続・サンタロガ・バリア  (第3回)
津田文夫

 ついに私もウイルスをもらってしまい、わがいにしえのデスクトップFMVSII−165のハードディスクがパーになってしまった。一応リカバリーディスクを突っ込んでみたけれど、改善するどころか最後にはSCANREGさえ受け付けなくなってしまったので、近所のパソコン屋に持ってってみたら、お客さんそらクラッシュですわ、さっさと捨ててください、といわれてしまった。まあ6年ぐらいの間に1回も感染しなかったんだからいままでがラッキーだったというべきか。困るのは、感染源であるイギリスの相手(元英連邦軍兵士)とは10月の来日を前に、メールのやりとりをしなくてはならないのに、ちょっとアウトルックを開く気になれないこと。今回のウイルスはジップド・ファイルという形で添付ファイルになっていた−本文はブランクだった−ので、相手が添付ファイルに何の言及もしていなかったのだから、さっさと削除すりゃよかったんだろうな。というわけでこの文章は去年買った居間のFMVC5/80LRで書いている。

 年代別SF別傑作選『20世紀SF』も相変わらず読むのが楽しいせいか、長年積ン読状態だったF&SFのカバーストーリーを時々読むようになった。『80年代編』にも採りあげられたジェフ・ライマンの中国風なやつとか、カバーにパンクねーチャン風ゴルゴンが描かれた(実は人形使いに取り憑かれたパンクねーチャンなんだけど)ポール・ディ・フィリポとか読んだりしてたんだが、とりたてていうほどのことがない。ところが9月号のスペシャル・ケイト・ウィルヘルム・イシューを読んで、いまさらながらウィルヘルムのうまさに唸らされてしまった。

 60ページのノヴェラで前半が、50男と30女のドライブ話−ロード・ノベル?−で後半がややミステリっぽい展開。女の祖父が有名な物理学者だったが、娼婦の家で心臓麻痺をおこして死んだことになっている。つい最近亡くなった祖母は死ぬまで祖父の行動が信じられなかった。というわけで当然の結末が付いて、男と女の新しい道行きが始まるところで終わりという、まったくSFでも一般的なファンタジイでもない話(もちろんオトナのためのおとぎ話ではある、それに祖母の時間についての考え方はフレッド・ホイルの『10月1日・・・』並なのだ)。 男の視点は一人称、女の視点は三人称というような工夫もあるけれど、とにかく前半30ページの雰囲気がいい。それにウィルヘルムの文章がすばらしい。原文で読むのはWHERE LATE THE SWEET BIRDS SANG 以来(20年以上前だ)、そのときも明晰な言葉づかいでダイレクトに小説世界が浮かび上がってくることに感心したのだけれど、ウィルヘルムのは錆びついた英語力で読んでもやはり強力な文章であることがわかるのだ。こんなことはSFではほかにバラードとヴォネガットぐらいでしか経験したことがない。前回のシェパードも面白かったけれど、もやはりスペシャル・イシューとなれば、作家の方も力が入るというものなんだろうな。

 年代別傑作選については完結してから感想を書こうと思っているのだが、いまのところ「美女ありき」「やっぱりきみは最高だ」「接続された女」「冬のマーケット」と素材女ものの傑作をならべられてみると、なんかヤバい感じがしてくる。これはやっぱり編者に仕掛けられていると考えるべきだろうな。

 出張の読み飛ばしにと『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』を読んだら意外にハマッてしまった。ヤングアダルト文体が蔓延して久しい。この20歳という作者がヤングアダルトものに直接関わっているかどうかは知らないが、サイコホラー/SFミステリがユーモラスに書けるという点で、これは(奥行きとか深みとかと無縁な)面白い文体だとおもう。


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