内 輪   第119回

大野万紀


 夏ですね、暑いですね、食中毒には気をつけましょう。雪印は……もうかえって安全かも。でも売ってない。どうもマスコミに煽られすぎのような気がするなあ。伊豆諸島の噴火と地震はよくあることなのかも知れないけれど、『日本沈没』を思わせて不気味。しかし毎日のように震度4とか5とかの揺れがくるなんて、想像するだけでぞっとします。
 それはともかく、このTHATTAがみなさんの眼に触れるころには、キース・ロバーツ『パヴァーヌ』が本屋に並んでいるはずです。扶桑社刊。定価1500円です。解説書いてます。とてもいい本なので、どうぞ買ってやって下さい(宣伝でした)。

  それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『フューチャーマチック』 ウィリアム・ギブスン (角川書店)
 『ヴァーチャル・ライト』はストレートに面白かった。『あいどる』は別の意味で面白かった。本書もスラム化したベイ・ブリッジが再び登場し、ライデルと謎の殺し屋の話として読むととても面白く読める。未来を舞台にしたハードボイルドな小説として。サイバーパンク? もういいじゃないですか。レイニーと物語の背後にある大きな謎というやつは、ちっとも面白くない。ちょっとゲージツ趣味なのも鼻につくし。ウォーホルですか。ギブスンが90年代おたく文化というのを全く理解できていないのにもがっくり。いや別に理解しなくてもいいのだが、外しているのはかっこ悪いということだ。まあそうはいっても、ライデルと殺し屋がかっこいいのでOK。シュヴェットが何だか大人しくて目立たないのがNG。

『斜線都市』 グレッグ・ベア (ハヤカワ文庫)
 ベアのナノテクシリーズ(というのか)は、どれもはっきりいって面白くない。いや、まるっきり面白くないわけではないのだけれど、長すぎるし、ポイントが定まらずに冗長。とはいうものの、そういうものだと思って読んだら、本書は意外に面白く読めたというところか。あいかわらず視点がころころ変わり、テーマもぼやけてしまっているのだが、おなじみとなった人工知能のジルと、謎の知性体ロディ(といっても、昆虫の集団やバクテリアのコロニーをベースとしたバイオな知性だというのは、解説でネタバレしているよ)の対決は面白かった(でも、ジルが情けなさすぎ)。その他のテーマは、そりゃあ登場人物たちにとっては重要なことかも知れないが、はあ、そうですかとしかいいようがない。一応、マリアのテーマは、ミステリ仕立てなので読む気になるのだけれど。オムパロスを巡る陰謀については、もうため息しか出ない。まあ「わたしは家庭人だ」といって、それをモラルのより所としてがんばるお父さんはけっこう好きかも知れない。ベアには細かいことにうじうじとこだわらず、もっと破天荒なSFを書いて欲しいなあ。

『スター・ウォーズ/ローグ・プラネット』 グレッグ・ベア (ソニー・マガジンズ)
 続けてベアのスター・ウォーズ。知る人は知る、ぼくはスター・ウォーズが大好きで(といってもマニアックというわけではないよ。ただ今までの映画はどれも好きだというだけ)、スター・ウォーズはりっぱなSFだと思っている人間だ。だからベアのスター・ウォーズにはすごく期待していたのだ。なんせ「鏖戦」のベアだ。「須臾のうちに空滅せよ」だもんね。かっこいいスペースオペラを期待するじゃないですか。うーん、残念ながら、その期待は十分にはかなえられなかった。いや決して悪くはないのだよ。でもこれだけ長々と引っ張って置いて、このあっけない結末はないでしょう。セコート船とアナキンが大活躍しなくっちゃ。今のベアの悪い癖が出てしまった。長いのだ。ターキン(モス・ターキン!)とサイナーの悪役同士のちまちました戦いなんかどうでもいいから、この全体を最初の三分の一くらいにまとめて、その後宇宙をまたにかけたアナキンとセコート船の大活躍が描かれなくちゃ。ううん、欲求不満。

『星虫』 岩本隆雄 (ソノラマ文庫)
 10年前のオリジナル版『星虫』は読んでいない。今度のソノラマ文庫版はいくつか加筆・修正されているということだが、おそらくインターネット関係のあたりだろう。この辺が、「第五世代コンピュータ」やら「プロログ」やらとミスマッチで、ある意味苦笑せざるを得ないところなのだろう。でも、10年前の話なんだし、仕方がないんじゃないだろうか。あまり今風に直す必要もなかったように思う。そもそもぼくの印象としては、ヤングアダルトというよりは、とても由緒正しいまっとうなジュヴナイルSFというものだ。10年前どころか、ぼくが子供の頃にでもあったような、学校図書館で読めたような、あるいはNHKの連続ドラマであったような、あるいは手塚治虫マンガの直系の子孫のような、そんな小説である。子供の頃読めば感動しただろうし、今、これを読んで素直に感動する子供たちがいるなら、彼らはりっぱなSFファンになれるだろうと思う。ただし、大人の目で読むと、本書はあまりにもナイーブすぎる。地球環境問題の扱いがまず突っ込みどころだらけだし、ヒロインをはじめとする高校生たちの描写は、今時のヤングアダルトに比べてもリアリティなさすぎる。でも、この甘さ、宇宙へのあこがれ、そのほとんど無条件に肯定的な感覚は、素直にうなずけるものだし、やっぱり感動的だ。


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