、アレステア・レナルズ『啓示空間』などのように1000頁を超えてしまうので止むをえません。古くは1972年のフランク・ハーバート『デューン』なども4分冊で出ていました。

 以上から、単純に冊数でカウントすると作家別の点数が正しくなりません。上下巻、分冊1-3などは1冊と数えることにします。新装版は何らかの異同があると見なして、新刊にカウントします。上の例でいえば、『海底牧場』は2種類で2冊、『デューン』は4分冊で1冊とカウントしています(映画化に合わせた重版などは、イラストのみ映画スチルになるだけで同一通番のためカウントされません)。また特殊な例として、エドガー・ライス・バロウズの《ターザン》で未完のもの、重複しているものが計3冊あり、これを除きます(下記)。そうすると、1766タイトルが有効点数として残ります。

 
作家別数量ベスト 

 45年間のオールタイム・作者別数量ベストは上図のとおりです。上位ベスト10の作家といっても、全体の2割を占める程度ですので、寡占状態とは言えないでしょう。トップはクラーク。アシモフ、ハインラインらの古典御三家が入っています(ブラッドベリはNVが多く、SFマークではベストに入ってきません)。しかし、これらの作家の書籍在庫を見ると、ムアコック、カードは電子版を含めても存続点数が少なく、バロウズ、ハミルトン、チャンドラー、マキャフリイらに至っては古書のみしかありません(Amazon調べ)。また、御三家以降の新しい作家は、数量面から見て目立つ位置まで至っていないことが分かります。フォルツ、エーヴェルスらは《宇宙英雄ローダン》の一部、クラークなどによる合作は別カウントしています。

バロウズとディックの比較

 上図では、典型的な例として、エドガー・ライス・バロウズ(34冊)と、フィリップ・K・ディック(28冊)を挙げています。最初期のハヤカワ文庫は、ハヤカワSFシリーズとの棲み分けのため、スペースオペラ、ヒロイックファンタジイを専門としていました。エドガー・ライス・バロウズは創元推理文庫《火星シリーズ》以来の固定的人気があり、冒険活劇ものの顔とすべく、当時重点的に翻訳された作家です。ターザンを専門とするサブレーベル「ターザンブックス」(100番台の一部)まで作られました。しかしブームは続かず、出版点数も急激に落ち込みます。1982年を最後に、予定された作品も未完のまま途切れてしまいます。SF文庫の欠番は、この《ターザン》が原因です。一時期のキャンペーンで集中的に翻訳された作家には、他に《キャプテン・フューチャー》のハミルトンや《銀河辺境》のバートラム・チャンドラーを含めてもいいでしょう。

 一方のディックはハヤカワSFシリーズの『火星のタイム・スリップ』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など、根強い人気があった作家ですが、映画「ブレードランナー」の話題もあり、死の前後に最初のブームが起こります。1990年代まではサンリオSF文庫、SFシリーズなどからの再刊が中心でしたが、21世紀以降着実に版数、点数を増やし、ディック翻訳数で創元、旧サンリオを抜いて最多を有するようになっています(ディックの場合、切れ目なく出ているためか、改版されても通番が変わりません)。息の長い例では、クラーク、アシモフ、ハインラインらも人気の途切れない作家といえるでしょう。このように、一時的なブームにより短期間読まれる作家と、御三家のように長く読み継がれる作家に分かれる傾向があります。

 シリーズものベスト

 最後はシリーズものの点数ベストテンです。ハヤカワ文庫の場合、まず目立つのが《宇宙英雄ローダン》であり、487冊というのは全体の28%を占めています。現在も月に2冊はローダンものなので、この割合は増えていくでしょう。他にもスタートレックのノヴェライズである《宇宙大作戦》や、オリジナルストーリーの《新宇宙大作戦》など、併せて58冊になるシリーズものがある等、合計114のシリーズが累計986冊、全体の56%を占めています。ただ、上位ベストに出てくるシリーズは《宇宙大作戦》をはじめ、比較的新しい《紅の勇者オナー・ハリントン》など大半が絶版、《新しい太陽の書》(新装版)と《彷徨える艦隊》が残るのみとなっています。そもそも114もあるのは、新しいシリーズが次々と翻訳されて世代交代しているからともいえます。逆の見方をするなら、シリーズものの人気は出版後5年前後までで、長くは続かないものなのでしょう。1971年から今も続く《ローダン》の凄さを再認識できる結果です。

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