京都SFフェスティバル2002レポート

大野万紀


 京都SFフェスティバル2002は、11月16日と17日、例年通りに京都教育文化センター(右の写真)と、さわや旅館で開催された。
 今年のぼくは一般参加。のんびりと秋の京都を楽しみました(って、例年通り観光は全くしなかったのだけど)。さわやの前の京大病院の風景ががらりと変わっていたのでびっくり。壁がなくなっただけなのかも知れないが。突然21世紀になったような気分(いや、もう21世紀なんですけど)。思ったほど寒くはなかったが、それでももう冬が間近な雰囲気だ。
 11時ごろに会場に到着。でもすぐには始まりそうになかったので、しばらく受付前で顔見知りのあの人やこの人と雑談。隣の部屋で「ヒカルの碁・子供囲碁教室」(正確な名称は忘れた)みたいなのをやっていて、そっちが気になって覗きたがる人が大勢いた。向こうもこちらを気にしていたみたい。インターネットで検索してみると「ヒカルの碁ジュニア入門教室」というのがここで開催されたみたいだが、これは8月だしなあ。11月もあったのかしら。

日本SF新人賞受賞者鼎談 井上剛・谷口裕貴・吉川良太郎 司会/喜多哲士

 最初の企画は「日本SF新人賞受賞者鼎談」。ところが司会の喜多哲士が遅刻(しかし、彼はこれからずっとこのことを話題にされちゃうんだろうな。同情します)、とりあえず三人の自己紹介が始まったところで到着した。後で聞いたら、散髪してから来ようと思ったら、散髪屋の兄ちゃんが初心者みたいで、すごく時間がかかったんだそうな。
 鼎談の内容は充実したものだった。谷口さん、吉川さん、井上さんとも話がうまく、ノリもいい。特に谷口、吉川は犬・猫コンビという感じ。うまくキャラクターに合わせてくれるなあ。井上さんも兼業作家の大変さを語って説得力あった。応募したきっかけについて。『ペロー・ザ・キャット全仕事』の吉川さんは、大学SF研で仲間内で書いたものを見せ合っていたところ、友人から賞の存在を教えられて応募したとのこと。『ドッグファイト』の谷口さんは小さい頃からSF好きで、SF新人賞と聞いてこれしかないと思ったとのこと。そのときは無職だったので、まるで日本のJ・K・ローリングみたいでしょう、と。後は売れるだけだって。『マーブル騒動記』の井上さんは小説すばるなどの一般の賞に応募していた。SFといえば何を書いてもいいのだろうと思い応募したとのこと。それから第二作について、同じ賞の出身作家ということで互いに意識することはあるかなどの質問と応答があった。吉川さんと谷口さんがなかなか対照的なコンビで面白く、井上さんの関西人っぽいフォローもなかなか楽しかった。谷口さんが、吉川さんの犬の扱いがひどくて、納得いかないといえば、吉川さんは犬の扱いはシンボル的なものと軽くかわし、猫を自らのイデアとしている人物を描くに当たって、泣かせと癒しと肉球は書いてはならないと考えたと答える。また猫耳としっぽは却下とのことだった。

アブノーマルSFの世界 河村親弘 大森望

 昼食をはさんで2つ目は「アブノーマルSF」と題し、『オルガスマシン』や『シャドウ・オーキッド』を出したコアマガジンの編集の河村親弘さんと大森望の対談。これが傑作だった。ワトスンの『オルガスマシン』を出すにあたって大森望にコンタクトしたのだが、互いに相手をよく知らず、うさんくさいやつだと思っていたとのこと。河村さん的には特殊翻訳家の方がランクが上で、大森望がアスキーから出したラシュコフの『サイベリア』を見て、これはりっぱな人だと納得したそうな。アンダーグラウンドやサブカル、ハッカー系で濃くなるほど「えらい人」のランクが高いのだとか。ワトスンにも直接メールでコンタクトし、原稿が残っていなかったのをわざわざカーボンコピーから打ち直してもらったそうだ。映画『A.I.』の公開にあわせて、翻訳もたった1ヶ月で仕上げてもらったとか、なかなか型破りで面白い。荒木元太郎のドール写真もすごいが、横尾忠則のヌード写真掲載に至るエピソードも面白かった。とにかく河村さんのキャラクターが良くて、大森望と堂々と対抗している。ボケもうまく、すごくいい感じ。途中から彼が編集している「i-doloid」という雑誌の話になって、めちゃくちゃ盛り上がる。これがまた面白い。エッチ系のCG美少女・フィギュアの雑誌かと思ったら、なんとダッチワイフの専門誌なんだそうな。愛読者による、ドール(リアルな等身大のダッチワイフ)を連れての廃線探訪の旅とか、めちゃくちゃ濃い世界だけど、何だかSF的。柾悟郎の『シャドウ・オーキッド』についてはもはや時間切れ。もともと柾さんのファンだったが、女装研究家の三橋さんの推薦で出版することにしたとか。「すごいいわくつきの本なら、読まなくても出版します」との発言に会場は大喜び。この対談、今回の大ヒット企画だったといえるだろう。

