大野万紀「シミルボン」掲載記事 「このテーマの作品を読もう!」

第13回 暑い夏の夜はSFおとぎ話を読もう!


 その昔、SFは子どもの読み物で、荒唐無稽なおとぎ話だといわれた時代がありました(今でも多少はあるかも)。でも、おとぎ話、結構じゃないですか。現実から遠く遠く離れたはるかな未来や過去、遠い銀河や未知の世界、巨大な怪物や妖精のような異星人、そんな自由気ままな想像力こそ、SFの原点だといえるでしょう。

 例えば、「遠い昔、はるか彼方の銀河系で・・・」で始まるのはまさに宇宙のおとぎ話「スター・ウォーズ」ですね。
 今回紹介するのは、そんな現代のSFおとぎ話集の二冊です。

 まずは『百万光年のちょっと先』。作者は 古くからライトノベルで活躍されている古橋秀之さん。この本は、かつての〈SFジャパン〉誌に数編ずつ掲載されていたショートショート47編とプロローグ、それに書き下ろし1編とエピローグを加えたショートショート集です。プロローグとエピローグを除く全編が、いつとも知れぬ遠い未来、古くなった家政婦ロボットが「百万光年のちょっと先、今よりほんの三秒むかし」と、子 どもにおとぎ話を語り聞かせる形式で統一されている物語です。
 そのお話というのが、死に神に出会った古い宇宙船の話、兵士たちが生まれる前から徴兵されてしまう戦乱の惑星の話、宇宙の全てを知っているという究極百科事典に挑む勇敢でハンディなポータブル百科事典の話、重機や戦車や艦隊やいろんなものに化けてしまうものまねお化けの話、ある惑星の害虫駆除業者のぼんくらな甥の話、などなど、どれもおとぎ話の文法で描かれたSFで、それも傑作ぞろい。中にはハードSFといってもいいくらい科学的イメージが豊富な話もあって、それがまた、ちゃんとおとぎ話の文法の中に収まっているのです。これだけの数の作品で、本当に外れがないのにはびっくりしてしまいます。
 お話には星新一やオー・ヘンリーのような雰囲気のものもあるけれど、根本にあるアイデアはより現代SF的で、どちらかといえば海外SFの、スタニスワフ・レムの〈泰平ヨン〉や、イタロ・カルビーノの〈コスミ・コミケ〉の読後感に近いといえます。しかしその目線は人間離れした超然としたものではありません。ロボットや超人やコンピューターや、異星生命や惑星や重力の穴が主人公なのに、とても人間的で親しみやすさがあるのです。
とにかくどれからでもいいので、読んでみて下さい。きっと気に入った一編があるでしょう。おとぎ話として描かれているため、例え残酷な内容の話でさえも一応のハッピーエンドがあって、楽しく読めるはずです。どれも面白かったのですが、ぼくが特に気に入った何編かを紹介しましょう。
 「韋駄天男と空歩きの靴」はひたすらせわしない、とてつもなく足の速い男のお話。彼がある時手に入れたブーツは恒星間もひとっ飛びできるすぐれもの。嬉しくて走り回った男はいつしか帰り道を見失い、何とか故郷へ歩いて帰ろうとするのですが……。
 サイエンス・ファンタジーというおもむきがありますが、これがちゃんと相対性理論を踏まえたハードSFおとぎ話になっているんですね。
 また「夢見るものを、夢見るもの」はある惑星の植物人たちが深い思考で夢見た宇宙のお話。植物人が夢見 たのは恒星の中に住み、時おりプロミネンスの飛沫をあげて跳ね上がる少年の夢。その少年が夢見た小さな惑星、その惑星が夢見た超集積回路、その超集積回路が夢見た一人の少女……。
 こんな再帰的でフラクタルな物語がとても詩的に、SF的なイメージ豊かに語られるお話です。
 「絵と歌と、動かぬ巨人」も傑作。これは星間戦争の超兵器として作られた巨人が、激しい戦いの末にある惑星に不時着し、そのまま丘の上で動かなくなって一万年の時を過ごすというお話。風の音や雨のしずくや小鳥のさえずりを聞きながら、いずれ来るかも知れない敵か味方をずっと待っていた巨人のもとに、ある時幼い男の子と女の子が訪れます。男の子は絵を描き、女の子は歌を歌う。そしてまた一万年の時が過ぎて……。
 おとぎ話、メルヘンには違いないのですが、ここに溢れる詩情、切なさ、時の流れの感触には、紛れもなく優れたSFの感動があります。
 「墓守と風の幽霊たち」では、ある惑星の小さな墓地で、吹く風が墓石に刻まれた模様に触れて渦を巻き、ある種の生命体となって存在するさまが描かれます。そして数百年がたち、この惑星に大きな都市が建設されて大いに栄え、やがて衰退し、千年後には巨大なビルが墓標のように立ち並ぶ廃墟が残される。そこに吹き渡る風は……。
 ちょっとセンチメンタルだけど、わかりやすくて見事な本格SFだといえます。
 他にも笑える話やホンワカとした話、文明批評的な寓話や、心にしみるラブストーリーなど、お話のベースラインはバラエティ豊か。これを一冊にまとめてくれた出版社には感謝感謝です。

