続・サンタロガ・バリア  (第2回)
津田文夫

 何がなんだか分からないうちに急に老眼が進んでしまったので、『ルー=ガルー』は字が大きくてとても読みやすかった。12ポイントの字もちょっとデカいけど読みやすさには勝てません。
 『ルー=ガルー』に出てくる児童は、しゃべり出すまでが新鮮だったのだけれど、口数が増えていくに連れ、京極堂の世界になってしまう。 葉月は半分関口で儲け役だね。半分ぐらいで話が分かったあとは、武侠のほうに興味が移っていくから、敵役の情けなさも許されよう。児童をはじめ登場人物の口から発せられるつい昨日の20世紀がSFを感じさせる。それにしてもムチャクチャしよるで。

 『ミステリ・オペラ』は本気の山田正紀の力瘤が見える作品。ということは例によって読みにくいということ。ミステリの謎ときにはまったく興味のわかない人間なので、謎解きの評価は出来ないが、モーツァルトの「魔笛」が絡む満州の話はとても面白い。「魔笛」はレコードで聴き、テレビでも舞台でも見たけれど、夜の女王とパミーナについてここでいわれているほど、そのことを気にしながら見たことはなかったから、それも面白かった理由の一つかな。昔からシカネーダーのは変な脚本とはいわれてたらしいけど。クラシック・ギターの名曲のひとつに「モーツァルトの主題による変奏曲」というのがあるけれど、これは「魔笛」の鳥刺しパパゲーノのテーマを主題にしているんだ。オペラよりさきにこの曲を知っていたから、オルゴールで流すのにちょうどいいようなリズムが耳に残って、はじめて「魔笛」を聴いたときはひっくり返ったものだ。『ミステリ・オペラ』に話を戻すと、貨車が一台丸ごと目の前から(ここがミソか)消えたというのが一番面白いんだけど、ミステリ的に解かれるとナンにも面白くない。基本的には魅力的なイメージが一杯あって退屈することはないけれど、『女囮捜査官』シリーズみたいにホイホイとは読めないのは残念。まあ書いた本人もスラスラと読まれてなるものかという仕掛けをしているように見えるし、これから読もうという人はそれなりの集中力を蓄えた方がいいでしょう。

 犬と猫の新人賞作品はどちらも面白くまた物足りないといったところ。『ドッグファイト』ではロレンゾくんが一番お気に入り、ってオヤジだよな。『ペロー・ザ・キャット全仕事』は負け猫でも猫に託した自由は守られるというのが目新しい。ヒーローでもアンチ・ヒーローでもないのかな。アンチ・ヒーローのような気もするがどうなんでしょう。そんな分け方も今やもう無用か。

 このところ、翻訳短編集やアンソロジイを読むととてもうれしい気分になる。次回はそんな話かな。って、前回予告はどうなるんだ?


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