みだれめも 第208回

水鏡子


 まずは映画から。

 「江戸忍法帖」(63年)☆☆、「月影忍法帖(忍者月影抄)」(63年)☆☆、「くのいち忍法」☆☆☆(64年)、「くのいち化粧(外道忍法帖)」(64年)☆☆、「忍法忠臣蔵」(65年)☆☆、「忍びの卍」(68年)☆、「伊賀忍法帖」(82年)☆☆☆、「魔界転生」(03年版)☆☆☆、東映チャンネル風太郎忍法帖特集でまとめ視る。

 「魔界転生」「伊賀忍法帖」以外は、60年代前半、忍法帖ブーム、東映時代劇末期の作。近作のアクション主体の映画より、肌に合う。もともと風太郎忍法帖自体、東映時代劇にインスパイアされた側面があるというのが持論であるので、それが当たっていればある意味当然かもしれない。ただ、忍法帖の発表時期とその時期の東映時代劇の作品をきちんと掌握できてないので、少し留保しておく。柳生十兵衛のイメージ、立居振舞いは、千葉真一でなく近衛十四郎が似つかわしい。

 「江戸忍法帖」、「月影忍法帖」はハードタッチの時代劇で忍法帖的色模様は少ない。「江戸忍法帖」はかなり原作に忠実だが、「月影忍法帖」は設定以外は別物。まあ甲賀、伊賀、尾張柳生、江戸柳生各七人衆が徳川吉宗元御側女七人を挟んで削りあう風太郎作品中でも突出したせわしない話なので、90分に約めるのは大変だろう。里見浩太郎、松方弘樹らが主役。「忍法忠臣蔵」は骨格は原作通りだが、くのいちが死なない。最後に主人公と千坂兵部の姫さんが結ばれるのは娯楽時代劇としてしかたないのだろう。主役丹波哲郎。

 「くのいち忍法」が見た中では一番の傑作。中島貞夫の監督デビュー作。脚本には監督と倉本總が関わっている。ウィキペディアで調べると、二人とも東大で在学中はギリシア悲劇研究会を立ち上げた同志であるとのこと。そう言われると納得できるようなメリハリのきいたセットや演出の工夫が随所に見られる。物語の大枠も冥土への旅すがら幸村と佐助が現世の戦いを覗き見るという設定がなされていたりし、風太郎の奇想と思想をいちばん体現している。

 続く「くのいち化粧」も中島貞夫、倉本總のコンビ作品。こちらは一転ギャグタッチ。シナリオ的にはしっかりしているが、原爆ネタで締めた原作の印象的なラストシーンを想うとコミカルにまとまりすぎ。

 「忍びの卍」はぼくの忍法帖ベストのひとつなので、映画はかなり不満。くのいち役で真理アンヌが出ていた。

 映画ではずみがついたので、持っているコミックをまとめて読み返した。

 せがわまさき『バジリスク(甲賀忍法帖)』(全5巻)☆☆☆、『Y+M(柳生忍法帖)』(全11巻)☆☆☆☆、『山風短(くのいち紅騎兵・剣鬼喇嘛仏)』(2巻)☆☆☆ 講談社。
 基本的に原作通り。恋愛部分に比重をかけたテンションを維持したまとめで、物量においても風太郎コミックの代表格。11冊かけて漫画化されたのもはじめてのこと。最初に『バジリスク』を読み始めたときは違和感もあったが、馴染んだ今は気に入っている。

 浅田寅ヲ『甲賀忍法帖・改』(2巻・途絶)☆☆ 角川書店。
 意匠に凝った、とても時代劇には見えない画質。描写は得意だが、話は忠実。

 石川賢『魔界転生』☆☆☆☆講談社漫画文庫他、『柳生十兵衛死す』(4巻途絶)☆☆☆集英社。
 原作を『虚無戦記』に連なる世界観で組み伏せる力技が魅力。遺作のひとつ『五右衛門』(1巻途絶・おもしろい)の永井豪のあとがきによると、この『魔界転生』で石川賢はクラスチェンジしたと書き記している。そういえばぼくが石川賢を集め出したのも、この作品からだ。

 とみ新蔵『魔界転生』(全2巻)☆リイド社。
 原作のなぞり方が単調。

 九後奈緒子『魔界転生』☆☆☆角川書店
 BL系本。天草四郎、十兵衛はともかく、武蔵、柳生但馬、森宗意軒(!)、魔人すべてが美青年という頭が痛くなる造形。しかしこの話をたった1冊180頁で整理したのはなかなかのもの。

 土山しげる『忍法剣士伝』(2巻)☆☆☆リイド社
 岩田やすてる『なでし(いだてん百里)』☆☆リイド社
 島崎譲『花かんざし捕物帖(おんな牢秘抄)』(全6巻)☆☆講談社

 長谷川哲也『アイゼンファウスト(天保忍法帖)』(4巻途絶)☆☆☆講談社
 最初の2冊はめちゃくちゃ面白い。風太郎得意の善悪反転混沌倫理が全面展開される。こんなにおもしろかったっけ、と個人的には評価が高くなっかった『天保忍法帖』を読み返す。なるほど、たしかに風太郎らしさがちりばめられているのだが、逆に手なれた得意技を適宜配置した、緊張感に欠けるものたりなさ、文章的に弛緩を感じる作品だった。
 ただ要素的に過不足なければ、逆に漫画家のテンションでものたらなさを消し去ることができるということもあるのでないか。しかも、この善悪反転混沌倫理が全面展開されたタイプの忍法帖の漫画化は本書が初めてなのである。しかし、この混沌倫理の大枠は最初の2冊でほぼ開陳されてしまい、3,4巻は方向が迷走気味。テンションは高いままなので、期待はしたいが、掲載誌の廃刊で現在中断中である。

 しばらく間を開けているうち、パラノーマル・ロマンスへの意欲が減少。ごめんなさい、リスト再作成にはもう少し時間をください。

 なんか『恋のドレス』ではずみがついて、今月は長尺ライトノベルに気持が流れる。
 鮎川はぎの『横柄巫女と宰相陛下』(ルルル文庫、全12巻)が面白かった。
 王の先祖である聖獣と話ができる浮浪児あがりの巫女と母親に憎まれ殺されかけた王を主人公にした王宮ロマンス。基本は隣国関係、国内の大貴族たちとの確執だがクライマックスは創世の理にかかる神との戦いで、よくできた仕組みを作っている。ただ、本書を類書から際立たせているのは、筆頭巫女になろうとしてヒロインに破れて副巫女になった大貴族のバカ娘。第1作ではただのよくある意地悪娘なのだが、バカっぷりがどんどん堂に入って、天下無敵横紙破りの存在感を発揮する。12冊を3日で読んだ。中の上+。


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