京都SFフェスティバル2003レポート

大野万紀


 京都SFフェスティバル2003は、11月8日と9日、芝蘭会館(右の写真は会場内の風景)と、いつものさわや旅館で開催された。
 今年の京都はとても暖かく、歩き回っていると汗をかきそうなくらい。今回ぼくも司会をする企画があり、他の企画もぜひ見たかったので、できるだけ早めに出かけたつもりなのだが、それでも会場に着いたのは最初の企画の開始直前だった。確かに芝蘭会館はいつもの会場より駅から少し遠いのだが、そんなに違いがあるわけじゃないのだがなあ。何でだろ〜。
 会場にはロビーといえるほどのスペースはなく、ごろごろとたむろしている連中もいない。さっさと中に入り席に着く。入りは8割くらいか。演台と客席はとても近く、マイクがなくても平気なくらい。こんな雰囲気も京フェスらしくていいですね。
 客席にはいつも通りの知った顔も多いが、知らない顔もけっこうある。全体に少し若返った感じがしたが、実際のところどうだったのだろうか。

「人間的」SF-シオドア・スタージョンの世界- 若島正 大森望

 最初の企画は「人間的」SF―シオドア・スタージョンの世界―と題して、晶文社から出た『海を失った男』の編者である若島正さんと、今度河出から出るスタージョン短編集に関わっている大森望さんの対談。まずは若島さんと大森さんの学生時代の出会いの話から。コンパでリサ・タトルの話題で盛り上がったことから知り合い、若島さんの家にあった処分本の本棚に並んでいたSFのペーパーバックを、一冊100円でたくさん譲ってもらったとか。
 以下、スタージョンの作品について。
 彼の作品ではSFで見慣れたアイデアが違った手つきで扱われていることが多い。「墓読み」も、普通は言語と見なされないものを言語として読むというアイデアは決して目新しいものではないが、その扱い方に独自なものがある。「海を失った男」は最もSF的な作品でSFファンの心をくすぐるものがある。「さっぱりわかりませんでした」という後書きの学生のエピソードは、読者サービスとして入れた。本当はわからない話ではない。また、アンソロジーの収録作の選び方として、「海を失った男」や「ビアンカの手」のようにどうしても落とせない話もあったが、かなりきつめな色を出すことを基本とした。評価は別にして、スタージョンでなければ書けないような作品、良くも悪くもスタージョンという作品を集めた、とのことだった。

対談・小川一水 × 野尻抱介「宇宙開発を小説にするということ」 小川一水・野尻抱介 司会/大野万紀

 昼食をはさんで2つ目は小川一水さんと野尻抱介さんの対談。司会はぼくが担当した。小川さんの『第六大陸』の話から始まり、話題はあちこちに飛ぶ。『第六大陸』は決して「月へ行く」話ではなく、「月へ行って何かをする」話だとか。あの予算は一般の金持ちが出せる金額から、採算の取れる上限として考えた。したがって、今考えられる200分の1の費用で開発できる必要がある、というようにトップダウンしたのであって、実際に積み上げたのではない。そして組織とプロジェクトについては、小川さん自身は組織に属したことがなく、組織というより家族、運命共同体として描いている。あの存在についても、プロジェクトものの予定調和を壊したくて書いた、などなど。興味深い話が聞けた。
 野尻さんと共通の話題である『異形の惑星』関連の話、お二人の新作の話、それから野尻さんは小説を書くのが苦痛だが小川さんは楽しくてたまらないといった話、など、ここでしか聞けないような面白い話題が色々と出てきたので、主催者側の用意したタイトルとは少し離れてしまったが、良かったんじゃないだろうか。まあ、お二人が色々と積極的に話してくれたし、ノリも良かったので、司会はとても楽だった。野尻さんはこれまでも様々なイベントに参加されていたので様子がわかっていたが、小川さんがこんなに話し好きだったとは。本当に若いっていいですね(司会者と野尻さんと小川さんの間には、それぞれ10年以上の歳の差があるのだ)。

「武器と少女」-冲方丁インタビュー 冲方丁 聞き手/三村美衣

 3つ目は『マルドゥック・スクランブル』で話題の冲方丁さんへのインタビュー。インタビュアーは三村美衣さん。冲方さんの高校が三村美衣さんの家の近所なんだって。その高校時代の話が面白かった。校庭で自作のホバークラフトを走らせるやつがいたり、大学から借りてきたレーザーで校舎に落書きしたやつがいたり。デビュー作『黒い季節』は高校の卒業記念に書いたものだ。高校まではネパールのアメリカンスクールにいて、日本人がたまに置いていく小説をむさぼり読んでいた。「キマイラ」の途中の巻とか、グインもグインの出てこない巻ばかりがあったとか(だから日本に帰ってはじめから読んでびっくりした)。また、ガンダムやどらえもんを学校で英訳してみんなに聞かせたり、そこで身に付いた宗教観(キリスト教は対決しなければいけない敵)の話など、とても興味深い話が聞けた。『マルドゥック・スクランブル』のカジノについては、体験によるものではなく(ネパールで雰囲気だけは知っていたが)、1から調べて書いたのだそうだ。ブラックジャックも実際にやったことはなかったとか。これにはみんなびっくり。マルドゥックはそのうち、過去と未来を舞台にした続編が出るそうです。冲方さんは写真のとおり、今風なかっこいい男性で、奥さんもとてもきれいな人だった。こうしてSFも新しい世代に入っていくのだなあ、とおじさんんは感慨にふけるのです。

合宿企画

サイン会 テッド・チャンの部屋
オタク世代間闘争?? SF雑誌ってどうよ!

 夕食後、さわやへ移動。例年に比べると何となくおざなりだった小浜くんのオープニングで始まり、冲方、野尻、小川各氏のサイン会(とても盛況だった)を横から眺め、恒例となった古沢くんのワイン部屋へ。冬樹蛉さんや古沢くんのお弟子さんたち、三村美衣さんや冲方さんの奥さんもいた。ワインを1本1本SF作家にたとえたり、おいしいチーズを食べたりしてから、テッド・チャンの部屋へ。小林泰三さんが中心になって面白い話をしている。ここでは訳者の一人である古沢くんや、野尻さん、林譲治さんといった作家の人たちも色々と発言して、なかなかに盛り上がった。やっぱりテッド・チャンは今年一番の話題だなあ。その後は堺三保・東浩紀の部屋へ行ってみたり(オタク世代間闘争になるのかと思ったら、和気藹々とお話してました)、その続き(?)で雑誌編集者の部屋を覗いたりしたが、3時半ごろ沈没。しかし、東さんも雑誌編集者のみなさんも元気だねえ。なぜか「ファウスト」誌が話題になっていたが、どうやら「キミ・ボク小説」とか「セカイ系」とかいうキーワードがあるらしい。ぼくにはよくわかりません。勉強しなくっちゃ。ま、あんまり興味はないのだけれど。さて、朝は8時前に起き出して、大広間。堺くんは徹夜してまだ話をしている。「イリヤの夏」の評価などが話されていたようだ。クロージング後、小雨が降る中を御池通りまで歩いてキャラバンサライへ。11時ごろ流れ解散。
 いつも同じことを書いていますが、今年の京フェスもとても楽しく有意義に過ごすことができました。スタッフのみなさん、どうもごくろうさまでした。来年は新しい実行委員長になるようですが、来年もまたどうぞよろしくね。


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