 もう一冊は三方行成さんの『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』
 第6回ハヤカワSFコンテストの優秀賞受賞作です。もともとがネット小説として書かれたということと、よく知られた童話や昔話をSF的に再話するという、いかにもSFファンがお遊びでやりそうな内容だけに、ちょっと偏見をもって手にしたのですが、ごめんなさい、傑作でした。
 「地球灰かぶり姫」(シンデレラ)、「竹取戦記」(かぐや姫)、「スノーホワイト/ホワイトアウト」(白雪姫)、「〈サルベージャ〉VS甲殻機動隊」(さるかに合戦)、「モンティ・ホールころりん」(おむすびころりん)、「アリとキリギリス」(アリとキリギリス)の6編が収録されています。初めの方は昔話のストーリーをそのまま追っているのですが、後半になると昔話はモチーフのみで、作者独自の物語となっています。最後の1編には、それまでの話をつなぎ合わせて一つの宇宙を作り上げるような要素も含まれていました。
 はるか遠い未来、人類が肉体を離れて(必要な時には〈具体〉にダウンロードする)トランスヒューマンとなった世界。不老不死が実現し、何でも思うがままの世界。
 その昔、アーサー・C・クラークは、進歩した科学は魔法と区別がつかなくなるといいましたが、それはおとぎ話が現実になる、このような世界のことかも知れません。
 そんな世界でも、人々の間には昔話を思わすようなドラマがあるのです。いずれの物語でも、宇宙の果てから地球を襲い、大きな被害をもたらすガンバ線バーストがその背景に描かれています。
 中では何といっても「竹取戦記」が大傑作。ゆるくてコミカルで、いかにも今どき風の文体に、ハイテクSFやハードSF的な用語と描写がうまく溶け合い、楽しくて胸ときめく、SFファン大喜びなお話となっています。かぐや姫や竹取の翁もいい味を出しているけれど、この話を盛り上げているのは脇役の竹たちでしょう。知能をもって竹取の翁と攻防戦を繰り広げている竹たち。何か愛おしくて可愛いのです。
 「地球灰かぶり姫」も秀逸。多くの人間が肉体を捨てたトランスヒューマンとなった世界で、〈具体〉のまま生きていた少女、シンデレラ。この有名な童話が遠い未来の世界に換骨奪胎され、ハイテク用語で語られていきますが、仮想現実を駆使した豪華な舞踏会のシーンがすばらしい。そして、物語はもちろんハッピーエンド。SF童話のお手本のような作品です。
 これと「スノーホワイト/ホワイトアウト」までの三作は宇宙からのガンマ線バーストが地球に届く前のお話。後半の三作はガンマ線バーストが到達して変貌した地球や太陽系が舞台のお話となっています。前半と後半でかなり趣が変わりますが、軽妙な語り口もあって、どれも楽しく読むことができました。

 海外でも、先にあげたスタニスワフ・レム『泰平ヨンの航星日記』イタロ・カルヴィーノ『レ・コスミコミケ』のように、おとぎ話的なSFは数多く書かれています。暑い夏の夜は、そんなSFおとぎ話を読んで、想像力の翼を広げて見てはどうでしょうか。

(19年8月)


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