気分はリングサイド――わたしのプロレス観戦日記(2)

青井 美香


10月24日(土)
 いつもだと、後楽園ホールでのプロレス観戦は、相方と一緒なのだが、きょうはめずらしくも相方は欠席。大学の後輩の結婚式出席のため、横浜に行ってしまいました。で、わたしは友だちのTくんを誘って観戦。
 第一試合から好勝負。デビューが5ヶ月しかちがわない、橋対丸藤。どちらも負けられない、意地の張り合い。結局15分引き分け。終わったときは、どちらもふらふらというところが、若いです。
 第二試合は、キマラ対森嶋。キマラは最近、森嶋とのシングルが多いなぁ。体重の多さをどう扱うかをレクチャーしているのかしらん。とはいえ、コンビを組んでいた泉田が、本田とのタッグでアジア・タッグをとってしまったいま、キマラも次なるステップ探しをしなくてはなりません。試合はキマラに押しつぶされて、森嶋が平たくなってました。
 第三試合は、小川対浅子。ひさしぶりに見る小川は、髪の毛をちょっと切ったみたいで、なんだか三沢に雰囲気が似てきた。ま、もともとテクニックで見せるタイプだから、似たタイプではあったのだけど。やっぱ、コンビを組むと似てくるのは、夫婦が似てくるのとおなじ?  最後はきっちり浅子をしとめる小川でした。
 第四試合は、悪役商会のいつもの試合。
 さて、休憩のあと、Tくんに紙テープを渡します。前にIさんから貰っていたものです。「誰になげればいいのかな?」
「大森くんに一本なげてくれれば、ほかは誰でもいいよ」
 で、Tくんの成績ですが、これがなかなか(^_^;)
 けっこう見事に失敗してくれて(なんと一本はまともに垣原の後頭部をとらえた!)、わたしの気分を楽にしてくれたのでした。
 第五試合は、井上雅央/田上明対モスマン/ハンセン。ハンセンの体調がちょっと悪いような印象。風邪でもひいたのかしらん。モスマンをすっごくたててるし。最後も、リングの上はおまえにまかせたっていう感じで、自分はリングサイドで田上を押さえる役に徹してました。モスマンが井上を仕留めると、よくやったという仕種を見せるものの、さっさと帰っちゃうしで、なんか、「ハンセンも年とったのね」という感慨をこちらに抱かせたのでありました。
 第六試合は、泉田/本田/川田対金丸/志賀/秋山という、どう見ても、重量級3人に対する軽量級2人をしたがえた秋山、苦戦必死の状況。ところが、試合前のそんな印象を覆すかのような、24分にわたる攻防は、しっかり見ごたえあり。秋山の指令が冴えわたり、志賀と金丸を手足のようにつかいまくりました。この試合のキイワードは「繰り返し」。とにかく、ひとつの技を繰り返し使うことで、その技がシンプルなものであっても、相手にどんどんダメージをつませていく。圧巻は、川田が志賀に行なった、起き上がりこぼしチョップ二十数連発。しかし、この攻撃に耐え、後半ちゃんと回復して試合をつくっていた志賀も、その底力を見せたといえましょう。
 セミはスミス/ホークフィールド/エース対垣原/高山/オブライト。このなかでいちばん小さい垣原が痛めつけられる展開なれど、最後はオブライトがエースの新型クラッシャーに沈む。
 そして、メインはいよいよ登場の、大森くん/三沢対新崎/小橋の異色タッグ対決。いやぁ、もちろん、わたしの応援も燃えます。はい、ここで燃えなくて、いつ燃えるというのだの心意気。きょうの大森くんは、なかなかがんばってくれました。見せ場もいくつかあったし……。でもでも、後半、小橋の豪腕ラリアットをくらってから、動きが一気に悪くなり、三沢の危機にもカットに入れない。最後、三沢はラリアットはかえしたものの、小橋にアルゼンチンバックブリーカーで肩に担ぎ上げられ、そのまま斜めになげ落とされ、首を強打。試合が終わってからもなかなか起き上がれず、31日の武道館決戦に暗雲がたれこめた感じ。それにしても、新崎人生はよく動きます。小橋もこんな相手と組んでいると、楽に試合を進められそう。
 ってなわけで、きょうも大満足で家路についたわたしでした。

