みだれめも・出納日記 14年1月

水鏡子


 本の雑誌で、日本で2番めに長い小説は、正統的には北方謙三【大水滸】、拡大解釈では茅田砂胡【デルフィニア〜】と書いたのだけど、いかがなものか。
 【大水滸】については問題ない。この三部作は梁山泊が生まれ育ち拡大し、山塞から国家に、そして生き方、概念へと成長変容していく物語である。ひとつとして読み切り完結した巻はなく、愚直に経時的に物語は進み、『梁山泊物語』と銘打てばひとつの長篇でないと否定することは不可能である。しかし何をもってひとつの長篇と呼ぶかはたぶん議論の分かれるところかと思う。

(1) 題名が主要登場人物が一定の枠内にとどまっていること
(2) 物語がつながったまま時系列的に前に進んでいくこと
(3) なんらかのゴールが予兆されること

 この三つを必要条件と決めたのだけど、読み切り連作の解釈は自分でもかなりグレーゾーンだと思う。また、正篇と続篇の問題もある。
 とりあえず(3)がキモである。たとえばミステリのシリーズなども主人公が昇進したり結婚離婚したり、過去の敵が復活したりしながら歳をとって時系列的には前に進んでいたりする。それでも人気に乗じて書き継がれたものは、そもそも個々の作品の独立性が高くて大きなうねりが見えてこない。

 基本的には、『銀河パトロール隊』から『レンズの子ら』までは長篇扱いできると思う。『ファースト・レンズマン』や『三惑星連合』は含めない。【スカイラーク】も非長篇。それぞれが続篇ということにする。火星シリーズは当然『大元帥カーター』までが長篇であり、【ザンス】は個々がひとつの長篇。
 過去の事件が繋がりあって最後で人類最悪と人類最強と人類最終と人類最弱ぶつかり合う【戯言】はぎりぎり長篇にしたいけれど、『宴の始末』で過去の全ての事件がつながる【京極堂】は長篇ではない。ちなみに【戯言】と物語が重なり合う【零崎】は長篇としての【戯言】には含まれない。この違いは【京極堂】が『宴』で唐突に全部がひとつの意図にまとめられるのとちがい、【戯言】はくどいくらいに2作目以降過去のしがらみが伏せられつついずれ語られるであることを暗示し続けるところにある。
 『ローマ人の物語』も長篇とは呼べない。同じ登場人物やひとつの世界、宇宙を共有する、【魔界都市】や【幻魔】も除外品。ムアコックのエルリックは、迷いつつも『メルニボネーの皇子』と『ストームブリンガー』の照応から長篇扱い。しかしその間の作品はあまりに照応性が少なすぎる。
 逆に、読んでないから自信はないけど、作品人気から続篇が書かれたと思しき『宇宙皇子』は天上編・地上編までが長篇で、あとは主人公は同じでも別物なのではないか。『とある魔術の禁書目録』と『新約 とある魔術の禁書目録』は正篇続篇でなくひとつの長篇と考えたい。合わせると現在33冊。
 長大なシリーズは、どちらかといえば女子系ラノベに目立つ。『破妖の剣』『流血女神伝』『炎の蜃気楼』『少年陰陽師』などなど。ただナントカ篇と副題がつく後ろの2つは全体を長篇扱いしないほうがいいのではないか。
 ぼくの長篇解釈はこういうものである。では問題です。
 【マリア様がみてる】は長篇でしょうか、そうでないでしょうか。

○1月の結果
支出計:240,778円。前年1月156,911円。83,867円増。
入手書籍:(→本の雑誌)

 風呂の修理で大幅増。あとカラオケの増えた分だけ交際費が増加。
 入手書籍数及び購入額については、本の雑誌のコラムとダブるので、今回から記載を控える。古本市場がラノベ3冊105円セールをやっていたので200冊を越えている。

1月6日(月)〜1月31日(金)
【トピック】

1月第2週
 土曜日。神戸大SF研OBで脳梗塞で3年以上施設長期療養している知人の見舞いに。ロビーで新聞を読んでいたので驚く。メンタル面はきわめてゆっくりながら少しづつ回復している気配があるが、体力面でいくぶん老けこんだ印象。見舞いの後、サ店を経て、みなでカラオケ。12月1月となにかの集まりのたびにカラオケに行っている。
 日曜日。例会に行こうとすると、乗車駅の前にパトカーと救急車が行列を作っている。なんだろうと思ったら駅構内で人身事故があったらしい。電車の運行が大幅に遅れ、大阪に着いたのは7時過ぎ。今週も青木社長とふたりだけ。(あとで聞いた話だと堺三保が覗いたけど二人とも来ないからとさっさと帰ったらしい。)青木さんにまんがのむしについて本の雑誌の取材があったということで、珍しく株話でなく昔話に花を咲かす。ふたりとも風邪気味。

