ハヤカワ文庫JA総解説 PART2より

 大野万紀

 早川書房「SFマガジン」21年10月号掲載
 2021年10月1日発行


■戦争を演じた神々たち[全] 大原まり子
 日本SF大賞受賞作とその続編を合わせた連作短編集。これは今こそ読まれるべき傑作である。幻想的で黙示録的な、神話的で観念的な、美しくて残酷な、すごいSFだ。銀河に広がった人々。その平和な惑星を意味もなく破壊してまわる圧倒的なクデラの艦隊。それをどこまでも追うキネコキスの天の川のような戦列。そんなイメージ喚起力のある宇宙的な暴力と破滅を背景に、数万年を一気に飛び越え、神話やおとぎ話を再話するような、十一篇の恐るべき物語が語られる。進化し滅んでいく人々の物語。その全体を貫いているのは様々な女性たちの、個人ではなくそのすべての時空連続体を積分したものとしての、美、愛、欲望、憎悪、暴力、死、そして生命力である。ぜひ全部英訳してネットで世界に公開すべき作品である。 (大野万紀)

■第六大陸[1・2] 小川一水
 本書は著者が初めてハヤカワ文庫JAに進出し、星雲賞日本長編部門を受賞した作品である。月面基地開発プロジェクトが国家ではなく、一人の少女の意志によりスタートするという、ある種の夢物語であり、お仕事小説である。プロジェクトを推進するものは間違いなく人の意志なのだから、少女の強い気持ちで宇宙開発が進展するというのもアリだ。ただし、技術者への信頼感の故か、本書にはいい人ばかりが登場し、社会的・組織的側面の描き方はもう一つだといえる。また中には中途半端な挿話もある。それでも少女の夢がプロジェクトを進め、社会の後押しを受けながら様々な困難を乗り越え、人々の目が再び宇宙に向かう。その思いの共有こそが「第六大陸」の意義であり、そこには間違いなく胸を熱くさせる物語があるのだ。(大野万紀)

 2021年7月


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