10月31日(土)
 きょうは待ちに待った武道館決戦。いつものように九段下から、武道館への長い坂を上ります。ダフ屋のお兄さんたちにまじって、レスラーの講演会のチラシ配りの人多数。文化祭の季節ですものね。
 ところで、きょうはハロウィーン。あんまりプロレスとは関係ないみたいだけど、アメリカのメジャー団体WCWでは、ハロウィーン・ヘイボックという興行がある。万聖節に甦ってくるのは、はてさて誰かしらん。
 さて、きょうの大森くんの試合は、休憩前の第四試合。そこまでは、新人対中堅レスラーの試合が二つに、いつもの悪役商会の試合が一つ。恒例のカラーボール投げで、見事、淵選手からボールをゲットしたわたしは、きょうはラッキーと叫ぶのでした。
 大森くんは、明日は戦う相手の本田・泉田の現アジアタッグ王者組と組んで、ジョニーズ(ジョニー・エースとジョニー・スミス)&モスマンと対します。
 でも、この試合、いっかなファンのわたしでも、大森くんの良かったところが思い出せない。悪くはなかったんですよ。最後は、ピンをとったのは大森くんだったし。でも、格段と良かったというやつじゃなかった。どっちかっていうと、本田・泉田の動きが良くなったなぁという感想。やっぱりアジア・タッグをとったのが良い方向にはたらいたのでしょうか。もともと大相撲出身の泉田には、番付なりのファイトというのが頭に刷り込まれているのかもしれない。
 で、第五試合がはじまる前に、ジャイアント馬場入場。あれ、なにか始まるのかと思ったら、年末の風物詩、世界最強タッグリーグ戦の参加選手発表。だいたい、下馬評どおりだったけど、オブライト/キマラ組というのは……暖房のない体育館でヘッドハンターズと試合してほしい。で、一番驚いたのは、大森くんが高山と組んだこと。一昔前だと、仲間割れ必至コンビですね、これは。でも、いまは九〇年代も末のご時世。そんなことはないでしょう。いつもいっしょにプロレスを観ている友だちのAさんは、さっそくこの二人のチームに名前をつけてくれました。それは「ザッパーズ」。なにせ二人とも、未完の大器といえば聞こえはいいが、大雑把な試合展開が持ち味だからなぁ。
 で、はじまった第五試合は、ジャイアント馬場/新崎人生/丸藤正道対邪道/外道/金丸義信。この試合、プロレスの祝祭気分にあふれたものでした。なんといっても、それぞれのキャラが立ちまくり。まずは入場シーンから笑わせてくれます。金髪に染めたら、外道のコピーみたいになってしまった金丸が、邪道、外道をしたがえて、リングで仁王立ち。おなじみのブリブラ・ダンスは踊らなかったものの、しっかりコマネチはやってくれました。そして、邪道、外道、馬場さんの掌のうえで遊んでくれます。それは、馬場さんのことをお釈迦さまにたとえる人生もおなじ。そして、グリーンボーイの丸藤くんは丸藤くんで、最初こそガチガチに緊張していたけど、しょっぱなのドロップキックで全開モード。なんというか、プロレスを楽しく観て、どこがいけないんだい、という幸せな気分にさせてくれる試合なのでした。
 休憩となったので、ボールを持って場外へ。通路で、知り合いの(日本人)金髪ハードボイルド作家Hさんと会ったのには驚きました。ま、来てるかなとは思っていたけど。ボールを特製ファイルと交換してもらって戻る途中に、煙草を吸っているHさんとちょっとおしゃべり。Hさんはいっしょに某社の編集者の方といらしていたのでした。
 第六試合、第七試合は、まあまあといったところか。で、セミは川田/田上対垣原/高山。垣原の掌底が気持ちいいほど決まって、田上や川田が悶絶するシーンもあったけど、終わってみれば、高山が田上の喉輪落しをくらって、大の字。垣原が高山を介抱するまでもなく、四方にお辞儀するとさっさと帰ってしまったのは、もう高山と組むこともないという意思表示だったのでしょうか。それにしても、この試合、なんとなく川田のテンションの低さが気にかかりました。考えてみれば、5月1日の東京ドーム大会で三沢を破ったのが頂点だったみたいで、そのあと、小橋に負けてから、なんかね。
 で、メインです。
 オレンジ色(チャンピオン小橋のイメージカラー)と緑(挑戦者三沢のイメージカラー)のジャック・オー・ランタンのどっちが勝利をおさめるのか。
 一進一退、カウント2・9の攻防。観客が上りるめるだけ上りつめるエクスタシーの渦。と、書いても、目の前で三沢が行なった、エプロンサイドから小橋をダイレクトにタイガードライバーで床に投げ落とした、あの技の凄さはつたえられません。とにかく、それまで攻勢に出ていた小橋の動きが一気に止まった恐るべき技でした。
 そして最後は、よれよれの小橋から三沢がピンフォール。いったい、チャンピオン三沢に挑戦できる人材は、いるんだろうか……と思わせたハロウィーンの夜でした。