1月第3週
 風邪が悪化する。のど飴を毎日一袋食べる。
 風呂の修理。設置が穴ぼこに埋め込むかたちなので部品交換のためには新規設置と同じ段取りで一度全て解体する必要があるとのこと。暖房の効かない寒気の中で、二人懸りで、夕方5時から始めて晩9時までの大作業。目算では2時間程度で片付く予定だったそうだ。ごくろうさまである。締めて6万5千円也
 例会前に伊丹周辺をうろつき、古本市場2軒、ブックオフ1軒を回る。
 例会はひさしぶりの盛況で6人揃う。

1月第4週
 水曜日。医者に行く。また、そしてこれで連続3か月、血糖値が上昇し、きれいな右肩上がりのグラフを描く。服用する錠剤が倍になる。
 地元に店のない大阪王将の餃子無料券10枚を3月末までに片付けるため、店舗分布を調べたうえで、今週も例会前に、今度は尼崎園田駅周辺の古本市場とブックオフに行く。ここのブックオフはなかなか収穫。「異形」の新らしどころとか、創元の星雲賞アンソロジーとかが105円(の2割引きセール)でいろいろ拾える。例会は大野万紀と3人。

1月第5週
 火曜日。歯医者の3か月ごと定期健診。また虫歯がみつかる。このところ検診のたびに虫歯がみつかる。血糖値の上昇と連動している可能性あり。のど飴が元凶かも。
 木曜日。さんちか古本市。高い。収穫なし。
 土曜日。親の法要。

【読んだ本】本66冊、漫14冊 計80冊

 和ヶ原聡司『はたらく魔王様(2)〜(10)』★★☆
 本宮ことは『幻獣降臨譚(1)〜(19)+短篇集』(完結)★★
 本宮ことは『魍魎の都(1)(2)+外伝(1)』
 本宮ことは『聖鐘の乙女(1)〜(5)』
 本宮ことは『ダイヤモンドスカイ(1)〜(4)』
 本宮ことは『狼と勾玉(1)(2)』
 本宮ことは『雪迷宮』、『花迷宮』
 本宮ことは『茨姫は嘘をつく』
 倉吹ともえ『キャンディ・ポップ(4)』(完結)★
 めぐみ和季『平安恋物語(1)〜(4)』(完結)△
 逢空万太『這い寄れ!ニャル子さん(1)』
 成田良悟『デュラララ(13)』★★☆
 鎌池和馬『新約 とある魔術の禁書目録』★☆
 和泉 弐式『VS (1)〜(3)』(完結)★☆
 鯨晴久『リップスファントム』
 西尾維新『クビキリサイクル』★★★、『クビシメロマンチィスト』★★★☆、『クビツリハイスクール』★★★
 早乙女貢『江戸まだら蛇』
 風間九郎『大江戸闇手裏剣』★★
 北原尚彦『SF奇書コレクション』★★☆
 橘川真一編『はりま伝説散歩』
 ジョージ・R・R・マーティン『竜の舞踏 (1)』(−)

(漫)
 高田裕三『CAPTAINアリス(8)〜(10)』森薫『乙嫁語り(6)』石川雅之『もやしもん(11)』道満清明『くぢら』谷甲州・水樹和佳子『果てなき蒼眠』 ほか14冊

 和ヶ原聡司『はたらく魔王様』は、魔法の使えない日本に飛ばされた魔王及びその配下(男)と勇者(女)が元の世界から追ってきた、日本のことに頓着しないで猛威を奮う天使たちと戦う話。マグロナルドで働いて、短期バイトから長期、店長代理と出世しながらいつか世界征服をめざす魔王の日常バイト生活がしっかり書きこまれているせいで、派手なバトル展開が浮きあがらずに読み応えあり。

 同様な読後感が和泉弐式『VS』にもある。こちらは悪の組織の下っ端戦闘員が必死に頑張り、仲間の戦闘員や怪人たりの心の支えになって、戦隊ヒーローに立ち向かっていく話。予定外に面白かった。

