ウィアード・インヴェンション〜戦前期海外SF流入小史〜022

フヂモト・ナオキ


ドイツ編(その七) フリードリヒ・クローナー「ロボットばらばら事件」

 ちょっと前に本作を勝手に<新青年>三大非英語圏ロボットSF短編呼ばわりしてみましたが、目くじら立ててる人いません?

 <新青年>昭和8年8月増刊号掲載の本作は、そのちょっと前の1933年6月にWe Buy a Robotとして英語訳されとる模様。もっともその<The Passing Show>なんて雑誌どこで見られるんだよっ。ってとこやが。
 さて、ドイツ本国では何に掲載されたのか。クローナー Kroner, FriedrichはUllsteinの編集者なんだそーな。だったら初出はウルシュタインの雑誌やないのか。

 で、そいつが何かという話なんだが、日本人にすりゃ同社の雑誌なんて、名取洋之助が記者をやってた<Berliner Illustrierte Zeitung>ぐらいしか思いつかん。いや、ドイツ研究者ならいろいろ思いあたるんやろうーが。ともかく<Berliner Illustrierte Zeitung>の1932〜1933年初頭あたりをチェックしてみるか、などと皮算用。

 だが、甘かった。ウフ。 
 聞いたこともない雑誌だよ。ウフ。

 何がウフだ、キモっ。というところやろけど、初出はどうも<Uhu>という雑誌だということが見えてきたのである。ウフ。
 うふうふ言う必要は、かけらもあらへんやろっ。とゆーか普通、ウーフと表記するんちゃうんかっ。

 さて、四巻本のウルシュタイン100年史本Hundert Jahre Ullstein : 1877-1977を見ると、以下のような記述がある。

Friedrich Kroner war auch ein Literat. Einige seiner zarten und schonen Liebesgedichte erschienen unter dem Pseudonym "Mimsch" im "Uhu". Novellen schrieb er selten. Seine seltsam visionare Geschichte "Wir kaufen uns einen Roboter", die im Septemberheft 1932 erschien und im Jahre 1950 spielt, hat Jules Verne-Charakter.

 ううむ。どうも小洒落た雑誌だったらしく、古書価は洒落にならないお値段でしかもバラ売りのものは古書市場に出回ってないよ。でも年月まで出ている以上、いろいろあきらめて発注するしか。ぬははは。

 で、どどーんと届いた、その1932年9月号。わっはっは、載っていないよ。

 ということでクローナー・ネタは無期限先送り、と思ったんだが、実はあまりに高かったので、誤差みたいなもんだと、よくわからんのに<Uhu>を扱った本だということでUhu, das Monats-Magazin : Berlin, Oktober 1924 bis Oktober 1934(1979)、ってのもついでに発注したのよな。
 もっとも、そいつも、いつまでたっても届かんので、事故かのぉ、と思ってたのところに、ようやっと到着。
 インデックスのようなものが充実していたらいいな、と思って注文したもんだから、原誌面の雰囲気を再現する意図で構成されたアンソロジーっぽい作りの現物にがっかり。当然後ろからめくって、索引は、ねーのかよっ、とか思ってたわけだが、最後の最後で―というか普通にめくると最初の方に出てくるやろっ―「ロボットばらばら事件」が収録されとるのに遭遇。あぅあぅ、あの×円はなんのためだったのぉ〜。
 で、これには初出が1932年11月号と出とるんだが、いや、さすがにこれ以上金をつぎ込んだりはせーへんぞっ。

 20世紀前半のドイツ女性文化の研究書『ベルリンのモダンガール』だと<Uhu>は<みみずく>と表記されとるな。しかし、原綴がどこにもないような。まあ、他の女性雑誌も同じような扱いだが、図版とか文献リストからかろうじてわからないでもないというハードな編集。女性誌以外となると大体、単にカタカナ表記になっているのがかえって親切な気もしてくるが、そんなもんなのか。

 えっ、どんな話かって? もちろんロボットがバラバラになる話です。ひょっとするとアンソロジー作って入れようという人がいるかもしれんので、詳しい話は略ってことで。書き出しはこんな感じ。
 「丁度、「人間的な余りに人間的な」といふ新型のロボツトが売り出された頃だつたね。何しろ、新聞といふ新聞は毎日のやうにこの新型の提灯持ちをしてゐたのだから、相当派手だつたと思ひ給へ。」(向原明訳)


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