11月1日(日)
 はぁるばる来たぜ、幕張……と歌いたくなるほどうちからは遠い幕張メッセ。とはいえ、行きはあの首都高が空いていたため、そんなに時間はかからず、メッセの巨大な駐車場に駐車したのは、1時ぎ。メッセのなかの幕張茶屋で、わたしは海老天ぷらうどん、相方はクラブサンドイッチ。1時半過ぎになったところで、イベントホールに入ります。
 みちのくプロレス主催の興行は、今回がはじめて。なんとなくいつもと勝手がちがうような気がする。ファン層もとても若い感じ。(って、プロレス会場に集うファンって、たいがい、若いんですけど)
 2時過ぎに第一試合開始。最初は覆面レスラーによる時間差バトルロイヤル。なにせ、みちプロのレスラーにはなじみがないので、覆面なんかかぶられてしまうと、よっぽど体形に特徴のある選手じゃないかぎり、誰が誰やらちっともわからない。SMレボリューションって、TMレボリューションのパロだったのね。本家より、衣装の隙間からむっちりした身体の線が出ているのがセクシー(かなぁ)。覆面かぶってても、さすがに身長2メートルのグレート・ゼブラは中身がわかりましたが。T野くん、太ったねぇ。
 つづいてはシングル・マッチ二連発。特に思い入れのないわたしは、ごくおとなしく観戦。
 第四試合のヨネ原人対初代タイガーマスクでは、ちょっと身を乗り出す。なんといっても、あの一世を風靡した初代タイガーマスクですからね。でも、試合のほうは、タイガーマスクの横綱相撲。ヨネ原人の肩のテーピング、痛々しい。相方いわく「やっぱり、こう言っちゃなんだけど、レスラーとしての格がちがうね」。
 そのあと休憩をはさんで第五試合。全日本にも参戦したことのある星川と、新日本のケンドー・カ・シン。星川も片方の肩にテーピング。かなりひどいみたい。これもカ・シンの余裕が見える試合でした。
 そして、そして、わたしの心のメイン。新崎人生と組んで大森くんが出てきます。対するは泉田/本田。登場シーンからひとり盛り上がるわたし。でも、なんとなく気後れして、せっかく持ってきた紙テープは投げずじまい。この試合には紙テープが一本も飛ばなかったので、投げればよかったかな。
 試合は、いつもの全日本の試合。隣のみちのくプロレス応援カップルの彼女が、本田を見て、「でかい」と騒ぎ、大森くんがドロップキックするのにどよめいているのを見て、そうか、全日本にいるときには気がつかなかったけど、実は大森くんも多聞もデカかったのねと納得。なんとなく新鮮な視点で見られました。最後は大森くんが見事、泉田の後頭部にダイビング・ニーを決め、ピンフォール。そうそう、泉田/本田のセコンドには志賀、大森くんのほうのセコンドには森嶋がついて、さすが、全日本、選手だけを貸し出すんじゃなくて、セコンド込みだった。
 メインは、十人タッグマッチ。サスケ組対デルフィンなどの正規組(っていうのかな)。次々と連打される技、派手な場外戦、色鮮やかなコスチューム。サスケなんか、江角マキコを気取ったか、いきなり金属製の脚立を担いで登場ですからね。それと、ちゃぶ台も持ってきてたっけ。とにかく、ひっくりかえったおもちゃ箱のような、そんな楽しさに満ち溢れた試合。サスケがメキシコから連れてきたウルティモ・ドラゴンの闘龍門のお弟子さん、みんなよく動くけど、なかでも注目はシーマ・ノブナガ。ひとつひとつの技のきれがよくて、目立ちました。ま、試合はデルフィンがほかから孤立したニセサスケをフォールしておしまい。そのあとに、さらに双方のマイク合戦。
 で、そのマイク合戦のとき、ふと、場内を見回していたわたしは、気がついたのです。隅のほうで、私服に着替えた大森くんが金丸といっしょに、楽しそうにそれを眺めているのを。眼鏡をかけ、白いシャツに、ウエストポーチ。ううむ、ああして立っていると、ぜんぜん、レスラーという感じじゃなくて、たんにガタイのいい兄ちゃんに見えてしまうのは、大森くんの普通っぽいところ。しかし……彼に、ファッションセンスなし。白いシャツの襟は、小林旭はいってるし、ウエストポーチのうえからシャツを羽織ってるから、おなかのあたりがぽこっと膨らんで、すごいぶかっこう。一緒に立っていた金丸が、赤と白の細かいギンガムチェックのシャツに、膝でカットオフしたジーンズという、わりとよくいそうな若者の風体(頭は金髪の短髪)だから、よけいに大森くんのセンスのないのが目立ってしまって……百年の恋もさめるかもしれない。でも、そんな服装を補ってあまりあったのは、彼の嬉しそうな笑顔。試合中にはめったに見せることのない、本当ににこにこしてて……その笑顔を見られただけでも、わたし、幕張まで 来た甲斐がありました。
 相方に、大森くんの服装のことを言うと、「レスラーはリングのなかでかっこよければいいんだ」とのたまう。「でも、彼の入場時の上着は?」「そっか……あれはあんまりだよな。やっぱり、大森にはスタイリストが必要だ」
 しばらくすると、大森くんと金丸は控え室に引っ込んでしまいましたが、まさか、観客からそんなふうに見られていたとは気がつかなかったことでしょう。
 帰りは、東関道がちょっと混んでいたけれど、まあまあの時間で帰宅。楽しい休日でした。


THATTA 130号へ戻る

トップページへ戻る