 本宮ことはのまとめ読み。『流れよ、凍りし我が涙』(幻獣降臨譚第5巻)などというタイトルをぬけぬけとつけているので、前々から気になってぽつぽつ拾い集めていたのだが、8割程度集まったのと、シリーズが完結したので、抜けてる巻を買い揃え、読んでみることにした。
 全体評価としては、お勧めするまでの作家ではないが、読んで楽しめない作家でもない。ファンタジイへの造詣はそれなりにあって、世界設定は平板ながらも安定したバランス感覚を見せてくれる。物語の中心はファンタジイ世界のなかでの諸勢力の確執で、諜報、裏切り、謀略面でなかなかの踏み込みを見せる。文章は最初の数冊を経たあとは、それなりにきちんとしていて、世界設定同様に物語のバランスに配慮がある。ただしギャグタッチの強いシーンや物語では文章の制御が上放れがち。あと、ふつうの中学生女子がふつうに読めるというあたりに小説の仕上げ基準が置かれているように思える。
 デビュー・シリーズ〈幻獣降臨譚〉がとびぬけていい。すべての女性がたくさんの精霊の加護を受けている世界。少女は初潮とともに精霊の加護を失い、代わりに彼女一人に連れ添う幻獣と契約を結ぶ。彼女が女になると契約は終わり、再び精霊たちを使役できるようになる。そんな世界の幻獣たちの頂点に立つ九頭の霊獣の一頭、竜の光焔のあるじとなった少女が、王位継承や宗教騎士団、隣国との戦争などの渦中に放り込まれ、世界を経巡り他の霊獣たちとの出会いを繰り返しながら、世界そのものの成り立ちの秘密にいたるという話。最終巻は力作。
 〈聖鐘の乙女〉は、亡くなった父親の楽譜を求めて、男だけの音楽学院に男装して入学した少女が、これまた王位継承と世界の存立に関わる楽譜を巡る争いに巻き込まれるという話だが、美少年の園に紛れこんだヒロインというラブコメ要素が全面展開。
 〈ダイヤモンド・スカイ〉は海賊と王女様の物語。ファンタジイ仕立てで始めてじつはSFでしたという話だが、あまりうまく転換できたとは思えない。
 年長読者を想定した、幻狼ノベルス『雪迷宮』、『花迷宮』は純愛要素が強いシリーズ。文章がしっかりしていてとくに『花迷宮』は悪くない。

 だいぶん集まってきたので、西尾維新に手をつける。予想以上にツボみたい。アニメ『化物語』とコミック『めだかボックス』などで概ね作風は承知していたのだけれど、このデビュー・シリーズは思った以上に小説濃度が濃い。やばいなあ。半額本を買うことになりそう。家の中には30冊はあるけれど、これなら50冊ほど片付けてから全体評価にかかりたい。

 『竜の舞踏』をやっと読みだす。登場人物がよくわからない。『乱鴉の狂宴』はこれまでの流れの中では枝篇的な事件と今後の展開に必要となる伏線を張り、キャラクターを拾い上げることが目的の巻で、ティリオンもデナーリスも『剣嵐の大地』以来7年ぶりの再会である。そのわりには話に入っていけるところがさすがマーティンというべき。
 読み始めなので感想は控えるが、苦言をひとつ。すこぶる頼るはめになった巻頭の地図だが、逆開きの原書からの転写のせいで、区分地図が西から東に並んでいる。全体的な位置関係が非常にわかりづらい。

【買った本・拾った本】主な本20点内

 コニー・ウィリス『混沌ホテル』頂き本(早川書房様 多謝)
 J・D・ロブ『イヴ&ローク (25)(26)』各100円
 リンゼイ・サンズ『秘密のキスを重ねて』84円
 ジュリー・ケナー『ママは悪魔探偵』84円
 イサベル・ホーフィング『翼ある猫 上下』各105円
 J・ワカツキ・ヒューストン『丙午の女』80円
 『千草忠夫選集1』2,250円
 大森望編『てのひらの宇宙』84円
 井上雅彦編『怪物圏』、『心霊理論』各84円
 夏目房之介『風雲マンガ列伝』84円
 吉良俊彦『ターゲット・メディア主義』84円
 北原尚彦『SF奇書列伝』2,415円
 『レベルアップ中国語1月号』420円
 風間賢二『怪奇幻想ミステリーはお好き?』950円
 ジーン・ウルフ『ピース』2,520円 ※今月買った最高値本

 『おまえのご奉仕はその程度か(4)』
 『美少女が多すぎて生きていけない』
 『猫は勘定にいれません、もちろん家にもあげません』
 『JSが俺を取り合って大変なことになっています(4)』
 『僕と彼女がいちゃいちゃいはいちゃ』
 『急募美少女達のフラグをへしおり、委員長を辞める方法』
 『幽霊伯爵の花嫁(1)〜(6)』
 『王子はただいま出稼ぎ中(1)〜(5)』
 『レッドデータガール(1)〜(3)』
 
他多数 各35円※今月買った最安値本

【株式成績・等】1月31日まで

 12月26日の実質新年入りから年末年始の爆上げが続く。6営業日で含み損が解消する。
 1月第4週。全投資額の半分を突っ込んでいたコロプラが大爆発。土を耕し、種をまき、育み育てた株を芽が出たところでちょん切った。水曜の大爆発を、時期を読み違え、月曜に小銭稼ぎで売り払う。買い戻しが間に合わず涙。高値で買い戻すが低迷する。
 第5週。新興国不安で株価大幅下落。含み損+売買益がマイナスに転じる。


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