明智抄インタビュー 明智抄・松本眞 聞き手/風野満美

 3つ目は「明智抄インタビュー」。ぼくは読んだことがなかったのだが、話を聞くととても面白そうだった。熱烈なファンがたくさんいるようだ。ある程度SFを読んでいないとわからない話が多く、SFファンにこそ読んでほしいとのことだった。ファンレターを出したのがきっかけで結婚したという、旦那さんの松本さん(本職は大学の数学の先生だそうだ)が、随所で何ともいえない、いい感じの突っ込みを入れる。夫になったら誰よりも早く新作が読めると思ったら、アシスタントさせられるばかりで読ませてもらえないとか、多くの人に読んでもらえるように仕事をやめてホームページの充実をはかり、ウェブで作品公開するのがいいか、大学の仕事に専念して明智さんがお金のことを気にせずに原稿をかけるようにするのがいいのか、悩んでいるとか。本題のストーリーやアイデアに関する深い話にはついていけなかったので、パス。でもファンの人たちにはこたえられない、聞き応えのあるインタビューだったようだ。

非英語圏SFの現在 大野典宏・中嶋康年・林久之・井上知 司会/高野史緒

 最後の企画は「非英語圏SFの現在」。作家の高野史緒さんが司会で、中国SFの林久之さん、ロシアSFの大野典宏さん、スペイン語SFの中嶋康年さんと井上知さんがそれぞれの国のSFの現状を語る。大野さんがちょっとテンション高い。中国ではジャンル名にあてる漢字が決まらないとそのジャンルが立ち上がらないとか(例えばハリー・ポッターや指輪物語にあたるファンタジーのジャンルに適当な言葉がなく、魔幻とか、奇幻とかいう言葉をあてようとしているそうだ)、ロシアでは検閲を避けるためにネットの利用がずいぶん前から進んでいて、著作権フリーでとにかくWEBに作品をアップしておき、もし何かあっても作品が残るようにしているとか。スペイン語圏ではSFは商業的には成功しておらず、ファンジンが活動の中心で、ここでもネットが重要な役割を果たしているそうだ。スペインと南米がネットでつながって活動しているという。中国では一大エンターテインメントとしての武侠小説とSFが微妙な関係にあるそうだ。最後にそれぞれの国の最新SF紹介があったが、いずれも暗くて体制批判っぽくって、どことなく似た感じがする。アメリカSFとはだいぶ違い、地味だけど面白そうだった。

合宿企画

大広間 古沢嘉通のワイン部屋
英語圏SF Jコレクション

 本会の後は、水鏡子や岡本俊弥らと夕食に行き、それからさわやへ。大広間では例によって小浜くんの司会で参加者紹介。その後は恒例だったクイズなどの企画はなく、そのまま合宿企画へ。もの足りない気もしたが、これだけ人が多くなって混雑していると、やむを得ないかも。
 古沢くんのワイン部屋とか、合宿企画の方は英語SFの部屋、Jコレクションの部屋とか、いくつか渡り歩いたが、ワインの飲み過ぎで眠くなり、寝部屋にもぐり込んでバタンキュー。今年はあんまりひとつところでじっくり話を聞くということをしなかったので、ちょっと印象が薄い。やっぱりワイン部屋でおいしいワインを飲み過ぎたのが敗因か。ちゃんとレポートできなくてごめんなさい。
 朝は三村美衣、大森望、水鏡子、岡本俊弥、ハヤカワの塩澤さんに徳間の大野さんなどとぞろぞろ歩いて、三条河原町のキャラバンサライでモーニング。昼前までだべっていた。
 今年の京フェスもとても楽しく有意義に過ごすことができました。スタッフのみなさん、どうもごくろうさまでした。来年もまたよろしくね。

紅葉の鴨川


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